天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第160話 去りゆく仲間達。


ーーーーーー

  前日の軍帥の指令を受けた『特殊異能部隊』の皆は、動揺を隠しきれていなかった。

  流石に自分らが各地に赴いて「その場所で指揮を取れ」などと言われれば、困惑するのは当然の話ではあるのかもしれないが、原因に関してはそこではない様であった。

  あの後、俺と共に行動するキュアリス、桜、優花の三人がそれぞれの『異能』の頂点である事も説明すると、更なる困惑を与えた。

  確かに、俺に関してもまだ余り自覚というものが無いのは事実ではあるのだが......。

  だからこそ、彼女達は少し違うベクトルでのサポートを約束していた。

「隊長殿のおっしゃる事はよく理解しました!! 実際に『ロンブローシティ』で隊長殿が放っていた白く発光する不思議な色の『異能』は、神話に登場する光の『異能』そのものだったのですね!! 私自身も驚いております。ですが、そんな『英雄様』が敵国へ攻め込むとするならば、安心しました!! 心して国防の方に専念したいと思います!! 」

  リュイが嬉々として放ったその言葉を聞くと、逆に俺が少しだけ困惑をした。

  何故なら、確かに俺は強大な力を手に入れたものの、それが何処まで通用するのかは未知数だからだ。

  もし仮に、全てを叩き潰せるほどの力があるのならば、それは安心に値するかもしれない。

  しかし、実際問題は『ヘリスタディ帝国』の国王を始めとした幹部達がどれだけ強いのかも、俺はよく分かっていない。


ーー少なくとも、俺が光の『異能』手に入れる前に苦しめられた大河原悠馬を軽くひねり潰せる程の力を有している事だけは容易に想像出来るのだが......。


  この事については、森山葉月に問いかけてはみたものの、詳細な情報は一切流れて来ないと言っていた。

  つまり、彼らは何らかの事柄を隠蔽しているとの事だ......。
  
  だが、そんな中でも、極めて小さな手掛かりと思われる情報を彼女は口にしていた。


ーー「どうやら彼らは、『ヘリスタディ帝国』の外れにある何かの施設にて何かの儀式を行っているらしいです。ですが、内部への潜入に関しては、幹部以上の者しか入れない様なので......。」ーー


  俺は、そんな彼女の心配事を話した時、少しだけ不安になった。

  だが、その後ですぐに森山葉月は自信を持ってこう言っていたのを思い出した。


ーー「でも、私はあなたの力を信じてみたいのです。どちらにせよ、今回のチャンスを逃せば、この国が占領されてしまうのは、明らかな事なので......。だからこそ、今は『英雄』に全てを託したいのです......。」ーー


  未知数の相手なのにも関わらず、森山葉月の言葉を思い出すと、俺は不思議と不安が消え去って行った。

  そして、第一陣として旅立つ為に準備を終えた『特殊異能部隊』のミルトを始めとした五名を訓練施設の外へと呼び出した後で、海沿いの国境にある地方都市『ナミル』へと送る為に、光の道筋を立てのだった。

  そんな中、まだ少しだけ不安そうな表情を浮かべるミルトを見ると、俺は彼女の肩を叩いた。

「心配するな。お前なら出来るはずだ。今こそ国を守る為に頑張ってくれ!! 」

  俺がそう励ましの言葉を口にすると、彼女は静かに微笑んだ。

「なんか、雄二の顔を見てたら頑張ろうって思えたよ!! 何かあった時の為に、一応言っておくね!! 今まで本当にありがとう!! 」

  俺は、そんなミルトの『一応』と前置きをして放った言葉に苦笑いをした。

「お前、死にに行くわけじゃないんだから......。」

  俺がそう呟いて苦笑いをすると、彼女は最高の笑顔を見せた。

  覚悟を決めたとはいえ、彼女から感じられる哀しみを少しだけ感じ取ると、俺は居た堪れない気持ちにさせられる。


ーーだが、俺はそんな気持ちを打ち消した後で、光の道筋の前に立つと五名に向けてこう言った。


「では、出発しよう!! 次会う時、みんなで勝利を祝福する為に......。」

  俺はそう宣言すると、高速でその道筋を辿ったのであった。

  まるで自分を奮い立たせる様に手を振るみんなを横目に......。


ーーーーーー

  それから俺は、第二陣、第三陣に関しても無事に送り届ける事に成功し、残すはリュイのみとなった。

  他のメンバーに関しては、各支部から要請のあった特に手薄な戦地に対して、必要な人数での補填となったので、複数人による出兵となったのだが、リュイに関しては一番北にある都市の『ガイルス』と言う街の支部長から昨日になって直々に指名が来たのだった。

