天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第150話 ずっと伝えたかった事。


ーーーーーー


ーーあれから、浩志はみるみる内にお人好しになって行った。


  それに続く様にして小学生の森山葉月も、ある目標を掲げた。

「私、決めました!! 大人になったら、お医者さんになります!! 」

  いつもの公園に先にやって来た浩志を前にして、森山葉月はそんな事を宣言した。

  それを聞いた浩志は、手を叩いて賛同する。

「それは、素晴らしいな!! もし、葉月が医者になったら、沢山の人を助ける事が出来る!! 『町のお助け隊』の活躍はすごい事になるな!! 」

  そんな風に沸き立つ浩志の事を見つめて微笑んでいる彼女は、こんな事を思う。

  本当は、あなたの事を守りたいからですよ......。

  浩志は最近、無茶をする様になった。

  自分の身を犠牲にしてまで人助けに徹している。

  時には、危険な行動すら取るようになった。

  おかげさまで、彼の体には生傷や痣が日に日に増えて行った。


ーーはたから見れば、余りマトモだと思えない程に......。


  本当は、彼のそんな行為に歯止めを掛けたい。

  だが、どうしても止められない。


ーー何故なら、彼は善行をする度に、今まで見た事がない程の笑顔を見せるからだ。


  そこで、森山葉月は考えた。

  それなら、私が医者になって彼の傷を治してあげればいいと......。

  だからこそ、森山葉月はその様な決意をしたのだ。

「でも、お医者さんになるには、一杯勉強をしなければならないらしいのです。だから、暫く『町のお助け隊』の活動を休ませて頂けませんかね......? 」

  それを聞いた浩志は、少しだけ切ない表情を浮かべる。

  だが、その後ですぐに笑顔になって、

「分かった!! お前がいつか、医者になった時、ここに戻って来てくれ!! それまで、お互い努力をしよう!! 」

と言って、彼は森山葉月の前に小指を立てた。

「これは、約束だからな!! 」

  そんな浩志の発言に、彼女はニコッと微笑んで、小指を絡ませた。

  少しだけ切ない気持ちの中。

  でも、彼があの時抱きしめてくれた温もりは本物だ。

  いつか、浩志を助ける。


ーー大好きな浩志を......。


ーーーーーー

  それから二人は、別々の道を歩み始めた。

  佐山浩志は、町一番のお人好しとして、高校に入っても、たった一人で人助けを続けた。

  森山葉月は、名門私立にトップの成績で合格し、医者への道を次第に現実の物へと近づけて行った。

  容姿端麗であった森山葉月は、男子から言い寄られる事も多くあった。

  しかし、彼女はどんな誘いを受けたとしても、決してそれを受け入れる事は無かった。

  何故なら彼女は、あの日の約束を忘れていなかったからだ。


ーー浩志との約束を......。


  そんな日々が続いて行ったある日、森山葉月は下校途中、町にある商店街で多くの人に声を掛けられて微笑んでいる浩志の姿を見かけた。

  彼女はあの日の約束以来、浩志と遊ぶ事は無くなった。

  それだけ意思の固いものであったから。

  先にある未来の為にも......。

  お互いが違う道を歩んでしまったが為に、顔を合わせる事もめっきり無くなってしまった。

  そんな中、久々に見た彼の姿......。

  それは、数年が経過したとしても、相変わらず輝いていた。


ーーいや、輝きを増している様にすら思えた。


  彼女はそんな事を考えていると、途端に泣き出しそうになった。

  浩志は、本当にあの約束を覚えているのでしょうか......?

  そんな風にチクチクと痛み出した胸に手を当てながら、彼を見ていると、浩志はその視線に気づいた様で、森山葉月の方を見つめた。

  すると、浩志は少し遠くにいる彼女の元へと走り出した。

  しかし、森山葉月は何故か、途端に話すのが怖くなった。

  だから、その場から慌てて逃げ出した。


ーーこの世界から逃げ出す様にして......。


ーーーーーー

  自宅へと辿り着いた森山葉月は、自室に入ると相変わらず胸に手を当てたまま、呼吸を乱した。

  ねえ、浩志、あなたは本当にあの時の約束を覚えていてくれているのでしょうか......?

