天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第162話 王女と軍帥の思惑。


ーーーーーー

  その部屋にいる要人の全ては、相変わらず物々しい雰囲気で俺達を凝視していた。

  その間、誰も言葉を発する事も無く、只、張り詰めた空気と沈黙だけが辺りを支配する。


ーー俺は彼らから向けられる視線に対して、俯く事しか出来なくなっていた。


  そんな時、雰囲気に耐えられなくなったのか、キャロリール王女は口を開く。

「ど、どうやら、通夜の様な空気になってしまったな!! これでは、何も事が進まん!! とりあえず、『軍帥 森山葉月』よ!! 今回の戦争における概要の説明を頼んでも良いか?! 」

  王女がそう場の空気を打開しようと森山葉月の方に視線を移した後で提案をすると、彼女はそれを待っていましたとばかりにお辞儀をした後、ゆっくりと立ち上がった。

「まずは、今回の総攻撃に関する概要から説明を始めたいと思います。」

  彼女はそう言うと、長テーブルの先にある黒板の方へと歩いて行った後で、一枚の大きな地図をそこに貼り付けた。

  その地図は、俺がこの前に見た地図とは違い、隣国で敵国『ヘリスタディ帝国』までが写し出されていて、相変わらず国境付近には囲む様にして赤い点がある。

「以前にも報告した通り、今、敵国は我々の国境を包囲しております。その対策に関しては、我が軍に在籍する幹部級の精鋭、並びに『特殊異能部隊』の派兵によって万全の体制を取る事が出来ております。」

  それを聞いた国務大臣の『グレゴリイ』と言う男は、少し焦った様な表情を浮かべた。

「ならば、首都まで攻め込まれる確率はグッと下がる訳だな。だがしかし、もし仮に何かの拍子で侵攻を許してしまった場合は......。」
 
  グレゴリイがそう不安を口にすると、森山葉月は彼の方をじっくりと見た後で、それに答える。

「それに関しては、問題ありません。何故なら、首都から近しい都市には、最高戦力であるバラドレアス、ニルンド、センドルの三名とその部下が、有事に備えて警戒網を張っておりますので、何か起きた際は、早急に対処してくださるでしょう。それでもダメであった場合、首都には『最終兵器』となり得る方がおりますが......。多分、そこまで辿り着くことはないと思います。」

  そんな森山葉月の発言を聞くと、グレゴリイは一安心をする。

  それに続く様にして、各大臣達も胸を撫で下ろしていた。

  俺は、その『最終兵器』について少し気になった。

  だがそれ以上に、話を聞いている中で、彼らが国の民を思ってその様な心配をしているわけではない事に、少しだけ苛立ちを覚えた。

  丸々と太った大臣達は、自分の保身を考えている事がすぐに分かったから......。


ーー何故、こいつらはこんなに自己中心的なんだ......。


  そんな風に俺が腹立たしい気持ちで震えていると、隣に座るキュアリスが、膝の上で握りしめる俺の手を掴んだ後で、首を横に振った。

  俺はキュアリスの制止で我に返り、再び森山葉月の説明に耳を傾ける。

「それでなのですが、その兵達が総攻撃を起こすきっかけとして、『特殊異能部隊』隊長である佐山雄二さん、並びに、観音寺桜さん、それに、『聖騎士』キュアリスさん、そして、水の使い手である『異世界人』佐山優花さんの四名に『ヘリスタディ帝国』の王都、『ロウディ』へと攻め込んでもらいます。」

  彼女はそう言った後で、敵国の首都『ロウディ』を指差した。

  『ロウディ』までの道のりは、国家の西部に位置する『メルパルク山脈』を越えた後で、暫く続く平坦な草原を抜け、国境に位置する廃村を抜けた先に広がる『ヘリスタディ帝国』から数百キロ離れた場所に位置するらしい。

  だが、問題点は敵国に入ってからだ。

  『ヘリスタディ帝国』には、王都を目の前に囲む様にして軍事特化の都市が四つある。

  しかもそこには、多くの『異世界人』が常に警備に当たっており、ここを潜り抜けるのが第一の難関になると言う事だ。

  俺はそんな彼女の話に、手を上げて問いかけた。

「だが、こちらはたったの四人で、本当に突破出来るのか......? それに、もし突破出来ても、王都にすぐ伝わってしまっては......。」

  彼女は俺がそう質問をすると、もう一度周辺都市を指差した後で、微笑んだ。

「はい、普通に考えれば苦戦を強いられるのが当たり前かと。でも、私がこの世界に転移してから数年間、『ヘリスタディ帝国』に工作を続けて来たので......。今や周辺都市の『異世界人』の半数以上は我が国の協力者となりました。そこには一人、頼れる女性がいます。彼女には攻め込む事をお伝えしておりますので、あなた方は混乱に乗じて『ロウディ』目指して頂けると有り難いです。」

