天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第144話 待ちわびた時。


ーーーーーー

  殴打を繰り返された大河原悠馬は、目の前にいる仲間だと思っていた二人を見ると、唇を噛み締めた。

  彼も森山葉月と同様に、『異能』封じの『魔法』受けてしまったが為に、今は相手の攻撃を回避する事が出来ないのだ。

  それを知っているフードの女と赤髪の少年は、敢えて素手による暴行を繰り返していた。


ーーまるで、人殺しを楽しんでいるかのように万遍の笑みで......。


  街を逃げる森山葉月に関しては、まだ呼吸のある『ヘリスタディ帝国軍』の兵士達に操りの『魔法』を掛けて捜索に回らせている。

「まあ、直に森山葉月も捕まえられる筈だよ。そうしたら奴も、拷問の末に殺してやろうか。」

  フードの女は悠馬への殴打を繰り返しながら赤髪の少年にそう提案をする。

  それを聞いた少年は、品のない笑い声を上げながら大きく頷いた。

「雪絵姉さんはやっぱり最高だよ!! 僕もそのつもりでいたからね!! 」

  少年がそう賛同すると、雪絵というフードの女は、少年に向けて悪意に満ちた笑顔でこう続けた。

「まあ、あたいに関しても、幹雄にしても、国王様から命を救って頂いた存在。それを否定する者は全て、抹殺対象になる......。」

  そんな雪絵の発言に対して、幹雄という赤髪の少年は、足元に転がるボロボロになった悠馬を虫ケラでも見つけた様な表情を浮かべてこう答えた。

「雪絵姉さんの言う通りだよ......。この野郎も恩知らずだ。一回目の戦争においての失敗に加え、国王様に背いているのは行動からすぐに分かる。秘密裏に仲間を募り、『霞神社』を目指そうとするなんて......。」

  それを聞いた悠馬は、今にも消えてしまいそうな声で、幹雄の発言に返答する。

「お前達は、知らないんだ......。国王の本当の怖さを......。」

  そんな悠馬の言葉に、二人は狂った様に怒り出す。

「何を下らない事を言ってるんだ!! 」

  雪絵がそう叫ぶと、彼らは悠馬に対して再び暴行を加え始めたのであった。

  そんな中、悠馬は薄れて行く意識の中で後悔をした。

  「俺のやっていた事は、全て間違っていた。俺は只、元の世界に帰りたかっただけ。でも、蓋を開けてみれば、殺戮を繰り返す『悪魔』に成り下がってしまったんだな」と......。

