天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第167話 踏み込んだ実感。


ーーーーーー

  『ベリスタ王国』の首都『リバイル』にある軍部の大本営にて、机の上に大量に積み上げられた資料に目を通しながら、森山葉月は急な計画の前倒しの決定に調整を続けていた。

「まあ、どちらにせよ、早いか遅いかの差ですからね......。それにしても、問題はそこではなく、突然の知らせを聞いた支部に控える兵士達の士気が落ちてしまわないかどうかであると思います......。」

  そんな森山葉月の発言を聞いた副軍帥のポルは、控え目な口調でそれに答える。

「た、確かにそれは危険な事であるのは間違いないと思います......。で、でも、それに関しては問題ないかと思います......。」

  ポルが弱気な口調で発言したその言葉に対して、森山葉月は一度、彼女の方へと視線を向けた。

「それは一体、どう言う意味ですか......? 」

  そう問いかける森山葉月の目力にポルは押されながらも、その理由を目を逸らしつつ答えた。

「最も敵軍の増強が著しい、危険な場所と言われている北の『ガイルス』と、南の『ナミル』とは、部下を通じて密に連絡を取っているのですが、その場所に派遣された『特殊異能部隊』の方々が、有事に備えて予め準備を終えて、いつ出陣になっても良い体制を取ってくれていると言う話を聞いた所です......。」


ーーそれを聞いた森山葉月は、ハッとした表情を浮かべた。


  そんな驚きの表情を浮かべた彼女に対して、ポルは更に続ける。

「それに、それ以外の地域からも連絡が来まして......。『いつでも出陣可能です』って......。どうやら、『特殊異能部隊』の方々が訪れてから、たったの数日で各支部の士気が格段に上がったみたいで......。」

  森山葉月は、ポルの発言の後で、『特殊異能部隊』という存在について、改めて考えた。

  彼女達は、元々国家内にある孤児院の中で、異能』の力が長けている者達で編成された部隊。


ーーそこに、佐山雄二、観音寺桜の二名を指揮に置いて成り立っていた。


  『ヘリスタディ帝国』との戦争が始まってからというもの、二度の戦闘を経験してはいるものの、まだまだ経験不足が否めないはず......。

  でも、彼女達は著しい成長を遂げている。


ーー彼女は理由が、すぐにわかった。


  だって、『特殊異能部隊』の皆さんは、『異世界人』同士の戦闘、つまり、この世界における最上位の戦いを見て来たわけですからね......。


ーーそれに、何よりも......。


  森山葉月はそう考えると、フフッと小さく微笑んだ。

「余程、佐山隊長に報いたいという気持ちが強いのですね......。」

  それを聞いたポルは、同じ様に微笑みながら、こう返答をした。

「それは、私も同感です。彼女達は、佐山雄二さんの部隊に入ってから、精神的にも強くなった様に思えます。だからこそ、後は佐山雄二さんに期待するしかないですね。」

  森山葉月は、それに小さく頷くと、精悍な顔つきになる。

「本当は、私も『英雄』の仲間として共に戦いたいところでしたが......。絶対にこの戦争に勝ちましょう!! 」

  彼女がそう意気込みを口にすると、ポルは大きく頷いた。
  
  そして、森山葉月はそこにいる全員にこう指示を出す。

「それでは、決行が前倒しになった事を、各支部に向けて一斉に報告してください!! それが済んだら、順次『ヘリスタディ帝国』についてもう一度細かく調べましょう!! 佐山雄二さんを、全力でサポートする為にも!! 」

  そんな彼女の言葉に対して、その場にいる全員が大きな返事をした。

  その後で、森山葉月はふと心の中でこんな事を呟いた。


ーー佐山雄二さん、あなたの育てた部下達は、立派に成長をしていますよ......。


ーーーーーー

  俺達は約半日かけて、国境付近の廃村の前を通り過ぎていた所だった。

  その廃村とは、キュアリスが一人、軒を構えていたあの場所だ。

  俺は、その場所が少し見えた時、若干の気まずさを感じる。


ーーこの前の会議の時、森山葉月がサラッとその事を口にしたから......。


  俺は、あの村には他の住民もいるものだとばかり思っていた。

  ところが、実際にそんな事はなく、あの場所はキュアリスのみが暮らしていた事になる。


ーーしかし、彼女はその事実を伏せていた。


  だから、俺もそこには触れぬ様にしていたのだが、今、目の前を過ぎていった廃村を見たキュアリスは、明らかに落ち込んだ顔つきをしていたのだ......。

  俺は、そんなキュアリスの事を見て見ぬ振りをして進む。

  きっと、余り良い話ではなさそうだったので。

  それから暫くすると、俺は星空の綺麗な草原の上に一度、光の軌道を地面に落ち着かせて、降り立ったのだった。
 
  何故なら、遠くに見える国境付近には、警備の為に、敵国の兵士が多く点在していたからだ。

  だが、今のところは夜中の暗がりが幸いして、俺たちの存在に気がついていない。


ーー俺達は、あの兵達を超えない限りは、『ロウディ』になど辿り着けないのだ......。


  すると、それを危惧したのか、キュアリスは心配そうな顔つきをした後で、俺にこう問いかけをした。

「大丈夫なの......? あそこを正面突破したら、すぐにバレちゃいそうだよ......。」
 
  俺は、そんなキュアリスの心配を聞くと、得意げな顔をした。

「その為の策は用意してある。あまり使いたくはない手だがな......。」

  俺はそう呟くと、彼女達にこれから取る行動についての説明を始めた。

  あまり使いたくはない手ではあるが......。

  俺はそんな事を考えながらも、遠くに控える敵軍の数を把握すると、詠唱を始めた。


ーーすると、それと同時に彼らは生気のない表情へと移り変わっていった。


  俺はそれを確認すると、彼らに整列する様に指示を出す。

  それと同時に、彼らは規律良く並び始めたのであった。


「これってもしかして......。」

  キュアリスはそんな彼らの姿を見ると、驚きの表情を浮かべた。

  俺はそれに対して、ニコッと笑った後でこう言って見せた。

「前に、『ヘリスタディ帝国』の連中が使っていた、操りの『魔法』だよ。正直なところ、奴らの視界まで俺の意識に入ってくるから気持ち悪さはあるが......。これで、安全にこの場所を突破出来るだろ? 」
 
  俺がそう問いかけると、キュアリスは狐につままれた様な顔をして、俺にこう言った。

「雄二、やっぱり天才だね......。」

  彼女のそんな発言に対して、俺は少し恥じらいを感じつつも、その状況になった事に安心した後で、皆にこう告げた。

「何にせよ、この状態を続けるのは危険だ。とりあえず、急いで突破するぞ!! 」

  俺はそう言うと、再び光の道筋を作り上げた。

  そして、操られて整列をしている敵軍の兵達を悠々と通りすぎると、俺はその『魔法』を解いて見せた。

  それを境に俺は改めて実感をした。


ーー今、丁度この時、俺達は『ヘリスタディ帝国』の領土に足を踏み入れたのだと......。

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