天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第154話 この国への恩義。


ーーーーーー

  先に『特殊異能部隊』の訓練施設に戻った皆を横目に、俺は一人、森山葉月と話をする為にも王宮内部にある彼女の拠点の部屋にて今回起きた事の顛末を話していた。


ーー『霞神社』からの経路の中で、元の世界へ転移した事、それに加えて生と死の中間地点にて『崩壊の神』からの『試練』受けた事、そこで一度死んでしまったキュアリスを助けた事......。


 俺がその話を一つ一つ展開する度に、驚きと納得を交互に感じている様子だった。

「その中で、死後の世界に足を踏み入れて浩志とあったというわけですね......。」

  彼女はソファに腰掛けテーブルに両腕をついて難しい顔をしている。

  俺はそれに対して小さく頷くに留まる。

  すると、そんな彼女は暫く黙り込んだ後で、今回の一連の流れについてゆっくりと口を開いた。

「と言うことは、やはり、あなたは『英雄』になる為の第一歩を踏み出したという事になりますね......。」

  彼女が納得した様な表情を浮かべ、そう呟くと、俺は一つの疑問を抱く。

  森山葉月は、俺が辿るであろう道を知っていたかの様な口調であるからだ。

  それに、彼女は戦地にて、兄が転移してからも彼の事を覚えていたと言っていた。


ーー即ち、彼女にはその資格があるのでは......?


  『後三人の仲間を見つけ出せ』

  これは、俺が最後の『試練』を終えた時に『崩壊の神』が言っていていた事だ。

  そこで俺は、探りを入れる為にも、彼女にこんな事を言ってみた。

「お前は、やけに納得している様だが、俺がこうなる事が分かっていたのか......? 」

  俺がそんな風に疑問を口にすると、彼女は小さく微笑みながらこう答えた。

「まあ、可能性と意味では、かなりの期待をしていました。私は数奇な運命によって、転移してすぐに社と旅をする事になりました。その中で、彼女が言っていた話と完全に合致していたので......。」

  そんな彼女の発言に対して俺は、少しだけ考えを巡らせる。

  森山葉月は、この世界にやって来た時、『崩壊の神』の使いの一人である社と旅をしていたと言い出した。


ーーそれはつまり、神の側近から直接にお告げを聞いていたということになる。


  俺はその事実に驚いた。

  すると、そんな俺の様子をじっと見ていた森山葉月は、更に話を続ける。

「正直、嘘みたいな話ではあったのですが、私も、彼女と旅をする中で気がついたのですよ。もう既に、王女殿下の方から話を聞いていると思いますが、私はどうやら軍帥をやるべき存在ではない様なのです。」

  俺は、彼女の話を聞くと、森山葉月が何を言いたいか、すぐに理解した。

「と言う事は、やっぱりお前は......。」

  俺が恐る恐るそう問いかけると、彼女は深刻そうな表情を浮かべながらこう言った。

「そうですね。私は、草の『異能』の頂点に位置する、『大樹の使』であったのですよ......。」

  彼女の口から出た『大樹の使』という言葉を聞くと、俺は、これから彼女も共に世界を救う仲間になる事に気がついた。

  だが、そこで一つの疑問が湧いた。


ーー彼女は、いつ頃からその運命に気がついていたのだろうと......。


  そこで俺は、その事について質問をする。

「いつから自分が『大樹の使』である事に気がついたんだ......? 」

  すると、俺の問いに対して彼女は、あっさりとそれに答える。

「それは、ここに転移してすぐの話です。まだ、浩志と再会する前です。私は転移してしまった浩志の事をずっと覚えていた時点で、社からその事実を聞きました。ですが......。」

  彼女はそんな話をして行く中で、逆説を唱えた。

  俺は森山葉月の様子を真剣な表情で見つめて、その続きを期待している。

  すると、彼女は嘆く様な表情を浮かべて話を続けた。

「例え、この世界で『英雄』の仲間が現れたとしても、肝心の『英雄』本人が現れる可能性は数百年に一度らしいのですよ......。だから私は、浩志を支える事を生きがいにした訳です。正直、浩志が死んでしまった時点で、私は生きがいを失っていた。軍帥という役職だって、余生を過ごしている様な感覚で、決してポッカリと空いた心の穴を埋める事は出来なかったのです。ですが、そんな時にあなたが現れた。......彼の目指した『世界を救う』事が出来る唯一の存在である......。」