  そんな後悔や苦しみの中で、彼は目を瞑って行く。

  「俺は只、日本に残して来た家族が心配なだけだった......。」

  そんな風に懺悔をしながら、悠馬は力を失って行く。


ーー『因果応報』と言う言葉の通りに......。


ーーーーーー

  森山葉月は、崩壊を続ける街の中を走って逃げる。

  深手を負った残兵達が、生気のない表情を浮かべながら彼女を追い詰めるのを掻い潜る様にして......。

  その残兵達には意志や意識は存在しない。

  何故なら、『魔法』によって操られているだけの兵器と化しているからだ......。

  だが、森山葉月は四方から現れるそんな兵達を、『異能』を使用する事なく、剣術によって斬りつけながら進む。


ーーとりあえず、この街から出なければなりません......。


  そんな事を考えながら......。

  そして、やっとの思いで入り口の広場まで辿り着いた森山葉月は、その場所に戻った時、絶望を覚えた。

  何故ならそこには、百を超える生気のない『ヘリスタディ帝国』の残兵達が控えていたからだ。

  どうやら彼らを操っている張本人は、森山葉月の動きを予め予測した上で誘い込んでいたのである。

  それに気がついた彼女は、その場で立ち尽くす。

  それは、彼女自身も誘導されてしまっていた事によるものだ。

  彼女は『異能』が使えなくなった事により、焦りを覚えた。

  どうにかして逃げる事だけを考えて動いてしまった。

  その結果、彼女は余りにも軽率な行動を取ってしまったのである。

  街の外に出るという......。

  それに気がついた森山葉月は、大量の『異能』を作り出す彼らを目の前に、小さく微笑みながら、ゆっくりと剣を地面に置いた。

「どうやら、私には重荷過ぎたのかもしれませんね......。」

  彼女はそう呟くと、両手を大きく広げる。

  潔いほどの諦めの気持ちを持ちながら......。

  それを確認した『ヘリスタディ帝国』の兵達は、一斉に『異能』を彼女に向け放った。

  襲い来る数色の『異能』の応酬を前にして、森山葉月は走馬灯の様に過去の事を思い出す。

  幼馴染であった佐山浩志といつも遊んでいた公園、彼と共に歩いた通学路、この世界で再会した時の感動......。

  森山葉月の中にある思い出には、常に佐山浩志の存在があったのだ。


ーー死んでしまったと聞いた時、自我を忘れる程に悲しんだあの夜。


  それから、彼の意志を継ぐ為に励んだ結果、彼女は『国王軍』の頂点まで登りつめていた。

  だが、彼女にとって、そんな栄誉はどうでも良かった。

  全ては、佐山浩志の為。

  小さい頃からずっと大好きだった彼の為......。

  丁度、その『異能』が彼女の体と触れる直前、森山葉月は小さく呟いた。

「今、そちらに行きますね。浩志......。」

  そして、彼女はゆっくりと目を瞑ったのである。

  これで、私の人生は終わり。

  決していい人生だったとは言えないけど、ここで死ぬのも悪くないですね......。

  そんな事を考えながら......。


ーーだがそんな時、森山葉月の体を、眩い光が包み込んだ。


「一体何が起きたのですか......? 」

  彼女はそれに気がつくと、慌てて硬く瞑った目を開いた。

  すると、そこには真っ白な光を体に纏いながら、『ヘリスタディ帝国』の兵達が放った『異能』を全て打ち消した一人の青年が目の前に立っていた。

  その青年は、それが済むと、ゆっくりと森山葉月の方へと振り返る。

  彼女はその顔を見た時、安堵から腰を抜かしたのだった。

「佐山雄二さん......? 」
 
  森山葉月が弱々しい口調でそう問いかけると、彼は小さな微笑みを浮かべながら、こう呟いた。

「間に合って良かったよ......。」

  彼はそう言うと、周囲に『結界』を張る。

  すると、それに反応した『ヘリスタディ帝国』の残兵達は、次第にその場で倒れて行った。

  彼女はそれを見ると、急いで手に力を込めて見る。

  彼女の手からは、風の『異能』が現れたのだ。

「体が元に戻っています......。」

  森山葉月はそれに驚くと、周りを見渡した。

  すると、そこには見知らぬツインテールの女の子に、先程死んだはずのキュアリス、それに、桜、ニルンド、『特殊異能部隊』の面々までが空から広場へと降りて来たのだ。

「これは一体......。」

  森山葉月は、佐山雄二にそう問いかけると、彼はニコッと笑いながらこう答えた。

「今は説明している暇はない。とりあえず、早くこの戦争を終わらせようぜ!! 」

  それを聞いた彼女は、もう一度体にグッと力を込めて、雄二に笑顔でこう答えた。

「後で、ゆっくりと説明してもらいますよ......。」

  彼女はそう言うと、街の反対側を指差した。

「あそこに、最後の敵がいます。」

  それを聞いた皆は、精悍な顔つきでその方向を眺める。


ーーまるで、この時を待っていたかの様に......。


  そして、雄二の合図を皮切りに、皆はその場所へと向かったのだ。

「勝って、みんなで帰ろうぜ!! 」


ーーそれに対してそこにいる全員は、勢い良く雄叫びを上げた。
 

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