  そんな圧迫感が彼女の心を支配する。

  しかし、今となっては近づいてくる彼から逃げてしまった事を、後悔していた。

  本当はもっと話をしたかった。

  もしかしたら、楽しかったあの日々に戻れる様な気がした。

  でも、彼女は選択を間違えてしまった。


ーーそんな弱い自分に対する後悔と疑念の中で、彼女は布団に入る。


  枕を涙で濡らしながら......。


ーーーーーー

  久々に彼を見てからというもの、彼女の頭の中は、浩志への気持ちでいっぱいになる。

  行動を起こす訳でもなく、彼女の心の中でぐるぐると回り続けるその気持ち......。

  私は、どうしたら良いのでしょうか......?

  この道は、本当に正しい道なのでしょうか......?

  そんな答えのない自問自答を永遠と続けた。


ーーだが、決してその答えは出ない。


  学校の教科書にも、使い慣れた参考書にも、何処にも書いていないのだから......。


  そんな難解な問いを数週間もの間繰り返す内に、遂に彼女はその一歩を踏み出す決意をした。

  浩志に会って、しっかりと確認しなければ......。

  そう考えた森山葉月は、帰宅したばかりの自宅を飛び出した。

  そのまま長い坂を下りると、思い出の公園を通り過ぎて、彼の自宅へと走り出す。

  他のものに脇目も振らず、真っ直ぐに......。

  そして、夕暮れ時、彼の自宅に辿り着き、家のチャイムを鳴らすと、返事は無かった。

  彼女はそれを確認すると、その場で立ち尽くす。

  やはり、私のやっている事は、間違っているのでしょうか......。

  そんな後ろ向きな事を考えると、彼女の頬からは涙が溢れ出した。

  不安な気持ちでいっぱいになった。


ーー『医者になる』など、考えなければよかった。


ーーそうすれば、ずっと浩志と......。


  そして、彼女は俯きながら自宅へと足を向けた。

  だが、そんな時、遠くで叫び声が聞こえた。

「雄二、俺が必ず見つけ出してやる!! 」

  そう聞こえたその先に慌てて駆け出すと、そこには妹を連れて遠くへと走って行く浩志の姿があった。

  それを見た時、彼女はその背中を追いかけた。

  今日話せなければ、一生会えない様な気がして......。


ーーーーーー

  途中から見失ってしまった彼を彼女は探し続けた。

  言葉から察するに、弟の事を探しているのだろう......。

  そして、いつの間にか辿り着いた先は、人気のない森だった。

  彼女は暗がりのその森を見ると、ここに彼がいる事が、直感で分かった。

「きっと、ここにいる筈です......。」

  森山葉月はそう呟くと、森を駆け上る。

  すると、登頂部にある広場のベンチで、佐山浩志は弟と妹と共に、大きな声で話をしていた。

  彼は、一冊のノートを二人に見せつけると、高らかにこう宣言をしていた。

「ここに、秘密のノートを埋めておく!! 」

  それを聞いた彼女は、浩志が家族と仲良くする様子に、心を温めた。


ーー多分、浩志は忘れていない。


ーーあんなに義理堅くて、優しい浩志が、大切な約束を忘れる訳がないと......。


  そんな風に思いながら、彼女は自分が疑惑を持ってしまっていた事に、深く反省をした。


ーーもう一度、信じてみます。


ーーそして、医者になった時、必ず伝えます。


ーー『ずっと好きでした』って......。


  そう思いながら、森山葉月は静かに下山しようとした。


ーーだが、その時だった。


  突然、広場の方から彼の妹の叫び声が聞こえる。

  それに対して、森山葉月は慌ててそちらの方に目をやった。

  すると、そこでは、かつて彼女が襲われたあの『歪み』が浩志を包み込んでいた。

  しかも、彼はその存在に気がついていない。

  そんな状況に慌てた森山葉月は、急いでその場所に行こうとした。

  あの日、浩志が助けてくれた時の様に......。

  だが、そんな時、彼女の頭は突然重くなる。

  その重みは、倒れ込んでしまう程であり、彼女はその場で膝をついた。


ーーなんで、『歪み』が......?