  俺は、そんな彼女の話に、少しだけ森山葉月の胸中を察した様に感じた。

  世界でたった一人、何に変えても守りたいと思っていた愛する人を失い、ボロボロになった心境を隠しながら、今まで過ごして来たのであろう......。

  それが、どれだけ過酷な現実であるかは容易に想像が出来た。

  そして、俺という存在がどれだけ彼女の心の闇に光を与えたかを理解する。


ーー数百年に一度......。

 
  それは、奇跡に近い存在であり、期待するのもおこがましい程の事である。

  でも彼女は、きっとどこかで期待していたのであろう。

  その奇跡が起きる事を......。

  だからこそ、今まで生きてこれた。

  兄の願った未来の為にも......。

  俺は、そんな事を考えているうちに、兄、『佐山浩志』がどれだけ大きな存在であるかを自覚させられる。

  何故なら、桜を除いた全員が、兄を慕い、愛していた存在だからだ。

  という事は、桜も、もしかしたら......。

  俺は考えを巡らせる内に、一つの憶測を立てた。


ーー俺達の『英雄』への道のりは、馬鹿で真っ直ぐで、お節介な兄が起こした奇跡なのかもしれないと......。


  そう仮説を立てると、俺は森山葉月の方をしっかりと見た後で、こう問い掛けた。

「それならば、この戦争が終わったら、俺と共に戦ってくれるか......? 」

  そんな俺の誘いに対して、森山葉月は笑顔でこう答えた。

「当たり前です。これは、私がずっと心の隅で求めて来た事なのですから......。あなたと共に、旅をする覚悟はずっと前から出来ております。」

  それを聞くと、俺は安堵した。

  そして、その最後に森山葉月はこんな風に釘を刺した。

「ですが、今はあなたも私も『ベリスタ王国』の軍人であります。私自身も、この国には多くの恩義がありますので、それに報いなければなりません......。まずは全力で『ヘリスタディ帝国』と戦いましょう。」

  それを聞いた俺は、大きく頷く。

  俺自身も、この国の人々には感謝しても仕切れない程の恩がある。

  卑屈だった、心を閉じ込めていた俺は、人の暖かさに触れた。

  他人も自分も責め続けていた自分の間違いに気づかせてくれたのも、この国の人々だ。


ーー『ベリスタ王国』......。


  その国家が俺にとって、どれだけ大きな存在であったかは、自分が考えている以上に大きな物だ。

  だからこそ、最高の形で報いたい。

  今の俺にとってそれは、戦争を終わらせて『平和』をもたらす事だ。

  俺は、そう思うと、立ち上がって森山葉月の前に右手を差し出した。

「まずは、この国の為にも全力で戦おう。そして、『ベリスタ王国』にとっての『英雄』になろう!! 」

  俺がそう意気込むと、森山葉月は俺の右手をガッチリと掴んだ後で、笑顔でこう答えた。

「そうですね。では早速、攻め込む為の準備に取り掛かりたいと思います。」

  そして、俺はそう決まるとそのまま彼女の部屋を後にする。

「余り長く戻らないと、みんなが心配するからな!! とりあえず一旦、訓練施設に戻る!! 」

  俺がそう言って部屋から出ようとすると、森山葉月は手を振りながら、

「確かに、早く戻ってあげてください。では、後ほど......。」

と、笑顔で俺を送り出した。

  俺はそれを聞くと、そのまま部屋を出て走りだした。


ーー大好きなみんなの元へと......。


ーーーーーー

  すっかりと佐山雄二が居なくなった部屋の中で、森山葉月は一人、ため息をつきながら微笑む。

「やっぱり、浩志のおかげですよ......。私も生きていて良かったです。あなたの念願を、やっと叶えられる機会が現れたのですから......。」

  彼女はそう呟くと、引き出しから一枚の写真を取り出した。

  そこには、幼い頃にいつも遊んでいた公園にて、佐山浩志と森山葉月が笑顔でピースをする姿が写っていた。

  そんな昔の笑顔を見た森山葉月は、次第に表情を崩した。

「浩志、私、もう少しだけ頑張ってみます......。」

  彼女はそう呟くと、グッとその涙を堪えて、写真を元の場所へと仕舞った。

「この奇跡、必ず実らせますよ......。」

  森山葉月はそう言うと、『ヘリスタディ帝国』に攻め込む作戦を練る為にも、軍部待つ場所へと足を進めたのだった。

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