  その街は、元々軍の人員もある程度整ってはいるものの、相手に『異世界人』が潜んでいる可能性があると言う情報が突然入ったらしい。

  そこで、俺に次ぐ『特殊異能部隊』での指揮官としての実績を持つリュイが急遽指名されたという訳だ。

  突然の指名とあって、彼女も不安を口にはしていたのだが、必死の説得により、彼女はそれを受け入れた。

  そんなリュイは旅立ちの早朝、俺が訓練場の方へ歩いて行くと、まだ暗がりの中で一人鍛錬に励んでいた。

  俺は、そんな彼女に対してこう声をかける。

「朝から熱心だな......。」

  俺が彼女にそう呟くと、彼女は慌てて俺の方へ気をつけをした。

「お、おはようございます! 隊長殿!! 」

  リュイがそう言って振り返った瞬間の表情を見たとき、俺は驚いた。

  何故なら、彼女は泣いていたのだ。

  俺はそんな彼女の表情に対して、こう問い掛けた。

「やはり、不安なのか......? 」

  俺がそう質問すると、リュイは頬を伝う涙を急いで拭った後、うつむき気味にこう答えた。

「いえ......。ただ、皆で共に訓練していた時の事を思い出していたら、少し泣けて来てしまって......。」

  そんな風に答えた後で、リュイは訓練場の風景をじっくりと焼き付ける様にして眺めていたのだった。


ーー俺はリュイの仕草を見た時、彼女達の葛藤や喜び、それに寂しさを強く感じた。


ーー今まで当たり前にいたはずの仲間達から離れ、たった一人、見知らぬ戦地へと歩み行く。


  それは彼女にとって、心細さをの他、何物でもないのであろう......。


ーー『特殊異能部隊』という、唯一の心の支え。


  リュイは、誰もいない訓練場にて、静寂の中で一人、大切な仲間達と一喜一憂してきたあの日々を思い出しているのかもしれない。

  それは、決して俺の踏み込める領域ではない。

  彼女にとって、最も信頼出来る、何でも話せる友は、俺でもキュアリスでもなく、『特殊異能部隊』の皆でしかないのだから......。

  だからこそ、俺はその場を離れた。

  きっと今は、一人になりたいのだろうと強く感じたから。


ーーそして、彼女の後ろ姿を見た時、俺は少しだけ反省をした。


ーーーーーー

  それから二時間ほど過ぎた時、リュイは日課であった朝の特訓を終えた後で戦争に必要な荷物を纏めて訓練施設の入り口にやって来ていた。

  彼女は、先程の涙とは打って変わり、精悍な顔つきで俺を直視していた。

「それでは、わたくし、国の為、誇りの為にも、『ガイルス』にて職務を全うして参ります!! 」

  リュイは新調した軍服を規律良く纏った状態、俺にそう宣言をした。

  そんな緊張感とも捉えられる彼女の立ち振る舞いに対して、桜は一輪の真っ赤な花を渡した。

「桜、リュイの事、本当のお姉ちゃんだって思うくらい大好きだよ!! 戻って来たら、またいっぱい話そうね!! 」

  そんな純粋無垢な桜に対して、リュイは笑顔で花を受け取って詰襟の胸に挿し、こう答えた。

「そうですね、桜殿。全部終わらせた時は、私が好きなだけご馳走致します!! 」

  それを聞いた桜は、上機嫌になっていた。

  その後で、キュアリスは彼女の肩に手を当てて、自信ある口調でこう告げる。

「リュイは、誰よりも努力したんだ!! 私はあなたの強さも知っている!! だから、あっちに行っても、強い気持ちを持って戦ってね!! 」

  そんなキュアリスの激励に対して、リュイは膝をついてお礼を述べた。

「『聖騎士様』、有難いお言葉、感謝申し上げます......。」

  彼女はそう言うと、ゆっくりと立ち上がり、その空間に気を遣って二階の窓から様子を眺めていた優花に、一つお辞儀をした後、俺にこう言った。

「では、隊長殿。私を『ガイルス』まで送って頂けますか......? 」

  俺はそれを聞くと、小さく頷いた。

  そして、光の道筋を北側の方へと空へアーチを描く様に作り上げた。

  それが済むと、リュイにこう告げた。

「では、向かうぞ......。」

  彼女は俺の言葉に対して、ニコッと笑い頷くと、その入り口から物凄いスピードで目的地まで飛んで行った。

  その最中、リュイはあっという間に小さくなって行った『特殊異能部隊』の訓練施設をずっと眺めていたのであった......。

  例えそれが、消えたとしても、ずっと......。


ーー俺はそれを横目に、彼女と同じ様に寂しさに押し潰されそうになる。


ーー賑やかだったあの日々を思い出しながら......。

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