天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第136話 死後の世界。


ーーーーーー


ーーあれ......?


ーー俺は今、何をしているんだろうか。


  それすらも疑う程に、柔らかくて暖かい、何一つとして疑念や悪意といった類の物は存在しない空間で心を癒している。

  目の前には、二つの世界が混在とした都市があり、中世ヨーロッパ風の建物があれば、都心に聳え立つビルも並んでいる。

  俺はそんな不思議だらけの空間にも関わらず、その歪な場所をすぐに受け入れた。


ーーそう、此処こそが、死後の街なのだから......。


  足元から真っ直ぐに伸びるアスファルトに懐かしさを感じるのは、俺が日本で生きていた証とも言える。

  その道の先には、今まで数多亡くなっていったであろう人々が、商売をしたり、酒を飲んだりして平和に暮らしている。

  人々からは、負の感情という物は一つも感じられず、各々が各々で幸せを掴んでいる事がすぐに分かった。

  俺は俺で、その街を少し歩いてみる。

  一歩一歩を確実な足取りで進んで行くと、八百屋の前でひと組の夫婦が寄り添う様にして夕食の食材を選んでいるのを見つけた。

  そこに娘と思われる一人の子どもが、父の袖を引っ張りながら、食事の催促をしている。

  俺は、そんなやりとりをする家族を見ると、その姿を自分に投影した。


ーーキュアリス、桜......。


  そんな風に思い返せば、俺は、フフッと微笑んだ。

  その後で、ふと、思った事がある。

  俺はこれから、どうすれば良いのだろうか......。

  もう、悲しみや苦しみから解放されても良いのだろうか......。

  果たして、俺の人生は良いものだったのだろうか......。

  そう強く思うと、俺は再び歩き出す。

  頼れる物は無いものの、気持ちを優しく包み込むこの場所を......。


ーーーーーー

  それから俺は、二、三日の間、暫く街を歩いた。

  意外な発見が沢山あり、しかも、不思議と疲れも感じない。

  日本家屋や石造りの洋風な建物、少し先には港があり、多くの船が波止場に停まっていた。

  山なんかには温泉と思しき施設があり、死後の人々で賑わっていた。

  その山の頂には湖があるという。

  俺は、その場所に向かう為にもゆっくりと足を進めた。


ーー次第に暮れて行く夕日を横目に......。


  俺が湖に辿り着いた時には、辺りは真っ暗になっていた。

  それから、湖に近寄って行くと、俺はそこの水に手を当ててみた。


ーー冷たい......。


  そんな冷たさを指先に感じながら、広大に広がるその湖の近くの草原に、思い切り仰向けになった。

  ふと、見上げるとそこには幾千の星が俺の目に飛び込んで来た。

  そんな星達の美しさに、少しだけ涙を流しながら、俺はふと、ため息をつく。

  ああ、俺は本当に死んでしまったんだな......。

  キュアリス、俺の分も幸せに生きてくれよ......。

  そんな風に考えていると、段々と意識が薄れて行く。


ーーそろそろ寝るか......。


  俺はそう決めると、静かに目を瞑った。

  すると、次第に意識は真っ暗になって行った。


ーーーーーー


ーー「君、そんな所で寝ていると、風邪をひいてしまうぞ!! 」ーー


  朝焼けの光が眩しい早朝、俺は男のハキハキとした声に目を覚ます。


ーーすっかりと眠ってしまった......。


  俺はそんな風にまだ意識が朦朧とする中で、無理やり目を開き、その声の元となる男の方に視線を向けた。

  すると、その男は俺が起きた事を確認すると、一つため息をつく。

「全く、幾ら死後の世界とはいえ、こんな所で寝るのは無用心すぎるぞ!! 」

  俺は、そんな騒がしい彼の発言の後、体をゆっくりと起こして彼の方に向けた。

  そこで俺は、彼の顔をはっきりと見た。


ーーあれ......? この男、もしかして......。


  俺がそんな風に眠気が吹き飛んでいると、彼も俺の顔を見て驚きの表情を見せた。

  それもその筈だ。


ーー何故なら彼は......。


  そして、びっくりな顔をしたその男は、探る様な口調でこう俺に問い掛けたのだ。

「お前、雄二だよな......? 」

  それを聞いた俺は、反射的に大きく頷いて見せた。

  その後で、思い知った。

  この男が、何者であるかを。

  朝焼けに反射して輝いている死後の世界の湖で、俺はお節介な男に出会った。
 
  いや、この場合は、再会と言えるであろう......。


ーー何故ならば、その男こそ昔、突然に異世界へと転移してしまった兄、『佐山浩志』そのものなのだから......。

「天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

  • ペンギン

    マジか...w予想外の展開で面白いです!wありがとうございます!

    1
コメントを書く