天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第142話 俺達の物語の始まり。


ーーーーーー

「申し遅れました事、謝罪申し上げます。」

  アメールは『崩壊の神』の傍らでキッチリと正座をして、無表情のままにお辞儀をした。

「いや、それは分かったのだが......。」

  俺が苦笑いを浮かべながらそう答えると、アメールは再び深々と頭を下げる。

  何故、この様な状況になっているのかというと、その理由はたった一つだ。


ーー彼女が言うには、どうやらアメール自身は元々、『霞神社』にて、『崩壊の神』の使いを長く勤めていたらしい。


  そんな中で、百年ほど前に神自身の勅令により、現世に降り立って『英雄』の案内役を任されたと言う事だ。

  だが、待てど暮らせど彼女の下へはそれに該当する人物が来なかった。
 
  「ならば」と考えた彼女は、数年前から『ベリスタ王国』の給仕として勤めてその機会を伺っていたのだという。

「と言うことは、お前は元々、この様な流れになると、知っていたというのか......? 」

  俺が身を乗り出して彼女にそう問いかけると、アメールは顔を上げて俺をマジマジと見ながらそれに答える。

「そうですね。隊長殿が元の世界にある『霞神社』からここにやって来て『試練』を受ける事は、ある程度想定しておりました。」

  それを聞いた俺は、大きくため息をつく。

  何故ならば、これは全て『崩壊の神』による画策通りであった事に気がついたからである。

  あちらの世界での森山葉月にせよ、俺は常に操られている様な......。

「ならば、今までの事は、ここまで辿り着く為の演技であったと言うのか......。」

  俺がそう問いかけると、アメールは首を傾げながら、

「まあ、そう言う事になりますね。社とも他人の振りをしたり、大袈裟に盛り上がってみたりもしましたし......。それにしても、『ベリスタ王国』の給仕になって良かったと本当に思っております。」

と、小さく微笑んだ。

  この女、社ともグルだったんだな......。

  それにしても、給仕が軍に関与するなんて......。

  俺がそんな疑問を頭で考えていると、ニルンドがその答えをすぐに口にした。

「やっと合点が行ったよ!! 何で、軍の中でも『最高戦力』並に強い筈のアメールがずっと給仕を続けていたかも、それに、今回の『霞神社』への派遣に対して積極的に手をあげた事も!! 」

  ニルンドが騒がしい声でそんな風に核心を突くと、アメールは少しだけ恥ずかしい表情を浮かべた後で、一つ咳払いをして、こう続けた。

「まあ、どちらにせよ、これにて私の指令は終了したと言えます。」

  それを聞いた隣に座り込む『崩壊の神』は、薄っすらと笑みを浮かべた後で、ゆっくりと口を開く。

「アメール、長い間お勤めご苦労様でした。これで、後三名になりましたね......。」

  俺は、『崩壊の神』の口にした「後三名」と言う言葉に引っかかる。

  それが、何を意味するのかと......。

「それは一体どう言う事だ......? 」

  俺がそんな風に疑問を口にすると、『崩壊の神』は、静かに立ち上がり出した。

  そして、薄暗い部屋の壁に手を当てると、そこから一枚の絵を映し出す。

「要は、幾らあなたが『英雄』になったとしても、世界を救う事は、一人では出来ないのですよ。」

  そう言うと、彼女はその絵に描かれた光を纏って刀を手に取り果敢に戦う一人の青年を指差した。

  俺はそんな彼女の仕草に同調する様にしてその絵を見渡す。


ーーその絵には、先頭を走る青年と、その背後を追いかける様にしてついて行く甲冑を身に纏った少女、それに、手から土の『異能』と思しきオーラを身に纏った茶髪の幼女、それに、余りかっこいいとは言えない決めポーズを取る黒髪ツインテールの少女が描かれている。


  その一人一人の顔を見ていると、俺はある事に気がつく。


「もしかしてこれって......。」

  俺がそう問いかけると、『崩壊の神』は俺に近づいて来て、こう答えた。

「これは昔話になりますが、過去にあの世界では一度、世界中を脅かす程の大戦が起きた事があります。その当時は、弱肉強食を顕著に具現化した様な時代であり、力のない人々は戦火に巻き込まれて死んでしまったのですよ。......しかし、そんな時、『英雄』率いる七人の人々が結託して世界を救ったのです。」

  俺は、それを聞くと少しだけ考え込む。

  過去にも今と同じ様な状況が既に起きていたのかと......。

  そんな俺の顔を見ると、『崩壊の神』は、部屋の外で俺の復活に安心した桜の遊び相手をするキュアリスと優花を眺めながらこう続けた。

「今この場所には、そのうちの四人がいます。各『異能』には、その頂点を占める『使』がいます。その者は、『英雄』の傍らで世界救済を手伝う役目を担っているのです。」


ーー彼女の言葉の後で俺は、一点に外の三人を眺める『崩壊の神』視線の先に目をやる。


「と言う事は......。」

  俺がそう彼女に呟くと、『崩壊の神』は笑いながらあっさりとその答えを述べた。

「彼女達は、『業火の使』、『大地の使』、それに、『水源の使』と言う事になりますね......。」

  俺はそれを聞くと、唖然とした。


ーーキュアリス、桜、更には優花。


  この三人が俺と共にこれから戦う仲間だと言う事に......。

「だ、だが、優花に関しては、今まで日本で『異能』や『魔法』とは無縁の生活をして来たんだぞ!! それは、何かの手違いでは......。」

  それを聞いたアメールは、『崩壊の神』を補足するかの様に口を開き出した。

「そうですね。いずれは自然と転移する筈だったのでありましょう。しかし、ちょうどあちらの世界にいる時に見つけてしまったので......。」

  俺は、そんなアメールの補足に抗う。

  どうしても優花には平和に暮らしていて欲しいから......。

「しかし、それでは説得力が無いだろう。あまりにも話が抽象的すぎる!! 」

  俺がそう必死になると、アメールはため息をついた後で、そこに付け加える様にしてこう続けた。

「まあ、妹さんに戦争と無関係な平和に暮らして欲しいのは分かりますが、これは仕方ない事なのですよ。何故ならば、『使』になる資格のある者には、特徴があります。」

  俺は、その『資格』という言葉を聞くと、アメールの顔をマジマジと眺めた。

  そんな俺の強い視線を真っ直ぐ見つめる彼女はこう言った。

「本来ならば、転移した者の存在は全て記憶から抹消されてしまいます。しかし、二つの世界の中で、ごく稀にその全てを覚えている者が存在します。それこそが、『使』になる者の資格なのですよ......。」

