天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第155話 敵わない相手。


ーーーーーー
 
  『特殊異能部隊』内にある訓練施設に戻った俺は、非常に驚かされた。

  俺が王宮に残り、森山葉月との話を終えて戻った時間には、全員が支度を終えて疲れた体に鞭を打つかの様に訓練に励んでいたからだ。

  それは、ここ数日間で起きた戦闘が嘘であるかの様に各々が必要な精進をしていたのだ。

  だが、俺は彼女らの顔を見た時、その理由をすぐに理解した。

  『特殊異能部隊』の皆は、全員が無念の表情を浮かべていたからだ......。

  俺は、その顔から滲み出る『悔しさ』の原因が何であるかすぐに分かる。

  それは、森山葉月によって戦地から逃がされた事に起因するのであろう......。

  だからこそ、彼女達はこの施設に戻ってすぐの状況にも関わらず、必死に自分の弱さを埋めようとしているのだ。

  そんな皆の様子を見た後で、まだ俺の存在に気がつかない彼女達に向けて、俺は声を掛けた。

「みんな、今戻ったぞ!! 」

  俺がそう叫ぶと、真っ先に気がついたミルトは、俺の元へと駆け寄ってきた。

「遅かったね......。それほど大事な話をしていたのだろうけど......。」

  彼女は息を切らしながらそんな言葉を俺にかけた。

  俺はそれに対して、一度周囲に視線を移した後で、彼女に向けて心配を口にした。

「まだ、戻って来たばかりだろ......。もう少し体を休めてからの方が良いのではないかと......。それに、今日はこれから帰還の儀式や晩餐会が控えているしな。」

  それを聞いたミルトは、哀愁の漂う笑顔を見せた後で、こう呟いた。

「それじゃダメなんだよ、私達は......。あなた達、『異世界人』と肩を並べる為には、努力が必要なんだ。」

  俺は、そんなミルトの発言に、強い劣等感を感じた。


ーー『特殊異能部隊』に所属する者達は皆、行き届いた統率が取れている。

  
   それに加えて俺なんかの数倍の努力だってしている。

  厳密に言うと、俺が全力で『異能』の訓練に励むと、この施設が崩壊しかねないのだが......。

  だが、彼女達が『ロンブローシティ』で目の当たりにした、『異世界人』達との間に痛感した実力の差こそ、『特殊異能部隊』をこうして動かしているのだろう......。

  それに、いつもは楽観的な考えばかり持っているミルトでさえも......。

  だからこそ俺は、ミルトの頭を撫でて、こう言った。

「悔しかったんだな......。」

  それを聞いたミルトは、俺の胸に顔を押し付けた後、震え声で自分の気持ちを正直に叫んだ。


「当たり前じゃない!! だって、戦地で何も出来ないどころか、足手まといにまでなっちゃったんだよ?! そんなの悔しいに決まってる!! 今まで何の為に努力して来たのかも分からなくなるよ!! ......今は、自分の弱さが憎い......。私には誰も助けられないんだって......。」

  俺は、そんなミルトの心の叫びを聞くと、何も言えなくなった。

  そして、自分の発言に後悔をした。

  幾ら努力をしても、決して越えられない大きな壁。

  そんな不条理な現実を前に、今にも折れてしまいそうな心を覆うようにして訓練をしていたのだろう。

  それはきっと、現実逃避に近いものでもある。

  俺を始めとする『異世界人』は、この世界の人間とは根本的な所から違う。

  大した努力をせずとも強大な力が備わっている。


ーー実際に俺だって、その力に過信しているのは事実なのかもしれない......。


  すると、そんなやり取りに気がついたリュイを始めとした『特殊異能部隊』は、俺達の元へやって来た。

  その後で、リュイが俺に顔を埋める形でいるミルトを止めようと、

「こら、ミルト!! 余り隊長殿に無礼を働くな!! 」

と、叱りながら制止をしようとした。

  俺は、それに対して、リュイを宥める。

「良いんだ。今は、このままにさせてやれ......。」

  俺がそう彼女に言うと、リュイは突然、そのまま膝から崩れ落ちた。

  その後、両手で目を覆って嗚咽を漏らして泣き出す。

「隊長殿......。私達は一体、どうしたら良いのでしょうか......? 」

  リュイは、途切れ途切れな弱々しい口調で俺にそう問いかける。

  そんな様子に俯きながら歯軋りを立てている他の者達......。

  その光景は、俺が初めて彼女達に感じた溝であった。

  もしかしたら、心の何処かで思っていたのかもしれない......。


ーー俺という存在が、彼女達を苦しめていたのだと......。


  その溝は、幾ら信頼関係を築いたとしても、決して埋まらないのだろうか......?

