天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第158話 軍帥の決断。


ーーーーーー

  後三時間程で辺りが明るくなる時間帯、俺と優花は『特殊異能部隊』の訓練施設に戻って来た。

  生憎、自分の部屋に二つあるベッドに関しては、キュアリスと桜が使用しているので、俺は優花の為に用意した部屋のベッドを借りる事にした。

  自分の部屋のソファで寝るという選択肢もあったが、彼女達はベッドの上に横たわった途端、幸せそうに眠っていたので足音や物音で起こす心配もあったので......。


ーーしかし、それ以上に......。


「それにしても、ずっと家族だったのに、同じ部屋で眠るのが初めてなんて、なんか不思議だね。」

  優花はほんの少しだけ頬を赤らめながら、そんな事を口にした。

  すっかり中二モードから抜け出して素の大人しい状態に戻っている優花に言われた一言に対して、ベッドに横になった後で、妙な納得をする。

「確かに言われてみれば、その通りだな。血の繋がった家族なのにな......。」

  俺は、そんな事を呟きながらも妙な考えに囚われる。

  今、優花が放った言葉はまさに真理をついているからだ。

  彼女が生まれた頃から、俺は優花と数千回顔を合わせている筈だ。

  だが、一度元の世界に戻って会話をした時、俺は彼女に対して初対面である様な錯覚に苛まれた。

  いや、ある意味それは合っているのかもしれない。

  俺は、彼女の抱える悩みや不安、今どう思っているのかを深く理解しているわけではないからだ。

  俺がそんな風に仰向けになって天井を見上げていると、優花は仰向けの体を俺の方に向けながらこう続けるのだった。

「今の私には、雄二お兄ちゃんの考えや気持ちは、分からない。でも、この世界に来て、これからもっとお兄ちゃんのことを知りたいって思ったから......。」

  彼女のそんな発言に対して、俺は微笑を浮かべた。

「何を、恥ずかしい事を言っているんだ......。」

  俺がそんな風に素っ気ない返事をすると、優花はその理由を話し始める。

「だって、お兄ちゃんが元の世界で言ってくれた、『嬉しかった』って言う一言を聞いた時、思ったの。お兄ちゃんは、私の事を、ちゃんと妹だって思ってくれていたって......。私はあの言葉に救われた。パパやママ、それに弟と離れる事を決めた時、一人ぼっちになった寂しさに押し潰されそうになったの......。その時、初めて自分の犯した罪に気がついたんだ。」

  俺は、彼女の口から出た『罪』と言う言葉について問いかけた。

「『罪』とは......? 」

  俺がそう質問をすると、彼女は、申し訳なさそうな口調でこう答えた。

「雄二お兄ちゃんが孤独と戦って、どんなに辛い思いをしていると分かっていても、私は決して手を差し伸べられなかった。それどころか、話しかける勇気すら持っていなかったの。それって、残酷な話だと思う。お兄ちゃんはそれに対して、自分を責めた。でも、事の発端は私にある。だから、一つだけ言いたい事があるの......。」