  サラッととんでもない事を言った森山葉月に、俺は驚きを隠せない。

「そんな事を......。」

  俺がそう呟くと、森山葉月は笑顔でこう答えた。

「伊達に神の使いと旅をして来た訳ではありませんので......。」

  そんな彼女の発言に、俺は更に驚愕の表情を浮かべた。

  すると、その会話を遮る様に、キャロリール王女は挙手をした。

「だがな、国王を含めた主要な敵の強さが分かっていない以上、勝算は未知数なのではないか?! 」

  彼女が声を大にそんな質問をすると、周囲は騒めき出す。

  だが、そんな事を気にしない森山葉月は、ニコッと笑いながら一瞬俺達の方を見た。

  その後で、再び王女の方に視線を戻して、自信ありげな口調でこう言ったのだ。

「それに関しては、少しの不安もありますが、先日述べた通り、今回の作戦で失敗をしてしまった場合、この国は崩壊する事が容易に想像出来ます。ですが、そんな時、救世主として現れたのが、『英雄』の資格を持つ佐山雄二さんと、仲間の三名なのですよ。この機会を逃してもよろしいのですか......? もし仮に、今、頼らなければ......。」

  それを聞いたキャロリール王女は、乱暴に座った後で、

「ならば、賭ける他ない訳だな......。」

と、渋い表情を浮かべながら答えた。

  すると、周囲は再び騒めき出す。

  どうやら、俺が『英雄』になる資格を持っている事を、彼らは初めて知ったらしい。

  そして、その後で全員が歓声を上げた。

「そうですな、軍帥!! 正直なところ、肝心の『ロウディ』まで攻められないのでは、と考えていたのでな!! 」

とか、

「正直、絶望していた所だが、『英雄』とあれば心強い事極まりない!! 」

などと、大臣からは俺への賞賛の声が続いた。

  そんな皆の様子を眺めながら、キャロリール王女はご満悦な顔をしている。

  俺は、それを見た時、思った。

  前にも話した通り、王女は俺が『英雄』になる資格がある事を知っていた。

  しかし、先にそれを話したところで各要人達が首を縦に振るとは限らない。

  だからこそ、この重要な会議の中で、その事実を公表したのだ。


ーー森山葉月と口裏を合わせて......。


ーーーーーー

  それから会議に関しては、順調に進んで行った。

  やはり皆、国家が窮地にある事を俺以上に理解しており、今回の戦争に対して積極的な意見交換が行われた。

  各支部への伝達の徹底や、有事の際の避難勧告、それに加えて俺達が取る行動の日程まで......。

  気がつけば、その会議は朝方まで続いた。

  ふと、桜を見るともう既にテーブルに体を預けてぐっすりと眠っていた......。

  そして、全ての調整が終わった時、森山葉月はこう宣言をした。

「それでは、今回の総力戦における会議は、これをもって終了させて頂きます。佐山雄二さん達に出発して頂くのは、三日後の早朝になります。それまでに、大臣の皆様、軍の幹部の方々には、万全準備をお願い致します!! 」

  森山葉月の言葉によって、長く続いた会議には終止符が打たれた。

  俺は、長時間続いたその会議に眠気を一つも感じずに聞いていた。

  彼女の手筈では、俺達が『ヘリスタディ帝国』の首都『ロウディ』に向かうのは三日後。

  それから、余り目立つ行動はせずひっそりと約一週間かけて敵国の地方都市『サンドリウス』に到着する。

  それから『リバイル』に控える森山葉月にマジックアイテムを通じて一報する事で、その地にいる『異世界人』達が謀反を起こす。

  その混乱に乗じて俺達は光の『異能』を使って一気に首都『ロウディ』へと攻め込む事になった。

  俺は、そんな彼女の説明の中で、森山葉月の凄さを改めて理解した。

  彼女は、たったの一日ほどでこれだけの作戦を考え抜いた。


ーーいや、元からずっと考えていたのかもしれない。


  何にせよ、彼女の手腕に驚かされた事で、俺は森山葉月に対する信頼感が更に深まったのだ。

  それと同時に、彼女がその役職にいる理由がハッキリと分かった。

  俺がそんな風にマジマジと森山葉月を見ていると、彼女はニコッと笑った後で、こう言った。

「遅くまで付き合わせてすみませんでした。これから大変になる事は間違いありませんので、一度施設に戻った後で、ゆっくりと英気を養ってください。」

  俺は彼女の配慮に対して頷いた。

  そして、眠っている桜を背中におぶると、王女に頭を下げた後で、若干疲れているキュアリスと魂の抜けた様な表情を浮かべている優花を連れてその場所を後にした。

  三日後、俺達は見知らぬ地へ攻め込む。

  そんな重圧は、背中に感じる桜の重みに負け消え去って行った。


ーーだって、『特殊異能部隊』皆と、全員で勝利を祝うって約束したのだから......。
 

「天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く