天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第156話 二度目の失敗。


ーーーーーー

  すっかりと帰還の儀式を終えた俺達は、再び晩餐会へと参加する為に、会場へと向かっていた。

  俺に関しても、流石に二度目ともなると、ある程度の流れという物を理解していたので、前回よりはぎこちなさが減ったと自負できた。

  俺がそんな風に自分を褒めていると、キュアリスは、にこやかな表情でこう言った。

「雄二、今回はしっかりと帰還の儀式を済ませられたね。本当に良かったよ!! 」


ーー俺は、そんな彼女のお褒めの言葉を頂戴すると、この後に控える晩餐会での彼女を懸念した。


  キュアリスは、酒を飲むと豹変する。

  別に、迷惑をかける程のものでは無いのだが、俺は正直なところ、心ここに在らずな状態にさせられる。

  彼女のスキンシップの多さに動揺すらのは、もう嫌だから......。

  そう考えた上でキュアリスを苦笑いで見つめていると、彼女はあまりピンと来ていない様子なのか、首を傾げていた。

  俺はそんなキュアリスに、一つため息をつくと、そのまま会場へと足を踏み入れた。


ーー食欲でウズウズしている桜を横目に......。


ーーーーーー

  晩餐会がキャロリール王女の音頭によって始まると、その中の王家や貴族、それに、軍人までもが相変わらず盛大に宴会を始めた。

  酒盛りもさる事ながら、食事に関しても余り上品ではない食べ方をしていた。

  円卓の向かいにいる桜は暴飲暴食、少し遠くでは、リュイやミルトは王女と飲み比べ、優花はそこら中で中二病な発言を繰り返している。

  それに加えてニルンドに関しては、日本に行った時の土産話を貴族に対して嬉々と語っている......。

  俺はそんな混沌とした状況を眺めつつ、キュアリスが酒を口にしない様、隣に座り時折、注視していたのだ。

  流石に、泥酔して貰っては困ってしまうので......。

  そんなことを考えながらも、テーブルの隣にいるキュアリスに対して、こう呟いた。

「全く......。前回も思っていたのだが、この国の晩餐会とやらには相変わらず慣れないな......。余りにも陽気すぎて......。」

  俺は、会場を見回しながらそんな事を口にしたものの、キュアリスからの返答は一切ない。

  その時、俺は少し嫌な予感がした。


ーーまさか......。


  そう勘ぐりつつ、恐る恐る隣の方に目をやると、そこには、不敵な笑みを浮かべて、顔を真っ赤にするキュアリスの姿があった。

  手元には証拠物の真っ赤なワインの入ったグラス......。

「誰が陽気だって~?! 」

  彼女は体を左右にフラつかせながら、虚ろな目で俺にそう問いかけた。

  俺は、それを見た時、大きな失敗に気がつく。

  キュアリスは、俺が少し目を離した隙に、いつの間にか酒を飲んでしまっていたのだ......。


ーーこいつ、完全に酔っている......。


  俺はそれに気がつくと、冷や汗をかきながらその場を去ろうとおもむろに立ち上がり、後ずさりをした。

  すると、顔を真っ赤にして目の座っているキュアリスは、そんな俺の事を見ると、両手を力強く掴んだ後で、大きく口を膨らませた。

「雄二!! 今、逃げようとしたでしょ!! 」

  キュアリスの叫び声に対して、俺は目を逸らしながらこう答えた。

「い、いや、そんなつもりは無いのだが、とりあえず用を足しに行こうかと......。」

  俺がそう力のない声で呟くと、キュアリスは高笑いをした後で、

「じゃあ、私もついて行って差し上げます!! 大丈夫!! ちゃんとトイレまで送り届けるから!! 」

  何が大丈夫なんだよ......。

  いや、この場において一番大丈夫じゃないのは、お前だからな......。

  俺はそんな風に思いながら、諦めた気持ちで再び席に腰掛け、

「いや、やっぱり平気そうだ......。」

と、ため息をついた。

  すると、キュアリスは再び口を膨らませて俺の事をつねった。

「嘘をつくのは、良くないんだから!! 」

  彼女はそう怒りを口にすると、俺の右腕を力強く掴みながらニヤニヤとした。