  彼女はそう言うと、ベッドに横たえている体を起こして正座の体制を取った。

  俺はそんな優花の動きを見ると、それに促される様に体を起こした。

  そして、彼女はしっかりとこっちを向いた後で、丁寧に頭を下げたのだった。

「今でも、あの時、何も出来なかった自分への罪悪感を感じてる......。本当にごめんなさい。」

  俺は、それを聞くと、彼女の優しさを再認識した。

  だからこそ、先程から感じる彼女の不安を取り除いてあげたくなった。

「お前は、俺にとって大切な存在だ......。だから、もう謝るのは無しにしようぜ。だって、何でも言い合える仲なのが、『家族』ってもんだろ? 」

  俺がそんな言葉を掛けると、彼女はゆっくりと頭を上げた。

  そのあとで、俺に微笑み、こう口を開いたのだった。

「これから雄二お兄ちゃんに何かあった時、必ず私が助けるね。その為に精進もする。」

  それを聞いた俺は、少し嬉しくなって笑った。

「全く......。困った妹だよ......。」

  俺がそう呟くと、優花は顔を赤らめながら、こう言った。

「雄二お兄ちゃん、私を孤独から解放してくれて、本当にありがとう......。」

  その言葉を最後に、俺と優花は眠りについた。

  その日の夜は、安心感ですぐに意識が消えて行った......。


ーーーーーー

「おはよう!! 雄二!! 」

  俺は、鼓膜が破れそうな程に大きな声に反応して、ベッドから飛び起きた。

  その後で、慌てて周囲を確認すると、腹の上で桜が万遍の笑みで俺の顔を触っていた。

  寝起きで何が起こったのか分からない俺は、こんな質問を問いかける。

「いきなりどうした......? 」

  それを聞いた桜は、そのままの体制で得意げにこう答える。

「いつまで寝ているの?! 今、葉月が来て、雄二を連れて来てって言ってたから、ここに来たの!! 」

  俺はそれを聞くと、部屋に置いてある時計を確認した。

  すると、驚く事に、秒針は悠に昼を通り過ぎていたのだ。

  俺は、そんな状況に慌てた。

  幾ら前日に遅くまで起きていたとはいえ、昔から、寝起きだけは良かった筈の俺がこんな時間まで寝ているとは......。


ーーそんな反省をした時、俺はこの一連の出来事がどれだけダメージを与えていたかを理解した。


「分かった。森山葉月には、すぐに準備をするから応接室で待っていてくれと伝えてもらえるか......? 」

  俺が桜にそうお願いをすると、桜は相変わらず嬉しそうな顔で、

「分かった!! じゃあ、早く来てね!! 」

と言った後で、部屋を去っていったのだ。

  俺はそれを確認すると、一度、優花の部屋から自分の部屋に戻って、急いで準備を始めたのだ。


ーーそんな中、窓の外では優花がリュイから体術を一生懸命に学んでいる姿が見えた......。


ーーーーーー

  慌てて準備を終えた俺が施設内の応接室に入ると、ソファに腰掛け、微笑んでいる森山葉月の姿があった。

  俺は、そんな彼女を見ると、謝罪を述べる。

「遅くなって、すまない......。」

  そんな俺の謝罪に対して、森山葉月はニコッと笑いながらこう答える。

「ここ数日は、疲れていたのでしょう。仕方がありませんよ。」

  森山葉月の返事に、俺は一安心すると、彼女にこんな問いかけをした。

  彼女が何を伝えにここまで来たのかは、何と無く分かってはいるからこそ......。

「『ヘリスタディ帝国』に攻め込む算段についての話をしに来たのだろう......? 」

  それを聞いた森山葉月は、小さく頷いた。

「もちろん、その話をしに来た訳ではあるのですが、それに関して少しだけ心配な点がありまして......。」

  彼女はそう呟くと、『ベリスタ王国』の地図をテーブルの上に広げた。
 
  そこには、国境を覆うようにして三十個ほどの赤い印が記されており、俺はそれを見た時、ある事に気がついてしまった。

「もしかして、これって......。」

  俺がそう呟くと、森山葉月は少し苦笑いを浮かべながらこう答えた。

「そうです......。昨日、各地に点在する我が軍の支部に国境付近の調査を行ってもらいました。その結果、この印は全て敵軍が控えていると思われる場所を示しています。つまり、『ヘリスタディ帝国軍』は、いつでも本土を攻め込める様、秘密裏に部隊を送り込んでいたのですよ......。完全に後手に回ってしまいました......。」


ーーその時、俺は思った。


ーーこの戦争は、俺一人では終わらせられない事に......。


  只でさえ離れている国境の敵を、一つ一つ潰していくなど、途方も無い作業となってしまう。

  それどころか、そんな行為を起こした途端、すぐに敵国に見つかり、責められてしまうであろう......。

すると、森山葉月は真剣な表情を浮かべた後で、口を開いたのだった。

「こうなってしまった以上は、相手に余裕を持たせない為にも、一遍に戦争を終わらせなくてはなりません......。よって、私は『軍帥』として最後の大仕事をする事を決意しました。」

  俺はそんな神妙な表情の森山葉月の言葉の後で、恐る恐る問いかける。

「と言うことは、つまり......。」

  俺の言葉の後で彼女は、ハッキリとした口調でこう宣言したのだった。

「はい。あなた方が『メルパルク山脈』を経由して『ヘリスタディ帝国』へ攻め込むのを合図に、各支部の兵達にも一斉に国境に控える攻撃を開始します。つまり、『ベリスタ王国』全戦力により決着をつけます!! 」

  俺は、そんな森山葉月の宣言に納得をした。

  今、敵国を攻めねば、この戦争は敗北の一途を辿ると......。

  だからこそ、俺は俺のやるべき事を全うしようと決意した。


ーー未だ見ぬ『ヘリスタディ帝国』の国王を倒すという、重大な任務を......。

「天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く