  森山葉月は朦朧とする意識の中で、そう考えていると、まるでその問いに答える様にして、聞き覚えのある声が聞こえる。


ーー『邪魔をしないで欲しい。彼は、この世界からいなくなる運命だっだんだよ。心配するな。あんたもいずれは......。』


  彼女はその声が、前に神社で会った少女の物である事がすぐに分かった。


ーー浩志、行かないで......。


  森山葉月は何とか立ち上がろうとするが、その度に彼女の体は重力に負けて行く。

  そして、すっかりと彼が消えてしまった時、森山葉月は意識を失った。


ーーーーーー

  彼女は目を覚ますと、あの時の森の広場の端にいた。

  周囲は朝焼けに染まり、その場で夜を明かしてしまった事がすぐに分かった。

  その後で、思う。


ーー浩志はどうなってしまったのでしょうか......。


  その焦りから、彼女は彼の家へと走り出した。


  そして、もう一度チャイムを鳴らすと、彼の母が出た。

「あら、久しぶりね、葉月ちゃん。」

  そんな彼の母の一言を聞くと、森山葉月はそれに慌てた口調で答える。

「お久しぶりです!! ところで、浩志はいますか?! 」

  そんな森山葉月の問いかけを聞くと、浩志の母は、首を傾げた。

「ごめんなさいね、浩志って誰かしら......。」

  それを聞いた森山葉月は、不思議と全てを察した。

  佐山浩志という存在はあの瞬間、この世から消えてしまったという事に......。

  彼女はそんな浩志の母の言葉を聞くと、泣きながら自宅まで走って行った。

  浩志が消えてしまった事実に深い悲しみを抱きながら......。


ーーーーーー

  森山葉月は自宅へ戻ると、親からキツイお叱りを受けた。


ーー朝まで帰ってこなかった事への心配から。


  だが、そんな家族の優しさも、彼女の耳には入ってこなかった。

  目の前で消滅した大好きな人へのダメージが大きすぎて......。

  それから森山葉月は部屋に引きこもった。

  生気の抜けた表情で、何をする訳でもなく、ぼんやりと毎日を過ごす。

  かつての努力など、何処かに置いてきたかの様に......。


ーーたまに浩志の笑顔を思い出しては、泣き出しそうになった。


  そんな無味乾燥な時間を一カ月ほど過ぎた時、すっかり慣れたその生活に身を委ねる様にしてベットの上で目を瞑る。

  こんな、無意味な世界にいても、もう仕方がありませんね......。

  そんな事を考えながら......。

   すると、その時、再び例の少女の声が耳元で聞こえた。


ーー『そろそろ頃合いであるな......。あんた、もう一度、佐山浩志に会いたいと思うか......? 』


  それを聞いた彼女は、哀愁を漂わせた笑顔で、その声に答える。

「もし、本当にそんな事が出来るのでしたら......。」

  森山葉月が弱々しい口調でそう呟くと、彼女の周りからは『歪み』が現れた。

  それに対して、森山葉月は薄っすらと笑みを浮かべながらその『歪み』に身を委ねる。


ーー案外、心地いいものですね......。


  そんな風に諦めの気持ちを考えながら。

  そして、すっかりと『歪み』が彼女を包み込んだ時、ゆっくりと森山葉月は目を瞑った。


ーーもう、どうにでもなれ......。


ーーーーーー

  森山葉月は気持ちの悪い感覚から解放されて、目を開くと、そこには西洋風の建物が崩壊を続ける街が見えた。

「あれ......? ここはどこでしょうか......? 」

  彼女がそう呟くと、背後からこんな声が聞こえる。

「ここは、崩壊の街、『メディウス』。あんたは、異世界に転移してきたんだよ。」

  その声を耳にすると、彼女は慌てて後ろを振り返った。

