天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第153話 王女の振る舞い。


ーーーーーー

「キュアリス~!! 生きてて良かったよ~!! 」

  王宮の最上階の一室にて、そう泣き叫びながらキュアリスに抱き着くのは、とてもこの国の長とは思えぬ程の幼稚な振る舞いを見せる、キャロリール王女だった。

「ご、ご心配をおかけして申し訳ありません......。」

  キュアリスは、そんな王女に対して、困惑しながらも謝罪を口にした。

  すると、王女は顔を涙で濡らして、こう続けた。

「送り込んでいた密偵部隊から一度キュアリスが死んだという連絡が来た時、あたしがどれだけのショックを受けたのか、分かっているのか?! 背中の古傷から闇の『異能』が暴走し出して無茶したのかと思ったぞ!! 」

  俺は、目の前で繰り広げられるそんな二人のやり取りの中で、サラッと言った王女の一言に苦笑いをする。

  やはり、国家は密偵を送っていたのだと......。

  多分、それに関しても、森山葉月の意図した事なのであろう。

  それに気がついて、俺は右隣にいる森山葉月の方へと目をやるが、彼女はその視線に気がつくと、シラを切る様にニコッと笑っていた。

  そんな時、再びキャロリール王女の叫び声が聞こえる。

「なんで無いのだー!!!! 」

  俺は、そんな王女の変化の後で、慌ててそちらの方に目を移すと、彼女はキュアリスの背中を、服の中から弄っていた。

「キュアリス!! 背中の傷跡が無くなっているぞ!! なんでなのだ?! あの傷は、幾ら腕の立つ医者が手を施した所で、決して消える事が無かったはずであろう!! 」

  彼女は、そう声を荒げて驚きながら、確認を取る様にキュアリスの上着を無理矢理に脱がそうとした。

  それを見た、秘書のポルは、暴挙に出るキャロリール王女を控えめに制止しようとする。

「キ、キャロリール殿下、お、お辞めになってください......。」

  だが、そんなポルの一言に全く耳を傾けない王女は、キュアリスの纏っている軍服に手をかけると、そのまま勢いよく腹の辺りまで捲り上げたのだった。

  俺は、その様子を、顔を真っ赤にしながらも目を逸らさずに見つめてしまっていた。

「なあ!! 背中を見せてみろ!! 本当に治っているのか、あたしは気になるのだぞ!! 」

  王女は、錯乱したかの様にそんな事を言う。

  しかし、その時、キュアリスはそんな王女の手を振り払って、急いで上着を下げるのだった。

「キャロリール様......。ここでは、さすがに恥ずかしいです......。後ろで雄二も見ていますし......。」

  キュアリスは、両手で軍服をこれでもかと言うくらい下に引っ張った状態で、王女に向けて頬を真っ赤に染めながら、俯き様にそう呟いた。

  すると、王女は自分の暴走の浅はかさにやっと気がついた様で、一瞬キュアリスを見て真顔になった後、咳払いを一つした。

「す、済まなかったな、キュアリス。ついつい嬉しくなって、妙な事をしてしまった......。」

  王女の言葉を聞いた後で、キュアリスは俺の方を振り返り、恥じらいの表情を見せた。

  そんな彼女の表情を見ると、俺は強い罪悪感に襲われた。

  見てはいけないものを見てしまいそうになったと......。


ーーそして、それを少し期待してしまったと......。


  俺がそんな風に嬉し恥ずかしな状態でいると、左隣にいる桜は、怒った表情を浮かべながら、右手で俺の足を軽く小突いてこう言った。

「雄二のバカ!! ヘンタイ!! 」

  俺は、桜の言葉を聞くと、ショックを受ける。

  いや、今のは状況的に仕方ないだろう......。

  その後で、キャロリール王女は真剣な表情になって、こんな事を呟く。

「それにしても、背中の傷が治っているなら、考えられる事は、一つしかあるまい......。」

  俺は、そんな彼女の一言を聞くと、もしかして王女は、俺達が死後の世界に行っていた事も、その理由についても知っているのかと勘ぐった。


ーー彼女は、この国の長。


  その国の中に、転移する上で必要な『霞神社』がある。

