天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第140話 光の異能。


ーーーーーー


ーー俺には、『度が過ぎる才能』がある。


  それは、世間からすると、何よりも求める物なのかもしれない。

  自分という存在価値を探し続けるのが人間の性であるのだとしたら、それは、一つの『個性』に帰属するのである。

  その誰とも変え難い『個性』を前向きに捉えられる事は、決して容易ではない。

  『個性』を基に、人それぞれに各々の物語があるのだとしたら、それは俺にも該当する筈なのだ。

  世間は俺を、『アンドロイド』と呼んでいる。

  それは、人の心を微塵も感じさせない俺の動きを見ての事だ。

  余りにも常人離れしてしまっている要領の良さに加え、努力という物を飛び越えてしまう結果。

  誰もが、俺のそんな動きだけにしか目を向けない。


ーーまるで、人形劇を見ているかの様に......。


  中学生の時、兄がいなくなった。

  それから俺は、本物のアンドロイドの様になった。

  ずっと心の奥に潜み続けていた感情を沈めながら。

  一日中喋らない事もあった。

  誰も、俺の中身を見てくれない。

  そうやって悲しみを押し殺して生きてきたのだから......。


ーーあの世界に行くまでは......。


  あの世界に行ってからの俺は、感情を手に入れた。

  それまで押し込めた反動なのか、人よりも強く感情を表に出す様になった。

  本気で守りたいと思う存在も出来たのだ。

  だからこそ、俺は、呪文を詠唱する前、兄にこう問い掛けた。

「最後に、誰かに伝える事はあるか......? 」

  それを聞いた兄は、『時空の歪み』が周囲を包み込むその部屋で、腕を組みながら一度考えた後で、こう答えた。

「それなら、葉月にこう伝えて貰ってもいいか? 」

「......。」

  俺は、それを聞くと首を傾げた。

  兄が、森山葉月に伝えたかった真意が分からなかったからだ。
  
  そんな俺を見た兄は、ニコッと笑い、

「まあ、彼女に言えばすぐ伝わるよ。」

とだけ答えたのだ。

  俺はそれに対して、うなずき、

「分かった。必ず伝えるよ。」

と、言い残し、開かれている紙に記された呪文に目を通した。


ーー俺はその呪文を覚え切った所で、最後に兄の方を向き、一つ頭を下げた。


「一度だけでも会えて、本当に良かったよ。俺は、これから『英雄』になる。いつかまた会った時は、土産話を沢山するよ。」

  それを聞いた兄は、俺の右肩に手を置いた後に、

「まあ、ここは死後の世界だ。あまり早く戻って来るなよ!! 後、元気でな。」

と、曇りのない目でそう答えた。

  俺は、そんな兄を見ると、また泣き出しそうになる。

  次会う時は、俺がもう一度死んだ時。

  それがすぐ先にあるのか、それとも膨大な時間の先にあるのか、今の俺には分からない。

  しかし、 それがいつであったとしても、俺は、死んでしまった兄の分も精一杯生きる事を心に誓った。


ーー兄の意志、『世界を救う』を成し遂げるまでは......。


「じゃあ、またな。」

  俺はそう兄に呟く。

  それに兄が頷いたのを最後に、俺はゆっくりと詠唱を始めたのだ。

  呪文は至ってシンプルなものだった。

  だからこそ、詠唱を始めてすぐに周囲に塗れた『時空の歪み』は、あっという間に虹色の光を放ちながら俺を包み込む。

  それに、抗う事のない俺は、風圧とも似た感覚の中で、次第に遠くへと消えてゆく兄の姿をずっと見つめていた。


ーー『頑張れよ!! 』と叫びながら必死に手を振る兄を見ながら......。


  そして、詠唱を完全に唱え終えた時、俺の目の前は真っ暗になったのだった。


ーーーーーー

  ゆっくりと目を開けると、俺は先程『崩壊の神』と共に最後の『試練』を待っていた薄暗い部屋の天井が見えた。

  俺はその確認が済むと少しだけホッとする。


ーー何とか、詠唱は成功した様だな......。


  俺はそう考えると、その後で周囲を見渡した。