  果たして、俺が今まで気づかなかっただけなのだろうか......。

  彼女達は、ずっと俺に劣等感を持ち続けて来たのだろうか......?

  そんな事を考えているうちに、俺は不安になった。

  彼女達の目は、元の世界での自分に向ける視線に良く似ていたから......。

  そして、俺はその後、悲壮感の漂う皆に謝罪を口にした。

「本当にすまない......。」

  謝る理由なんて、何処にも無かった。

  だが、今の俺には謝る事しか出来なかった。

  それからは、まるで時間が止まってしまったかの様にその場に沈黙が流れた。

  聞こえるのは、部隊の皆が鼻をすする音だけ......。

  俺にとって、その時間は永遠にすら思える。

  何故か、罪悪感に押し潰されそうになった......。


ーーだが、そんな時だった。


「みんな、それ位の事で、何を辛気臭い顔をしているの?! 」

  俺は、その声の元の方へと目をやると、そこには、何処かから戻って来たであろう、キュアリス、桜、優花の三人の姿があった。

  俺は彼女達の突然の登場に驚いていると、そんな事を全く気にもしないキュアリスは、こんな風に叫んだのだった。


「私だって、『異世界人』じゃない!! でも、努力を重ねてここまで来た!! 弱い気持ちで訓練したって、絶対に強くなんかならないよ!! もっと、自分の力を信じてみて!! 」

  そんなキュアリスの発言に対して、部隊の皆は、ポカンとした顔のまま、彼女の方へと顔を上げた。

  すると、俺に負ぶさっているミルトは、一度俺から離れると、キュアリスにこんな質問をした。

「でも、その言葉、本当に信じても良いの......? 」

  そんな彼女の弱々しい質問に対して、キュアリスは胸を張ってこう答えた。

「当たり前でしょ!! 私は、努力で『聖騎士』まで登りつめた!! そんな私の太鼓判なんだから!! それに、みんな、自分の両手を見てみてよ。」

  キュアリスがそう促すと、皆は自分の両手を見つめた。

  すると、妙に納得した様な表情を浮かべた。

  彼女はそれを確認すると、笑顔でこう言ったのだった。

「ここに来た時と比べると、あなた達はずっと強くなっている。少しは自分の成長を褒めてあげて......。」

  キュアリスのそんな言葉を聞くと、彼女達は涙を拭った。

  そして、皆は精悍な顔つきに様変わりした後で、立ち上がった。

「隊長殿、私ども、少し弱気になっておりました......。これからも、自分の可能性を信じて精進したいと思います!! 」

  俺は、リュイの話を聞くと、目を逸らして、

「お、おう......。」

と言うに留まった。

  キュアリスは、みんなが落ち着きを取り戻すと、全員にこう言った。

「じゃあ、もう時間もないし、そろそろ晩餐会に備えて休憩を取りましょう!! 」

  それを聞いた『特殊異能部隊』は、大きく頷くと各々の部屋へと歩き出したのだった。

  すっかりみんながいなくなった訓練場で、俺はキュアリスにこう感謝を述べた。

「さっきはすまなかった。俺、みんなから言われた言葉に何も言えなくて......。」


ーーそんな弱々しい発言を聞いたキュアリスは、俺に微笑んだ後で、こんな事を口にした。


「いいの。雄二が心を痛める必要は無いんだよ。それに、こっちの世界の悩みは、こっちの世界の人が聞いてあげた方が良いと思うから......。」

  俺は、そんなキュアリスの一言を聞くと、一安心をした。

  そして、俺は微笑みながら彼女にこう言った。

「これからも、よろしくな。」

  俺のそんな言葉にキュアリスは、ニコッと笑いながら、

「うん、これからも宜しくね!! 」

と、返事をするのだった。

  すっかりとその場が落ち着くと、俺はキュアリスにこんな事を問いかけた。

「ところで、さっきまで何処に行っていたんだ......? 」

  すると、彼女は俺の問いを聞いた後で、優花の方に目をやった。

「これから旅をする大切な仲間に、『異能』を教えていたところだよ......。」

  そんな事をキュアリスが口にすると、後ろに控える優花は全身に水のオーラを纏いながら中二病なポーズを決めていた。

  俺は、彼女から目を逸らした後で、微笑み、重ねて感謝を述べた。

「何から何まで、ありがとな......。」

  きっと彼女は、『特殊異能部隊』の気持ちを察した上で、『異世界人』を外に連れ出して特訓していたのであろう。

  転移したばかりの優花の力を見せつけるのは、皮肉だと感じたからなのか......。

  俺はそう考えると、もう一度心の中で彼女に感謝を述べた。


ーー俺は、キュアリスには敵わない......。

「天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く