  と言う事は、王家にしか伝わらない秘密を握っているのかもしれない......。

  俺はそう考えると、その詳細について説明して欲しくなった。


ーーこの国と、『崩壊の神』との関係、人々がこの世界への転移が繰り返される理由、そして、何よりも『世界の理』について......。


  聞きたい事は山程ある。

  だから今、目の前でこれから何かを語ろうとするキャロリール王女を、俺は視線を逸らす事なく凝視していたのだ。

  すると、王女は暫く黙り込んだ後で、ゆっくりと口を開いたのだ。

「きっと、相当腕の立つ医者がいたのだな!! キュアリス、本当に傷が治って良かった!! あたしは一安心したぞ!! 」


ーーなんて、拍子抜けだ......。


  王女が発したその言葉の後で、俺はそんな風にガッカリとする。

  この王女、『霞神社』の事や、転移の関係について、何も知らないのだと。

  前に晩餐会の時に告げられた意味深な言葉は、森山葉月から聞いた事を只、伝えただけだったのか......。

  俺は、王女の振る舞いに心底落胆すると、そんな事を気にしない彼女は、そこにいる、俺、キュアリスや桜、優花に森山葉月、それと『特殊異能部隊』に向けて、

「それでは、前回同様にあんた達は、帰還の儀式を執り行った後に、晩餐会に招待する!! 思わぬ速さでの戻りだったので、まだ準備には時間がかかりそうだ。一度、施設に戻るが良い!! 再集合は三時間後だ!! 」

と、これからのスケジュールを説明した。

  その後ですぐに、忙しそうな素振りを見せながら、部屋を後にしようとする。

  その去り際に、王女は俺を部屋の外へと呼び出して顔を近づけ、耳元でこう囁いた。

「一連の出来事、本当にご苦労だった。神の与えた『試練』は、非常に過酷であっただろう......。これからは、『英雄』として、キュアリスや桜、それに、葉月の事を守ってやってくれ。『ヘリスタディ帝国』との戦争が終わった暁には、あんた達には、国家の役職を全て降りてもらい、世界を救う事に専念してもらう。」

  俺はそんな王女の言葉を聞いた時、思った。


ーーやはり、彼女は全てを知っている。


  だが、他の皆には言えない何かの理由があるのだろう......。

  それに、この国から俺達が去る事は、非常に危険なのでは......?

  何故か、森山葉月までも......。

  俺はそう考えると、王女にこう問い掛けた。

「だが、俺は元々、キュアリスから『聖騎士』の座を奪う為に、軍に入ったんだぞ......? それに、俺達がここから居なくなっては、国家的にも厳しいのでは......。」

  そんな風に率直な意見を俺が言うと、キャロリール王女はフフッと微笑んだ後で、こう答えた。

「あんたはこれから、『英雄』になる男だ。一国家の『聖騎士』なぞという小っぽけな存在に固執してもらいたくはない。確かに、主要な戦力が抜ける事は、我々としても残念だが......。ちょうど、その穴が埋まる存在が現れた所だ。」


ーー俺達の穴を埋める存在......?


  俺は、その存在が誰であるのか気になって仕方が無くなった。

  そして、それについて、俺は王女に問い詰めた。

「その存在とは......? 」

  俺がそう質問をすると、キャロリール王女は腕を組んで自信満々な表情を見せた後、胸を張ってその問いに答えた。

「まだ内密な話ではあるが......。それは、あんたのよく知っている者だ。今は、給仕を担当しているがな......。あんたらが去った後の後任の軍帥は、『アメール』に決定した!! 」

  彼女の口から発せられたその名前を聞くと、俺は驚いた。

  次期『軍帥』に指名されたのは、『崩壊の神』の使いであるアメールだったのだ......。

  『ロンブローシティ』にやって来た際、彼女が口にした「やるべき事」とは、その事だった。


ーーしかし、神の使いがこの国に干渉して良いものなのだろうか......?


  俺は、そんな風に疑念を抱きながらも、報告を終えて去って行く王女の後ろ姿を見つめた。
 

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