天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第166話 計画に誤算はつきもの。


ーーーーーー

  オレンジ色のショートヘアの少女は、『ヘリスタディ帝国』の対面にある『サンドリウス』の街中にある一際大きな建物の一室にて、そこにいる数名の人間に対してこんな事を呟いた。

「まさか、『ヘリスタディ帝国』にこんなにも早く情報をキャッチされてしまうとは......。ウチの想定を遥かに超えているもんだ。」

  どうやら、彼女の思惑とは裏腹に、敵国は彼女達の異変に勘付いて来ている様で、『サンドリウス』の街には、警護という名目で大量の兵士が送り込まれたのだ。

  それはつまり、『ロウディ』にいる国王が暗に「見張っているぞ」と言っているのと意味は同様であるのであった......。

  彼女はそんな国王の思惑に気がつくと、その街にいる大勢の『異世界人』に向けて、マジックアイテムを使ってこんな事を指示した。

「予定日を早める事にした。『ロウディ』周辺の都市の者は、二日後の夕刻、一斉に主要施設へと攻撃をかける。心して準備しておけ!! 」

  少女はそう指示を出し終えると、薄暗い部屋のソファの上に勢いよく座り込んで、ため息をついた。

  それを見た同じくオレンジ色の髪をしたパーマの少年は、少し困惑しながらこんな事を問いかける。


「森山軍帥から聞いていた話だと、『英雄候補』が来るのって、一週間くらい先だって言ってたっすよね?! 幾ら『ヘリスタディ帝国』に何かを勘付かれたとしても、それを待たない内に反乱をかけるのって、少しリスクが大き過ぎないっすか?! 」

  そんなパーマの少年の一言に対して、少女は腕を組んだ後でこう答えた。

「それはそうかもしれないけど、このままだと、後一週間以内には全てバレちゃって行動を起こす前にウチらは全員粛清されちゃう可能性が大きい。まだ、国王共はウチらが黒幕だという事に気がついていない様だし。その前に行動を起こさなければ、少しまずい事になるんだよ。それに......。」

  彼女はそう呟くと、少し眉間にシワを寄せた後で、こう続けた。

「どうやら、『ヘリスタディ帝国』はこの一ヶ月以内に、『ベリスタ王国』へ一斉に攻撃をする準備をしているという話が入って来たんだ。だから、葉月には話しておいたが、前倒しに関してはやむ終えないんだよ。後は、佐山雄二を始めとする『英雄候補』が『ロウディ』を攻め込むまで持ち堪えられれば......。」
 
  少年はそんな少女の発言を聞くと、軽く拳を握り締めた。

「まさか、決行の直前で前倒しになるなんて思ってもみなかったっす。まあ、どちらにせよ、今がかなりヤバイ状況って事は理解しやした。とりあえず、早い所、僕も動き出さなきゃっすね!! 」

  彼がそんな事を言って意気込んでいると、少女のマジックアイテムから声が聞こえて来た。


ーー彼女はその声を聞くと、しかめっ面をして小さく舌打ちをする。


  その後で、少年や周囲の者に静かにする様に口の前に人差し指を立ててジェスチャーをすると、その忌まわしき声の張本人に向けて応答をした。

「はい、こちら『ヘリスタディ帝国 サンドリウスブロック ブロック長、錦 麻耶』です。」

  そんな彼女の応答に対して、低く怪しいその声の主は、こう告げた。

「至急、王都『ロウディ』に来い。急遽、重要な会議を開催する事になった。今回は機密事項が多い為、弟は連れて来るな。」

  それを聞いた彼女は、無表情で返事をする。

「了解しました。国王様。一時間で到着致します。」

  麻耶はそう応じると、マジックアイテムを胸元に仕舞った後で立ち上がって、壁に掛けてある軍服を羽織った。

「どうやら、また厄介な事になりそうだな......。まあ、何にせよ、下手したらウチは決行の日まで戻れないかもしれない。それまでは、我が弟『錦 雪弥』、全てを整えておいてくれ。」

  それを聞いた少年は、大きく頷いた。

「まあ、くれぐれも姉ちゃんも気をつけて欲しいっすね。国王は何を考えているか分からない怖い存在っすから......。反乱における作戦においては、僕が整備しておくんで、安心して欲しいっす。」

  麻耶はそんな彼の返答を聞くと、一安心した表情を浮かべてその場を後にした。

「もう少しの我慢だよ......。」


ーーそんな言葉を残して......。


  すっかりと姉がいなくなった後の雪弥は、一つため息をついて、周囲にいる部下に対してこんな事を呟いた。

「姉ちゃんは相変わらず律儀っすね......。この世界に来てすぐの時に、森山軍帥に助けられてからずっと、恩を忘れないなんて......。まあ、それに関しては、僕も大概なんですが......。」

