天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第146話 彼のケジメ。


ーーーーーー

  俺は、少しだけ躊躇している。

  何故なら、かつての親友である大河原悠馬がボロボロな状態で意識朦朧なままに俺に向かってくるからだ。

  彼のダメージは大きい様で、着ている衣服には血が滲み、顔には無数の痣、歩く足取りはフラフラとしていて、幾ら闇のオーラが今まで見た事ない程に強大な物だとしても俺が一発でも攻撃を当てれば、彼が絶命してしまうのは一目瞭然だった。


ーーだが、それよりも......。


  俺がそんな風に光の『異能』のオーラを放ちながらそんな悠馬の変化に驚愕していると、いつの間にか地上に降り立ち俺の背後にやって来た優花はこんな事を口にした。

「あれが、雄二お兄ちゃんのかつての親友......。」

  それを聞くと、少しだけ眉間にシワを寄せた後で、彼女にこう答えた。

「そうだ。あの日、俺が決別した相手こそ、今目の前にいる大河原悠馬だ......。」

  優花は俺のそんな返答に少し悲しそうな顔をした。

「事故をキッカケに、人格が変わってしまったんだね......。今の彼からは卑屈さと悲壮感しか感じられないもん......。」


ーー俺は、優花が発した発言を聞くと、それに大きく頷いた。


  しかし、俺はこんな状況にも関わらず、少しだけ泣きそうになっている。

  それは、悠馬が今、紛れもなく自分の足で歩いているからだ。

  そんな彼の変化に俺は驚き、そして、感動を覚える。


ーー仲の良かったあの日々を思い出しながら......。


  今となっては非現実的な所での再会である。

  昔の様な間柄はそこになく、全てが変わってしまった。


ーー悠馬自体の性格も......。


  俺はそんな変わり果てた悠馬に対して、怒鳴り口調でこう問いかけた。

「昔のお前は、そんな卑屈じゃ無かったはずだろ!! 」

  それを聞いた彼は、俺の言葉を遮断する様にして、音速に近い速さの闇の弾を飛ばす。

  俺はその弾を、いとも簡単に避けると、彼は悲壮感を漂わせながらその問いに答えた。

「お前は、元いた場所に戻りたいと思わないのか......? 」

  そんな彼の弱々しくも、しっかりとした口ぶりの言葉に対して、少しだけ考える。


ーー『霞神社』から、元の世界に行った時、俺は懐かしさを感じた。


  更には、優花との再会によって、自分の足りなかった所、ダメな所が露見して、沢山の後悔もした。

  死後の世界でも同様に......。

  常に頭の片隅で、俺は思う事はある。


ーー今の俺ならば、あちらの世界で上手くできるのだろうか......?


  だが、そんな思考も俺はすぐに打ち消した。

  何故ならこれから、俺は世界を救うのだから......。

  この決意は、もう俺だけのものではない。

  神や死んでしまった兄、それに、これから共に戦う仲間の分まで背負った約束なのだ。


ーーだからこそ、俺は迷う事なく悠馬にこう伝えた。


「俺はこれから、『英雄』になる。だから、あっちの世界へ帰る気なんか一つもないよ。」

  それを聞いた悠馬は、フフッと笑う。

「お前は、ガキの頃から何も変わっちゃいねえよ......。」

  彼はそう言った後で、周囲を巻き込む様にして全身に纏っている闇の『異能』を体の中に凝縮し始めた。

  その間も、流れ出る闇のオーラは、出ては取り込み、出ては取り込みを繰り返す。

  その度に彼の体の周りは、より黒くなって行くのだった。
 
  俺はそんな彼の挙動に心配をする。

  その痛々しいまでの準備は、悠馬にとって最後の攻撃になるであろうから......。

  いや、それよりも前に息絶えるかもしれない。

  彼は、俺を倒す事を最後の目標にしている様だ。

  それならば、俺はその攻撃を受け止めなければならないと、勝手な強迫観念に晒されていた。


ーー俺にとって、唯一の『友達』として......。


  だからこそ、俺は彼のそんな行動を咎められずにいる。

  そして、悠馬は黒々とした体を怪しげに光らせると、こんな事を口にした。

「これで、お前と決別した空白の時間も、あの時あった出来事も全て、無かった事にしようぜ......。」

  それを聞いた俺は、ゆっくりと首を縦に振る。

  いや、頷く事しか出来ないのだ。

  彼を傷つけたのは、紛れもなく俺自身。

  幾ら俺が悔やんでも悲しんでも、それは只のワガママでしかないのだ......。

  悠馬は俺と戦う事でそれを清算しようと提案した。

  それが今、彼の望んでいる事。

  ならば、俺は全力でそれに答えるしか、選択肢は無かった。

  そんな結末を望んでいた訳ではないのだが......。

  そんな思いを感じながら俺は、込み上げる涙を堪えて手元に光の刀を作り出した。


ーーもう一度だけ、仲良くなりたかった......。


  それを見た悠馬はニコッと笑った後にこう告げた。

「じゃあ、始めるとしよう......。」

  その言葉のすぐ後に、光と闇は交わった。


ーーそして、それがすっかりと消えた時、俺の目の前にはうつ伏せで倒れた大河原悠馬の姿があったのだ......。


  そんな悠馬を見た俺は、過去の事を思い出してすすり泣く。

「本当にすまなかった......。」

  そう呟きながら......。


ーー今、俺は親友を殺した。


ーー人生の中で、唯一の親友を......。

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