「もう、これで逃げられない!! 」

  虚ろな目で、そんな事を言いながら......。

  俺は、二度も同じミスを犯した。

  キュアリスが飲酒する事を食い止められなかった事、それに加えて、監視するつもりが監視される立場になってしまった事......。

  円卓の向かいで平然とその様子を見ている桜は、一瞬ニヤッと笑った。

  そこで初めて、いつも俺の隣に引っ付いている桜が、少し遠くにいる理由が分かった。

  それは、酔ったキュアリスからの熱い抱擁から逃げる為だったのだ......。

  俺はそれに気がつくと、少し憎らしげに桜を睨んだ。


ーーその直後にキュアリスは涙目になった後で上目遣いになり、俺に抱き着きながらこう言った。


「なんで、私に構ってくれないの?! 」

  俺は、そんな彼女に一瞬だけグッと来るものがあった。

  だが、すぐに冷静さを取り戻す。

  何故なら、ここにいるキュアリスは酒の作用がもたらした虚像でしかないのだから......。

  俺はそう考えた後で、この晩餐会における彼女の面倒を見る事を、渋々誓ったのだった。


ーーーーーー

  真夜中になった頃、やっと長い宴会は終了した。

『特殊異能部隊』訓練施設までの帰り道では、皆が良い雰囲気で酔っ払っていて、その場でしゃがみ込む者もいれば、陽気に歌なんかを歌っている者もいる。

  そんな中、俺だけは青ざめた表情を浮かべていたのだ。

  あの後もずっと、執拗なキュアリスのスキンシップに耐え続けた。

  本来ならば嬉しい事案なのかもしれないが、その時の俺にとっては、うんざりの他なんでもなかったのだ......。

「はあ......。疲れた......。」

  俺がそんな事をボソッと口にすると、すっかりと中二病トークを決め込み、『異世界人』として持て囃されていた優花は、上機嫌で俺に向け、こんな事を言った。

「ククク......。どうした、カオスブレインよ、お主は何故に、その様に弱っておるのだ......? 」

  いや、日本に転移した時に命名された『カオスブレイン』とか言う滅茶苦茶かっこ悪いニックネームは、まだ続いていたのかよ......。


ーー俺は、そんな邪神満載の優花に対して、ため息をつきながらこう答えた。


「この状況を見て、何もわからないのか......? 」

  それを聞いた優花は、俺が背中に負ぶっている顔が真っ赤なキュアリスの寝顔を確認すると、一瞬真顔になった後で、再び中二な演技を続けた。

「なるほどな......。このディープワールドにおける最大の敵との死闘を制した事、大義であったぞ!! 」

  優花から発せられる恥ずかしい言葉の数々を聞くと、俺は一層疲れが増した。

  部屋に戻ったらすぐにでも眠りにつきたいと......。

  そんな気持ちで俺がいると、優花はいきなりモジモジとし出した後で、何か言いたげな表情を見せた。

  それに対して俺は、一度問いかける。

「いきなり大人しくなって、一体どうしたんだ? 」

  俺の質問を聞いた優花は、その後で数秒間口を紡いだ。


ーーそして、静かに口を開く。


「い、一度施設に戻った後で、わ、我がダークネスブラザーであるカオスブレインには、施設の入り口まで来てもらいたい!! 」

  俺は、そんな優花の発言に対して、首を傾げた。

  いや、こんな真夜中にどうしたんだと......。

  その理由がよく分からぬまま、優花の誘いを受け入れた。

「いきなりどうしたのかは分からないけど、とりあえずキュアリスと桜の事を寝かしたら行くよ。」

  それを聞いた優花は、一瞬だけ嬉しそうな表情を見せた。

  だが、その後ですぐに中二病ポーズを取って、

「では、来たる時まで待っておるぞ......。カオスブレインよ......。」

と言った。俺はそれに頷くと、再びため息をついた。

  まあ、それにしても、妹が兄にわざわざ呼び出す様な用事なんてあるか......?

  俺はそんな事を考えながらも、暗がりの中で遠くに見えて来た施設に視線を移すと、少しだけ小走りをするのであった。
 

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