  雪弥はそう言うと、腰掛けているソファから立ち上がって一度伸びをした。

「とりあえず、ここでコケたら僕らは死ぬんすからね......。頑張るっすよ!! この国の実権を元通りに戻す為にも......。」

  彼はそう呟くと、部下である『異世界人』を引き連れて忙しそうにその部屋を後にするのだった。


ーーーーーー

「少し怪しまれている......? 」

  俺は、森山葉月から発せられた『ヘリスタディ帝国』における異変についての説明を聞くと、そんな疑問を口にした。

  どうやら、彼女の話だと、『ヘリスタディ帝国』の地方都市に点在する反乱者に対して、国王は警戒を強めている様であった。

  それ故、計画がバレるのも時間の問題である為、反乱決行の日付を二日後の夕刻まで前倒しにすると言う。

  俺はそんな彼女の説明に対して、頭の中に現在地から第一の目的地である『サンドリウス』までの距離を浮かべた上で、少しだけ狼狽えた。

「それは分かったが、幾ら俺が光の『異能』を使って移動したとしても、余りにも距離が離れすぎている。少なくとも、到着まで三日は掛かるぞ。そうなると、一日の時間差が出てしまう......。そこにいる『異世界人』達は、その差を補えるだけの力を持っているのか? 」

  俺がそう問いかけると、森山葉月は真剣な口調でこう答えた。

「それに関しては、一つ大きな武器となる事柄があるそうなので、彼らは持ち堪えると自負しておりました。私は、それを信用したいです。まあどちらにせよ、反乱が決行された時点で、相手にはこちらの思惑もバレてしまうでしょう......。だから、我が軍の全兵もその反乱をキッカケに総攻撃をかける事になりました。兎に角、あなた方は一刻も早く『サンドリウス』経由で『ロウディ』に攻め込んで欲しいです。こうなってしまっては、時間がありませんので......。」

  俺は、そんな森山葉月の口調から、少しの焦りを感じた。


ーー『ヘリスタディ帝国』の国王が余りにも早く勘付いてしまった事に......。


  だが、俺はそんな彼女の発言に対して、少しだけ気持ちが楽になった。

  もう、コソコソと動く必要がないのだから......。

  後は、敵国にいる『異世界人』達が持ち堪えられるかだけだ。

  森山葉月が言っている『信頼出来る女性』とは、彼女にとって大切な人の一人なのであろう。

  ならば、その女性の考えに沿ってやろうではないか。


ーーそれと同時に、国王を倒してやろう。


  俺は、そんな事を考えると、森山葉月にこう応答をした。

「分かった......。では至急、『サンドリウス』へと向かう。常にマジックアイテムは取れる様にしておくから、また何かあったらすぐに伝えてくれ。」

  俺がそう返答すると、彼女は了承をした。

  それをキッカケに俺は森山葉月との会話をやめると、キュアリス、桜、優花の三人の方を真剣な表情で見つめた。

  すると、三人は俺と同じ様に覚悟を決めた表情を浮かべていた。

  それを見た時、俺は気がついた。


ーーどうやら、俺が心配していた事は、考え過ぎであった事に......。


  既に彼女達は、とっくの昔から決心していた様だ。


ーーこの戦争に身を投じる事について......。


  そんな話、ずっとしていたにも関わらず、どうやら俺は心配し過ぎていたらしい。

  そんな風に俺は、自分の憶測不足を恥じながらも、三人に向けてこう宣言をした。

「どうやら、状況が変わったみたいだ。今からはコッソリとした行動は無しにして、真っ直ぐ敵国を目指す!! 」


ーーそれを聞いた皆は、大きく頷く。


「任せておいて。私はこの戦争に勝つ為に全力を尽くす。だから、雄二はもう悩まずに前だけを向いていいんだよ!! ずっとついて行くから!! 」

  キュアリスは、俺の肩に手を置いて、語尾を強めてそう言った。

  俺は、そんなキュアリスに対して、小さく微笑んだ後で、光の道筋を作り出した。


ーー白く、眩しく煌々と光る......。


  それから、俺はこう呟いた。

「また、俺はみんなの事を誤解していたよ......。じゃあ、死ぬ覚悟で『ヘリスタディ帝国』に攻め込むか!! 」

  俺がそう言うと、三人は威勢良く返事をした。

  それを最後に、俺達は光の道筋の中に入って行った。


ーー待っていろ、国王。俺がお前を倒してやる。


  俺はそんな意気込みの中で、急いで『サンドリウス』を目指したのであった。

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