  それを聞いた俺は嫌という程、自覚させられた。

  確かに、優花は過去に起きた俺や兄の生い立ちを事細かに覚えていた。

  それはつまり、『使』の資格を持ち合わせてしまっていた事になる。


ーーという事は、キュアリス、桜、それに優花は意と反してこれから来たる戦いに身を投じなければならないのだ......。


  ちょうど外では優花が、初めて手から水の『異能』を使える事に気がつき驚いているのが見えた。

「俺一人では、どうにもならないのか......? 」

  それに気がついてしまった俺が俯きながらそう問いかけると、『崩壊の神』は俺の肩にポンッと手を当てた後で、こう答えた。

「お気の毒ですが、これは逃れられる事のない運命です。死後の世界でも、あなたのお兄さんが仰っていたでしょう......。これが、『試練』を終えたあなたに私からお伝えすべき『重要な情報』ですよ......。」

  俺は、それを聞くと、複雑な気持ちになる。
  
  皆を守るのではない、俺は、皆と戦うのだと......。

  誰も逆らう事の出来ぬ神からのお告げ......。

  それは、どうにも出来ない事。


ーーならば、俺がやらねばならない事、それは......。


  そう思うと、俺は立ち上がり、『使』として呼ばれる事がなく落ち込んでいるニルンドの横を通り過ぎると、外に向かいキュアリス、桜、優花の三人に頭を下げてこう嘆願をした。

「申し訳ない!! 実はお前達は、『英雄』の傍で戦う運命らしいんだ......。だから、これからも、俺の近くに居てくれないか......? 」

  それを聞いた三人は、遊んでいる手を止めた。

  その後で、各々が話し出す。

「なんか、いきなり訳のわからない事を言われて複雑な気持ちだけど、元々ずっと私は雄二の味方であり続けるつもりだよ。」

  キュアリスは、優しい口調でそう答える。

  桜はそんな二人のやり取りを見ると、俺の方へ走って来て抱きつき、ニコッと笑う。

「桜は、いつまでも雄二から離れないからね!! 大好きな『家族』だもん!! 」

  そして、真相を解明する為にここまでやって来た優花は、一瞬、状況を把握し切れて居なかった様だが、何かを察した様にこう答えた。

「結局、私の求めて居た物が何かは分からなかったんだね......。でも、雄二お兄ちゃんとならどこへでもついて行くよ。」

  それを聞いた俺は、遂に優花へと兄がどうなったかを告げようとした。

「後、実は兄貴の事だが......。」

  それを聞いた優花は、俺が全てを話そうとする前に、体を震わせながら笑い、こう言った。

「そうだと思っていたよ。どうせ浩志お兄ちゃんの事だから、「戦争を終わらせよう」とか言い出して戦いに参加して死んじゃったんでしょ?! 全く......。優しすぎるから......。」

  優花は涙を堪えている。

  俺はそんな彼女を俯きながら抱きしめた。

「ごめんな、ずっと黙ってて......。」

  それを聞いた優花は、俺の胸の中で俯きながら静かに泣いていた。


ーーしかし、その後ですぐに涙を拭って、俺の方を真っ直ぐに向いた。


「ならば、我が『邪神』として、そんな動乱の時代に終止符を打ってやろうではないか!! 」


ーー優花は、悲しみを隠す様にして中二病なポーズを取る。


  俺は、そんな彼女に心苦しさを感じながらも、こう囁いた。

「これからも、宜しくな......。」

  優花は俺がそう言って手を差し出すと、その手を取った。

  兄貴、俺は『崩壊の神』からとんでもない事を告げられたよ。

  かつて兄貴を慕っていた人も含めて、これから俺と共に世界を救うんだから......。

  でも、俺は誰も死なせやしない。

  だって俺は、『天才』だ。


ーーこれからは『度が過ぎる才能』を遺憾なく発揮しようと思うよ。


ーー争いのない平和な世界を作る為にも......。


  俺はそう心に誓った後で、『崩壊の神』にこうお願いをした。

「では、手始めに森山葉月のいる『ロンブローシティ』での戦闘を終わらせに行きたいと思う。今すぐあの世界に戻してくれないか? 」

  それを聞いた『崩壊の神』は、一つため息をつく。

「全く......。気が早いですね......。後の三人も、いずれは現れる事でしょう。それではアメール、彼らをあちらの世界まで案内してくれませんか......? 」

  そんな俺の願いを聞いたアメールは、おもむろに立ち上がると、頷いた。

「我が主よ、仰せのままに......。」

  彼女はそう呟くと、天井に向けて両手をかざした。

  すると、そこからは『時空の歪み』が現れる。

  それを見た皆は、一斉に立ち上がる。


ーーあちらの世界に戻る為に。


「準備ができました。では、前に進んでください。」

  アメールが先導する形で『時空の歪み』に入り込むと、俺達は、その一歩を踏み出したのだ。


ーー今だに凹み続けるニルンドも連れて......。

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