天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第143話 信頼できる仲間達。


ーーーーーー

「一つお断り申し上げますが、この『時空の歪み』の先で行き着く場所は、『ロンブローシティ』外れにあるキュアリスさんのご遺体の前です。他の方々は本体と共に来ておられますが、流石に肉体に関しては、我々でも完全に復活させる事は出来ません......。なので、キュアリスさんが元の体に戻ったら、至急に治療をして頂く様にお願いします。」

  アメールは『時空の歪み』の中へと入る前に、そう説明をした。

  俺はそれに対して大きく頷く。

「わかった。それなら、今の内に桜が沢山の薬草を作っておくね!! 飛び切り効くやつ!! 」

  桜はそう言うと、手から草の『異能』を生じさせた後で、大量の薬草を両手いっぱいに作り出して見せた。

  それを見たキュアリスは、一度、桜の頭を撫でる。

「ありがとう、桜。私は桜に助けられてばっかりだね......。」

  そんなキュアリスの言葉を聞くと、桜はニッコリと嬉しそうに沢山の薬草を抱き抱えていた。

  そんな中、優花は弱気な表情を浮かべて震えている。

  多分、彼女は怖いのであろう。

  戦争とは無縁の平和な日本で生まれ育った彼女からすると、それは当たり前の事である。

  実際に俺も、初めて『スケアリードラゴン』と衝突した時は、堪え難いほどの恐怖を感じた。

  それに、彼女はまだ『異能』や『魔法』と言うものをほぼ扱ったことがない。

  それにも関わらず、『水源の使』などと謳われてしまっているのだ。


ーー強がってはいるものの、優花自身はまだ気持ちの整理がついた訳ではない。


  そう考えると俺は、彼女の肩にそっと手を当てた。

  そして、こう呟く。

「心配するな。俺がお前を守る。たまには、兄らしい事もしなくちゃいけないからな......。」

  俺がそう元気付けると、彼女は俺の手に静かに手を重ねた。

  そして、一瞬、真剣な表情をした後でニコッと笑い、頷いた。


ーーまるで、全てを受け入れかの様に震えを止めて......。


「では、参りましょうか......。」

  アメールがそう告げると、俺達は一歩を踏み込む。

  そんな背中を座ったまま見つめる『崩壊の神』の方を振り返る事なく......。

  先にある戦争を覚悟しながらも......。

ーーーーーー

  森山葉月は、闇の弾丸を肩に受けて苦しみながらも、一瞬何が起きたのか分からなくなっていた。

  先程まで勢いに満ち溢れていた大河原悠馬が血塗れになり木枠の椅子から転げ落ちて虫の息になっている事に......。

  彼の胸元から多量の血が流れており、動かない足をフォローするかの様に地面に腕を這わせて何とかその場から離れようとしている。

「な、何をしやがる......。」

  悠馬は、口から血ヘドを吐きながら背後にいる、その行為を引き起こした張本人に向けそう睨みを効かせた。

  そんな彼の言葉を聞いたその張本人は、ニヤッと笑いながら血が滴っているナイフをペロッと舐めた後で笑みを浮かべた。

「悪いね~。これも、国王からの指示なんだよ。普通に戦えば、お前は倒せなかったからな......。」

  そんな風に悪意に満ちた口調で死にかけている彼を見つめるのは、先程まで共闘していたはずの赤髪の少年だった。


ーー隣には、フードの女も手元に火の『異能』を込めつつ悠馬を睨みつける。


「この程度の戦果で最初の戦闘での罪が消えたとでも思っているのか? 」

  彼女はそんな風に彼に問いかける。

  それを聞いた悠馬は、自分の胸元から流れる血を一瞬見た後で、歯をくいしばる。

「畜生......。元々、そのつもりだったのかよ......。」

  そんな弱々しい声の彼の言葉に対して、フードの女は淡々とした口調で続ける。

「まあ、そう言う事だ。それに、最近のお前の動きには少し違和感があったのでな......。森山葉月に関しても、『異能』封じの『魔法』を編み込んだ弾丸を当てる事に成功した。もう、奴が我々に勝利する可能性は無くなったのだ。ならば、的を二つにしても変わりないであろう......。」