  そんな中、ふと、仰向けになった体を横に向けると、目に沢山の涙を浮かべたキュアリスと、桜、それに優花やニルンドが俺を見ていた。

「私の代わりに死のうとするなんて、雄二は本当に馬鹿だよ......。」

  溢れる涙の雫を俺の頬に向けて落としながら俺の目を見つめるキュアリスが震え声でそう呟いた。

  俺はそんな彼女の一言を聞くと、静かに体を起こした。

  本当に生き返ったんだ。

  改めてそれを自覚した俺は、キュアリスの方をしっかりと見つめた後でフフッと小さく微笑んだ。

「お前だって、同じじゃないか......。」

  俺はそう呟くと、それをきっかけにそこにいる全員が俺に向けて飛び込んできた。

  皆は、俺を心配してくれていたのだ。

  それは、確かに分かっていた事である。

  しかし、やはり心の何処かで自分自身を否定し続けていたのかもしれない。

  どうせ、俺なんか......。

  幼少期から植え付けられたその気持ちは、いつまでもしつこく心の奥に根付いていたのである。

  だからこそ、頭で分かっていた事でさえも、一度疑う気持ちを持って接してしまう。

  それは、自分の弱さであり、弱点になり得るのだ。

  ここにいる皆を、俺は信用している。


ーー助けたい、守りたい、そんな戯言すらも本気で考えてしまう。


  再三、キュアリスや桜に言われてきた事すらも、本能的な所で俺は否定していたのだ。


ーー「少しでも自分を好きになる」


  こんな簡単な事を、俺は出来ていなかったのだ。

  でも、今は違う。

  本心から『度が過ぎる才能』を持って生まれた事を誇りに思う。

  だって、俺にだけ全てを守れる力が備わっているんだから......。


ーー死んでしまった兄の為にも......。


  そして、俺はまとわりつく全員に向け、笑顔でこう宣言をした。

「心配かけてすまなかった。俺は自分を否定し過ぎたのかもしれない。......なってやるよ。『英雄』にな!! 」
 
  俺が自信を持ってそう叫ぶと、その途端に俺の体からは、目を覆いたくなる程の白い光が現れた。

  それと同時に、体の内部からは、今まで感じた事のない程の力を感じる。


「これは......。」

  俺がそんな風に自分の変化に動揺していると、先程から部屋の隅で俺達の様子を見ていた『崩壊の神』は、ゆっくりと拍手をした。

「おめでとうございます、佐山雄二さん。これにて最後の『試練』は終了となりました。あなたは、『英雄』への第一歩を踏み出したのです。」
 
  それを聞いた俺は、相変わらず発光を続ける体を気にしながら、『崩壊の神』に向けて問い掛けた。


「これで、終わったというのか......? 」

  俺がそう質問をすると、彼女は白く眩しいその光を見ながら、微笑んでこう答えた。

「そうですね。何故ならば、今あなたを包み込んでいるその光こそ、『英雄の証』である光の『異能』なのですから......。」

  俺は、そんな彼女の説明の後で、両手を見つめた。

  視線を移したその手からは、力強く輝く真っ白な光が、お待たせと言わんばかりに煌々ときらめく。


  そこでやっと自覚した。


ーー俺は、光の『異能』を使えるようになった事に......。


  そして、『崩壊の神』の隣で正座をしているアメールは、無表情でその様子を見ながらボソッと一言呟いた。

「これで、私の目的は果たせましたね。」

  それを聞いた『崩壊の神』は、アメールの方を見ながら、こう返答をした。

「よく、佐山雄二さんをここまで導いてくれましたね......。」

  そんな彼女の賞賛を聞いたアメールは、フフッと小さく微笑んだ。

「主のお告げとあれば......」

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コメント

  • ペンギン

    なるほど、「光」が無いなぁとは思っていましたが、こういう事だったのですね!納得しました!

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