天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第139話 自分を信じて。


ーーーーーー

  俺は兄に促されてその部屋に入ると、すぐにそこが異様な空間である事を察知した。


ーー何故ならば、俺が何度か見た事がある『時空の歪み』が部屋中に渦巻いていたからである。


  そんな光景を見て、俺が呆然としていると、兄はすかさず視線を向ける。

「もう既に何度も見て来た事ではあるかもしれない。これこそ、俺やお前が転移するきっかけとなった『時空の歪み』だ。これに特殊な作用をかけると、お前は元に戻る事が出来るぞ。」

  それを聞いた俺は、兄にこう問い掛けた。

「それはわかったのだが、何故、兄貴は方法を知っているにも関わらず、自分で実践しようと思わなかったんだ? 」
 
  俺のそんな質問に対して、兄は苦笑いをする。

  その後で、こんな事を口にした。

「簡単な事だよ。俺にはここを潜り抜ける資格が無かったってだけだ。」

  兄の言っている事の意味はよく分からなかった。

  しかし、俺は、もし可能性があるのなら、兄を生き返らせたい。

  何故なら、彼を慕う相手が、彼の復活を待っているからだ。


ーーそれは、俺ではない。


  そんな事を考えると、俺は兄をこう説得したのだった。

「優花も、キュアリスも、森山葉月も、兄貴の事を想っているんだ。だから、生き返るべきは俺ではないんだよ。」

  それを聞いた兄は、一瞬驚いた表情を見せた。

  その後で微笑み、こう呟く。

「あいつら、元気にしているんだな......。」

  俺は、そう呟く兄の悲しそうな笑みを見ると、必死の形相を浮かべて続けた。

「そうだよ!! 元気にしている。だから、兄貴は生き返って、幸せに暮らしてくれよ!! 」

  俺が、今までずっと守ってもらった様に......。

  だが、兄は俺の説得を聞くと、静かに微笑んで首を横に振った。

「ならば、余計に戻る事は出来ないな......。」

  俺は、そんな兄の返答を聞くと、彼の両肩を力強く掴む。

「何でだよ!! 俺だって、兄貴には世話になった!! それに、みんなにも喜んでほしい。だから......。」


ーー俺がそう言いかけた時、兄は俺の言葉を遮断する様にして、こう言った。


「最後の『試練』......。それを受けている者だけなんだよ。ここを抜けられるのは。それに、俺には守る力が無かった。悩んだし、苦しんだ。でもな、俺じゃ無かったんだよ。世界を救う『英雄』はな......。」

  俺は、それを聞くと、話す事をやめた。


ーーいや、喋られなくなったのだ。


  それから静かに兄の肩から手を解く。


ーー兄の目から、絶対に折れない意志を感じたからだ......。


「でも、そうしたら、兄貴は......。」

  俺がそう問いかけると、兄は優しい笑顔でこう答えた。

「俺の事は、心配するな。それよりも、これからもずっと、あいつらの事を守ってやってくれよ......。」

  そして、彼はその言葉の後でポケットから四つ折りに畳まれた一枚の紙を俺に差し出した。

「これは......。」

  俺がそう呟きながらそれを受け取ると、兄は説明を始めた。

「ここに書いている呪文を詠唱すると、お前はこの部屋の『歪み』と共鳴して元いた場所に戻る事が出来る。」

  それを聞いた俺は、ゆっくりとその紙を開いた。

  すると、そこには彼の言った通りに一行の呪文が記されていた。

  俺が、この呪文を説いた時、何が起きるか。

  それは、再び兄と別れる事になるという事だ。

  その意味も、兄は十分に理解している。


ーーだからこそ、俺は辛さで胸が押し潰されそうになったのだ。


  そんな葛藤の中で俺が俯いていると、兄は俺の背中に手を当てた。

「良いんだよ。お前には少しだけ負担になるかもしれない。でも、『英雄』はお前にしかなれないんだ。」

  それを聞いた俺は、肩を震わせながら続け様に問いかける。

「それは、兄貴の意志でもあるのか......? 」

  俺がそんな事を問いかけると、兄は笑顔でこう答えた。

「当たり前だ。お前なら出来る。兄である俺が自信を持って言うよ。だから、お前は生きてくれ。」

  それを聞いた俺は、歯を食いしばる。

  こんな俺に、出来るのだろうか......。


ーーしかし、兄にここまで言われた以上は......。


  俺は自分の可能性を信じてみることにした。


ーー目の前にいる兄の為にも......。


  そして、兄にこう伝えた。

「いつか俺は、必ず世界を救う。それまではここで待っていてくれ。」

  それを聞いた兄は、万遍の笑みで俺の頭を撫でた。

「よし、それでこそ俺の弟だ。」


ーーそんな兄の発言に対して、俺は溢れそうな涙を堪えてこう宣言をした。


「では、詠唱を始めるぞ。」

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コメント

  • ノベルバユーザー87569

    セリフの文末とか敬語なんかは統一してほしい…

    1
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