天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第157話 優花の不安。


ーーーーーー

  『特殊異能部隊』訓練施設内の宿舎にて、各々が自分の部屋で寝静まった頃、俺はキュアリスを桜を寝かした後で、手にほんの少しだけ灯した光の『異能』を頼りに施設の入り口を目指していた。

  余り大っぴらに光を放つと、皆を起こしてしまう事を心配しながら......。

  そして、その入り口に辿り着いた時、俺の目の前には先程のテンションとは打って変わって、落ち込んだ表情を浮かべる優花の姿があった。

「いきなり呼び出すなんて、どうしたんだ? 」

  俺はそんな雰囲気の彼女に対して、そう問いかける。

  すると、優花は俯き様に暗い口調でこう言った。

「この世界に来てから、まともに話をする機会が無かったから......。」

  彼女はそんな風に泣きそうな表情を浮かべると、俺の背中を押しながら施設の外へと誘った。

「悩みがあるのか......? 」

  俺がそう問いかけると、彼女はこちらを見る事なく下を向きながら小さく頷いた。

  そんな彼女に対して、俺は何も言う事なく真っ暗な街へと足を進めた。


ーー只でさえ、非現実的なこの世界を......。


ーーーーーー

  俺と優花は、暫く沈黙の中でただひたすらに歩き続けた。

  だが、不思議な事に優花は何処か目的地があるかの如くしっかりとした足取りを見せている。

  俺は、そんな彼女に口を開いた。

「何処かに向かっているのか......? 」

  彼女は俺の問いかけを聞くと、何も言う事もなく、小さく頷いた。


ーーその言葉を最後に、また足音だけが響き渡る......。


  しかも、彼女の向かっている先は、首都の中心地から遠ざかって行っている気がするのだ。

  そして、彼女は首都の門を潜り抜けると、『リバイル』の王宮が小さく見える辺りまでやって来た時、草原の奥にある何も植物の生えていない場所で立ち止まった。

  その後で、彼女はこう呟く。

「私は、本当にこの世界に来るべき存在だったのか、分からなくなるの......。だって、みんなと違って戦った訳でも無ければ、何処かに所属している訳でもない......。それに、何よりも私なんかが本当にみんなを、いや、世界を守れるの......? 」

  俺はそれを聞くと、彼女が真に俺を呼んだ理由が分かった。

  優花は、自分自身に疑いを持っている。


ーーいや、周囲との間に見えない距離を感じているのかもしれない......。

  
  俺は、そんな彼女の言葉に、ふと、転移したばかりの事を思い出した。

  自分がどこに居るのかも分からず、只、彷徨い続けたあの日......。

  何故、俺はここにいるんだろうと自問自答を繰り返した。

  優花はあの時の俺に似ている。

  そんな事を考えていると、優花は全身から水のオーラを作り出した。

「だからこそ、雄二お兄ちゃんには、ハッキリと判断をして欲しい。私が今後、世界を救う上で、必要なのか、必要じゃないのか......。」

  俺は、それを聞くと彼女の心の奥から滲み出る不安に胸を痛めた。

  もしかしたら、俺が『特殊異能部隊』と話をしていた時、そんな気持ちにさせられたのかもしれない。


ーー『水源の使』......。


  神から与えられたその称号に関しては、俺自身も疑いを持ってしまう。

  何も知らない優花なのだから......。

  俺はそう考えた後で、不覚にも少しだけ興味が湧いた。

  優花がどの様な力を持っているのかに......。

  だからこそ、そんな優花の提案に俺は頷いた。

「分かったよ......。お前がそこまで言うのなら、俺がこの目で判断をしてやる。」

  俺がそう答えると、優花は生唾を飲み込んだ後で、真剣な表情になった。

「キュアリスから『異能』のいろはに関しては教えてもらったよ。だから、これから先は、私自身の実力次第......。」

  彼女はそう呟くと、自分の体のオーラを更に広範囲に広げた。

  その規模は、半径五十メートル程にまで広がり、少し離れた所に控える俺の近くまで到達をした。

  正直な所、その時点で俺が彼女に下す答えは出ていた。

  これだけの規模の『異能』を持った人間が、『使えない』などと判断されるのは、まずあり得ないから......。

  そんな風に驚く俺を、優花は気にも留めずにオーラを変形させ始めた。


ーー彼女がその作業に取り掛かると、次第に水のオーラは生き物の形になって空に延びて行く。


  そして、そのオーラが形を成した時、俺は更に驚愕をした。

  何故なら、優花が変形させたそれは、全長百メートル程の龍の形となって、見事なまでに青々と輝き、空を悠々と泳いでいたのだ......。

  そんな風に、優花は完璧にその青い龍を作り上げると、泣きそうな顔で俺の方を見つめた。

「やっぱり、私じゃダメかな......? 」

  俺は、そんな優花の弱々しい一言を聞くと正気に戻って、彼女の元へと駆け寄って行った。

  俺が一歩一歩近づいて行く度に、優花が不安に押し潰されそうになるのが分かる......。

  そして、俺が彼女に辿り着いた時、真剣な表情でこう答えた。

「俺は、こんなに凄い水の『異能』を見るのは初めてだ......。」

  俺がそう彼女の両肩を持って伝えると、優花はまだ不安そうに問いかける。

「お世辞じゃない......? 」

  そんな彼女の発言に、俺は首を大きく縦に振る。

「当たり前だ。やはり、お前は間違いなく『水源の使』だよ......。」

  俺がそう彼女を褒め称えると、優花はやっと安心した様で、青い龍を体に戻した後で、小さく微笑んだ。

「本当に良かった......。これから足手まといになって、みんなに迷惑を掛けるのだけは、絶対に嫌だったの......。口では大きな事ばかり言ってしまうけど、本当は......。」

  俺は、そんな彼女の頭を撫でた後で会話を止め、明るい口調でこう言った。

「これからも、宜しくな。一緒に世界を救おうぜ!! 」

  それを聞いた優花は、ニコッと笑う。

  安堵の気持ちからか、今まで見た事がない程に、明るい表情をしていたのだ......。

  俺は、そんな妹の姿を見ると、心の中で誓いを立てた。

  すれ違った時期が長かったが、これからゆっくりと、本当の意味での兄になってやろう......。

  そう思うと、俺は街の方へと歩き出してこう言った。

「じゃあ、夜も遅いし帰るか!! 」

  それを聞いた優花は、

「うん......。」

と、控え目な口調で言った後、俺の後ろを歩いて行った。


ーーそんな時、俺はまた少し、妹と心が通った気がして、嬉しくなった。

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