天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第164話 本能的なところ。


ーーーーーー

  俺達が王宮へ到着すると、もう既に入り口には、案内役の女性が待っていた。

「お待ちしておりました。それでは早速、こちらの方へどうぞ......。」

  その案内役の女性は、淡々とした口調で俺達にそう告げると、王宮の裏口から入る様に促した。

  だが、俺はそんな彼女の様子を見ると、違和感を感じる。

  何故なら、その女性とは少し前、俺と共に元の世界へと向かった、神の使いであるアメールであったからだ。

  そこで俺は、一つお礼を言った後で、王宮内の廊下を進む彼女に対してこう問いかけをした。

「この前の時は、本当に感謝しているよ。でも、お前には色々と聞きたい事がある。何で、この場所で給仕を続けているんだ......? 」

  俺はまず、真っ先に浮かんだ疑問を問い掛けた。

  『崩壊の神』から下された彼女への任務は、『英雄』の証を持った俺が現れた時点で、もう既に完了しているはずだ。

  確かにアメールは、『やるべき事が残っている』とは言っていたものの、この場所に長時間残る意味は全く理解が出来ない。

  それどころか、キャロリール王女の話では、彼女はこれから『軍帥』の役職に就くと言う話を聞いている。

  それと言うのはつまり、神の使いが人間世界に干渉する事と同列の意味になるのだ。

  そんな風に俺は疑問を抱えながらも、彼女から出る答えを今か今かと待っていたのだ。


ーーすると、アメールは暫く黙り込んだあとで、歩く足を止めぬまま振り返りもせずに低いトーンでこう答えたのだ。


「今、その問いには答えられません......。それよりも、あなたも今はそんな事に気を取られている場合ではありませんよね......? 」

  俺は、そんな風に冷静な口調で放たれた彼女の言葉に対して一度、彼女への疑問を無理やり押さえ込んだ。

言われている事は、ごもっともだったから......。

  今、俺は他の事に気を取られている余裕などない。

  これから起きるであろう出来事を想像すると、尚更......。

  そんな気持ちで俺の後ろを歩くキュアリスの姿を見ると、彼女は小さく首を横に振った。

  それを見た俺は、苦笑いをしながらアメールに、こう伝えた。

「確かに、今、この時に問いかけるのは少し場違いだったな......。でも、この戦争が終わった時、全て話してもらうからな。」

  そんな俺の一言を聞いた彼女は、一つの扉の前で立ち止まった後、ゆっくりと俺の方を振り返り、

「分かりました。その時になったら、話しましょう。私がこの国に干渉を続ける事に決めた理由を......。」

と、それに対して大きく頷いた。

  そして、その後ですぐにアメールは再び扉の方を向いてこう言った。

「それでは、内部にはキャロリール王女殿下を始めとした国家の要人の方々がお待ちしております。『出発式』にご参加ください。」

  彼女はそう言うと、三つノックをした後で、ゆっくりと扉を開いた。

  中に見える奥行きのあるシャンデリアの吊るされたその場所に俺達が足を踏み入れた時、内部では拍手が聞こえてきた。

  俺はそれに後押しされる様に周囲を確認する。


ーーすると、俺達が入った扉の中から見える大きな部屋の両端には、貴族や大臣などの要人が拍手を送っていた。


  そして、扉から真っ直ぐに伸びる赤い絨毯の一番奥の位置には、一際豪華な椅子に腰掛けるキャロリール王女が小さく微笑みながら俺達を見つめていた。

  それを見た俺は、一度その場で立ち止まる。

  そんな俺達に対して王女はこう告げたのだった。

「そんなに緊張する必要はない。とりあえず、前まで進んで来い。」

  それを聞いた俺達は、自然と足並みを揃える様にして、キャロリール王女の手前の位置まで近づいた後で、膝をついて頭を下げた。


ーーこの国のしきたり通りに......。


  すると、キャロリール王女はそれに対してにこやかな笑顔で俺達にこう告げる。

「面を上げよ。」

  俺はそんな彼女の言葉の後で顔を上げた。

  王女はそれを確認すると、その場にいる全ての者に向けて静かにこう告げる。

「それでは、皆が揃ったところで『出発式』を始めたいと思う。佐山雄二を始めとした四人には、『ヘリスタディ帝国』王都へと攻め込む事を命じる。これは、我々王家による勅令だ!! 」