  すると、そこには、幼い頃神社で会った、前髪がぱっつんの少女が無表情で立っていた。

  彼女はその姿を見ると、暫く固まる。

  そんな森山葉月の様子に痺れを切らした少女は、ため息をついて彼女にこう伝えた。

「前も話したが、元はと言えば、あたしが悪い。あんたにも、佐山浩志にも申し訳ない事をしたよ......。でも、あんた達は、再会できる!! だから、落ち込むのはやめて欲しい......。」

  森山葉月はそんな少女の発言を聞くと、次第に表情を崩して行った。

「本当に、もう一度浩志に会えるのですか......? 」

  それを聞いた少女は、ニコッと笑いながら、

「それは確実だ!! 何故なら、あんた達には協力をして、この世界を救ってもらわなければならないのだからな!! 」

と、謎の発言をした。

  しかし、森山葉月は彼女の発言など、どうでも良くなっていた。

  これから何があるにせよ、もう一度、浩志に会える事が嬉しくて......。

  だからこそ、彼女は少女の両手を掴んで、こう問い詰めた。

「どうすれば会えるのですか?! 」

  それに対して、少女はゆっくりと答えた。

「まあ、あたしの責任もあるからな......。とりあえず、その場所まで案内してあげるよ。あたしは社!! 『崩壊の神』の使いだ!! 」

  それを聞いた森山葉月は、深くお礼を言う。

  そして、この社という少女と共に、少し長い旅が始まったのだ。


ーー『町のお助け隊』隊員として、大好きな佐山浩志に会うために......。ーー


ーーーーーー


ーー「あなたが、本当に浩志と会ったのは、よく分かりました......。」
 
  森山葉月は、すっかりと戦闘の終わった『ロンブローシティ』の広場にて、過去の出来事を思い出した後、俯いて俺にそう呟いた。

  俺はそれに対して、頷くまでにした。

  俺には、彼女と兄との思い出は、二人だけの物にしてあげたかったから......。

  その後で、森山葉月は涙を拭って立ち上がり、俺の元へと近づいてきた。

「私は、浩志が私を残してこの世界に転移してからも、彼を想い続けました。ここに来てからもずっと、二人で戦い続けました。皮肉なものですね......。ずっと、彼の為なら死んでもいいとすら思っていたのに、先に死んでしまうなんて......。」

  森山葉月がそう言うと、俺は居た堪れない気持ちにさせられる。


ーー彼女がどれだけ、兄を案じていたか。


ーーどれだけ、大切に思っていたか。

  
  そんな彼女の想いが伝わってくる。

  俺は、それに対して、こう言ったのだ。

「俺は、お前が兄貴との間にどれだけの思い出があるのか知らない。でも、一つだけ分かる事があるよ。兄貴を愛していたんだな......。」

  それを聞いた森山葉月は、再び俯いてこう答える。

「まあ、私の一方通行かもしれませんけどね......。」

  俺は、それを聞くと、ゆっくりと口を開いた。

「実は、兄貴からもう一つ伝言を預かっているんだ。」

  俺がそう言うと、森山葉月は顔を上げて問いかける。

「それは、一体なんですか......? 」

  そんな彼女の問いかけを聞くと、俺は彼女にその伝言をしっかりと伝えた。


「......。」


ーーそれを全て聞き終えた森山葉月は、その場に崩れる様に膝をつき、泣き出した。


「浩志......。その言葉、もう少しだけ早く聞きたかったです......。」

  俺は、そんな彼女の姿を見ると、『死後の世界』で兄が顔を赤らめて口にした言葉を思い出した。


ーー『雄二、後、もう一つだけ葉月に伝えてくれ......。ずっと言えなかった事だが、俺はお前の事が大好きだ。世界中の誰よりも......。』ーー

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