  彼女はそう呟くと、確かめる様にして森山葉月へと、野球ボール程の大きさをした火の『異能』を一つ放って見せた。

  向かい来るそれを見た森山葉月は、命の危機を感じる。

  幾ら体に力を込めても、『異能』が出ない事に焦りながら......。
 
  そして、左肩に痛みを感じながらも、彼女は襲い来るその『異能』を慌てて避けた。

「このままでは、まずいです......。ここまで『魔法』の開発が進歩していたとは......。」

  森山葉月はその火の爆発に乗じて、走って街の陰に隠れると、息を荒げながらそう呟いた。

  その後でもう一度手に力を込める。

  決して何も起きる事のないその手を必死に何度も......。

  その後で、逃げるしか無くなってしまった自分の弱さに悔しさを感じながらも、煌々と燃え上がる街の中を走り出すのであった。


ーーーーーー

  俺達が『時空の歪み』を抜けて辿り着いた場所は、煙まく『ロンブローシティ』から数キロ離れた草原の上だった。

「何とか、成功した様だな......。それにしても......。」

  俺は、胸元が血塗れになって虫の息になっているキュアリスの方を見ると焦り出す。

  それを見た桜は、慌てて予め用意していた薬草を全て彼女の体に擦り付けるのだった。

「また死んじゃったら、全く意味がないよ!! 桜が治してあげるからね!! 」

  桜がそう叫ぶと、その薬草は緑色の光を放ちながらあれよあれよと言う間にキュアリスの胸元に空いた傷口をかき消して行ったのだ。

  俺はそんな桜の草の『異能』の能力の高さに驚く。
 
  彼女は、『大地の使』にも関わらず、他の『異能』までと......。

  すると、キュアリス自身の目にも力が戻って行き、自ら立ち上がったのだった。

「ふう......。また死んじゃうところだった......。ありがとね、桜。」

  キュアリスはそう呟いた後で、すっかりと消えた傷を摩り、桜の頭を撫でた。

  俺はそんな二人のやり取りを見ると、安堵の気持ちでいっぱいになった。

  その後で、大量の煙を立てる『ロンブローシティ』の方に目をやり、真剣な表情になる。

「あそこで今......。」

  俺がそう呟くと、キュアリスも同じ様に街の方を眺めて、唇を噛み締めた。

「多分、今は葉月一人で戦っているはずだよ。私が一度死んでしまった時、『特殊異能部隊』のみんなは気絶していたから......。」

  俺は、そんな彼女の言葉を聞くと、途端に森山葉月の現在が心配になった。

  強大な力を有する『異世界人』達を前に、たった一人で相手にしているのだから......。

  そう考えると、俺は立ち上がりそちらの方へと静かに歩き出した。

「早くしないと......。」

  そんな事を呟きながら......。

  すると、背後にいるアメールは俺に向けてこんな事を言い出した。

「それでは、『英雄』への第一歩を踏み出してください。私は、こちらの世界でやり残した事がありますので、一度『首都リバイル』に戻ります。帰還次第、お伺い致しますので、ご武運を願います......。」

  彼女はそう言うと、俺は、「ありがとな」と感謝を述べた。

  それを聞いたアメールは微笑んだ後で、再び『時空の歪み』の中へと戻って行った。

「もう、『英雄』や『使』の事など、どうでも良い!! それよりも、葉月さんを助けねば......。」

  ニルンドは、上司である軍帥の今を心配しながら、そう決意した。

「わ、我の『邪神』としての実力を見せる時が来たのだな!! 」

  優花は初めて降り立った別世界に動揺しながらも、顔の前に三本の指を立ててポーズを決めている。

「桜は、雄二の進む道についていくよ!! 」

  桜も土の『異能』を手元に生じさせながらそう気合を込める。

  キュアリスは、俺の肩に手を当てた後で、

「うん、守ろう。そして、絶対に世界を救おうね。」

と言って前へと進んで行った。

  俺はそれに頷くと、体全身に光のオーラを纏う。

  待っていろよ、『ヘリスタディ帝国』。


ーーこれ以上、人々を悲しませやしないからな......。


  そう決心をつけると、『ロンブローシティ』へと真っ直ぐに光の道筋を立てた。

  そして、皆を連れて進もうとしたその時だった。

「隊長殿、お久しぶりです!! その戦、我々も連れて行ってはくれないでしょうか......。」

  そんなハキハキとした口調が聞こえると、俺は一度足を止め、その声の方へと顔を向けた。

  すると、そこには戦闘によってボロボロになった防具を纏ったリュイを始めとする『特殊異能部隊』の皆が息を切らしながら膝をついて頭を下げていた。

「お前達......。」

  俺がそんな風に驚きの表情を見せると、代表してリュイがこう続けた。

「私ども、軍帥殿のご厚意により、助けては頂いたのですが、どうしても気持ちの整理がつかない所存です!! 何故ここに、隊長殿やキュアリス様、桜殿、それに、『空撃士』様がおられるのかは不明ですが、是非とも、もう一度私達に......。」

  俺は、そんな彼女達の訴えを聞くと、先程『崩壊の神』に見せられたキュアリスが命を持って『特殊異能部隊』を救った映像を思い出した。

  これから彼女達をもう一度戦地へと連れて行くという事は、俺が命を預かるという事になる。

  だが、そんな事、どうでも良かった。

  彼女達は、森山葉月や『ベリスタ王国』を心から愛している。

  だからこそ、命を引き換えにしても守りたいと思っているのだ。

  それならば、選択肢は一つだった。

  今の俺は、『英雄』への一歩を踏み出したのだ。

  それに、今はかつてない程の自信が俺を奮い立たせる。

  ならば、やってやろうじゃないか......。


ーー全員無事で帰る未来の為にも......。


  そう考えると俺は、リュイにこう返答をした。

「じゃあ、全員で倒そうじゃないか。『ヘリスタディ帝国』をな!! 」

  それを聞いた『特殊異能部隊』は、顔を上げて涙を流した。
 

「ご厚意、感謝申し上げます!! 」

  そんな事を口々にしながら......。

「じゃあ、改めて、行くぞ!! 『ロンブローシティ』へと!! 」

  俺はそう宣言すると、そこにいる全員を光に包み込んだ。

  そして、その光を先程の街までの道筋に結びつけると、その中に風を生じさせて、全員を勢い良く『ロンブローシティ』へと飛ばしたのだ。

  待っていろ、『ヘリスタディ帝国軍』。

  俺は今から、『英雄』としてお前達を倒す!!

  そんな思いを持ってして、俺はその場所へ向かう。


ーー信頼出来る仲間達と共に......。
 

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