  それを聞いた周囲の者達は、賞賛の歓声を上げた。

  俺は、それを聞いた時、少しだけ緊張をする。


ーーこれは、国家行事なのだから......。


  それから彼女に赤い勲章を受け取ると、俺達の『出発式』は滞りなく終わって行った。


ーー只、淡々と......。


  しかし、その式典に関しては、世間の者には知らされていない。

  何故ならば、この総攻撃の足枷となる俺達の出兵は、事を起こすまでは決して表に出ない事柄であるからだ。

  だからこそ、『出発式』は手短に行われた。

  それから俺達は王宮を出る前に森山葉月の元へ訪れた。

  出発に際する最後の詰めをする為である。

  それに関しても、敵国にいる諜報部からの報告から、以前議論した通りに進める事で話は纏まった。

  そして、去り際に、森山葉月はこんな事を口にした。

「これからが本当の戦いになります。国家の方も、全力で挑むつもりでおりますので、どうか、余り肩肘を張りすぎない様にお願いしますね......。」

  俺は、そんな彼女の言葉を聞くと、こんな気持ちにさせられる。

  これだけの国家戦略の重要な位置にいて、『肩肘を張るな』なんて、無理に決まっているだろう......。

  そんな事を思いながらも、俺はそれに頷いた。

  そして、秘密裏にという事なので、送迎も歓声もないままに、俺達は首都『リバイル』を去って行った。


ーー何も気づく事なく笑顔を見せる国民を横目に......。


ーーーーーー

  『リバイル』を離れてから数時間歩いて草原を越え、目の前に山が見えてきた辺りで、俺はみんなにこう声をかけた。

「余り目立つのは良くないと言われていたので、ここら辺まで歩いて来たのだが、そろそろ光の『異能』を使って『メルパルク山脈』の手前の辺りまで移動しようと思う。」

  俺がそう提案をすると、彼女達は一瞬ビクッとした後で、困惑した表情を浮かべながら取り繕い、それに頷いた。

  そんな三人の姿を見ると、俺はその理由をすぐに理解する。

  それは、王宮にて『出発式』を行ってから、今までの間、俺達はまともに会話をしていないからだ。

  首都を過ぎてからも、俺達は黙ったまま足を進め続けた。


ーー普段は明るい桜すらも......。

 
  だからこそ、そんな俺の一言に対して驚くのに無理もない。

  幾ら口で緊張を和らげようとしても、決してそれは解ける事はない。

  そんな事は、俺自身もよく分かっていた。

  それに、何よりも俺自身は三人にどう声をかけて良いのかすら分かっていなかったのだ。


ーー悶々とした気持ちだけが頭の中で堂々巡りを繰り返す。


  その数時間は、俺にとって永遠にすら感じる程、耐え難い時間であった。


  そんな事を思いながらも、俺は一度立ち止まると、右手を山の方へかざした後で、若干空間に歪みがあるものの、ほぼ透明な一本の道筋を作り上げた。

  極力目立つ事を避ける為にも、光の『異能』を最大限に暗く設定した結果、その輝きは消え去って透明に近い色となったのだった。

  しかも、それは俺達の存在をも歪ませて、俺達が行く姿も残像の様なぼんやりとした存在に変えられるのであった。


ーーだが、油断する事は禁物である。


  だから、数時間歩いたその場所から発動する事を良しとしたのである。

  それから俺は、すっかりと透明な道筋を作り上げた後で、みんなにこう言った。

「それでは、とりあえずこれから道筋を頼りに進んで行く。とりあえず『メルパルク山脈』に到着した所で一度、森山葉月に連絡を取る手筈になっている。まずはそこまで頑張ろう。」

  それを聞いた優花は、その場の雰囲気を打開しようとしたのか、取り繕う様に一度咳払いをした後で、『邪神』キャラを演じながらこう答えた。

「こ、これからが魔界への第一歩なのだな......。ならば、内に秘めたサンクチュアリーを解放しなければ......。」

  だが、彼女のそんな発言は、誰の耳にも届く事なくそのまま空中分解して行った。

  どうやら、キュアリスも桜も、何かを真剣に考え込んでいるみたいで、聞こえていない様だった......。

  そんな二人の対応に対して、優花は顔を真っ赤にした後で涙目になって、俺の二の腕の辺りにしがみつきながら捨てられた子犬の様な表情を浮かべていた。

  俺は、それに対して苦笑いをして、優花の頭を撫でた。


ーーそれを終えると、俺はもう一度、透明な道筋の方へ体を向け、皆にこう告げる。


「では、進むとしようか......。」

  それを音頭に、俺達は高速で移動した。

  まるで、今まで歩いて来た時間を逆行して行くかの様に速いスピードで。

  俺達は今の所、予定通りだ。このまま順調に事が進めば良いと強く思う。


ーーでも、一つだけ気がかりな事がある。


  それは、俺達四人を取り巻く余りにもぎこちない空気だ。

  あれだけ四人で勝利を誓っても、それが実行に移された時、人は必ず心配事を探す生き物だ。

  その本能的な所は、俺自身も強く感じている。

  それが今後の作戦の上で仇にならなければ良いのだが......。

  そんな事を考えると、俺はまた一つ心配事を増やしてしまったのであった。


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