天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第135話 二つの選択肢。


ーーーーーー

  俺は、光り輝く本殿の廊下にて、多量の汗を流し、息を上がらせているキュアリスを見ると、なにが起きているのか分からなくなっていた。

  いや、理解する事を、理性が頑なに否定し続けているのだ。


ーー今、この場所にいるという事、それは即ち......。


  キュアリス自身は、俺達の存在に気づいていない様子だ。

「あれ......? 何でここにキュアリスがいるの? 」

  桜は彼女を直視しながら呆然と立ち尽くす俺の脇から顔を出して、純粋無垢にそう疑問を口にした。

  彼女は分かっていないのだ。

  今、キュアリスがここにいる理由を......。

  そんな風に言葉を失っている俺を見ると、『崩壊の神』は相変わらず笑顔のままにこんな事を口にした。

「これは、紛れもなく現実です。あなたのお気持ちもよく分かるのですが、受け入れて頂きたい。」


ーー俺は、そんな彼女から出た余りにも無責任な言葉を聞くと、俯きながらこんな風に呟いた。


「どうせ、お前が仕掛けた事なんだろ......。」

  俺がそう彼女に対してそう問いかけると、『崩壊の神』は、素頓狂な口調でこう答える。

「何を仰いますか。彼女は、彼女の意志で死んだのですよ。あちらの世界において......。」

  俺はそれを聞くと、『崩壊の神』の胸ぐらを掴んだ。

「どうして死ぬ理由がある!! 俺が留守にしている間、彼女は『特殊異能部隊』の施設を預かっていた筈だぞ!! 」

  俺がそんな風に怒鳴ると、『崩壊の神』は、力強く摑みかかる俺の手を無理やり避け、その場にゆっくりと座り込んだ。

  そして、うすら笑みでこう提案をした。

「そこまで疑うのであるならば、彼女に起きた出来事を見せてあげましょう。」

  『崩壊の神』は、そう言った後で、手元に長方形のビジョンを作り出すと、俺達全員に見える様にして、ある映像を映し出した。

  俺達はそんな彼女の映像を食い入る様に見る。

  すると、そこには彼女が自らの意志で森山葉月や『特殊異能部隊』と共に戦争に行き、彼女らを助ける為に自死の道を選んだ顛末が、克明に映し出されていた。


「私達がこっちにいる間にこんな事が起きていたなんて......。」

  ニルンドは、そこにいる森山葉月の戦闘の様子を見ながら、愕然とした口調でそう呟いた。

「お兄ちゃん、こんな危険な世界にいたの......? 」

  優花は俺の腕を掴みながらそう問いかける。

  桜はもう、キュアリスが死んでしまった事に気がつくと、その場で泣きながら顔を覆っていた。

  俺は、キュアリスが闇に包まれながら自分を突き刺す瞬間を見ると、唇を噛み締めた。


ーー何が、『英雄』だ。


ーー何が、『世界の理』だよ......。


  結局、俺は何も守れていないじゃないか。

  苦しんでいる仲間も、悲しみに溢れる街の人々も......。

  そして、何よりも大切な存在すら失った。


ーー俺は、なんて最低な男だ。


  そんな風に自分を責めた後で、もう一度、息を切らしてその場に座り込んでしまっているキュアリスの方に目をやった。

  彼女は、確かに存在してしまっている。


ーーこの、『死後の世界』に......。


  『崩壊の神』は、俺が存在に気づく事のないキュアリスの方向を向いているのを確認すると、一度立ち上がった後で、俺の肩に手を当て、ゆっくりと喋り出す。

「正直な所、私自身もこの結末では余りにも酷だと考えております。そこで、一つ提案をさせてもらってもいいですか? 」

  俺は、彼女が口にしたその、『提案』と言う言葉を聞くと、勢い良く振り返った。

「その提案と言うのはなんだ......? 」

  それを聞いた『崩壊の神』は、フフッと笑う。

「そうですね。これは、最後の『試練』としての提案となりますが、あなたに二つの選択肢をあげましょう。」

  俺は、彼女が口にした選択肢と言う言葉を聞くと、ゴクリと生唾を飲み込んだ。


ーーそして、『崩壊の神』は、その提案を話し出す。


「あなたがキュアリスさんの身代わりとして死ぬか、キュアリスさんをそのままにして元の世界に生きるです。」


  『崩壊の神』の二択を聞いた俺は、一度彼女から目を逸らした。

  要は、俺かキュアリスどちらかを選べと言う事なのだから......。

  それを聞いたニルンドと優花は、焦った表情を浮かべながら、俺に詰め寄る。

「まさか、死ぬなんて言わないよね?! 」

  優花はベソをかきながら俺の両肩を掴んでそう問い詰めた。

  ニルンドも、泣きそうな顔をしながらこう言う。

「馬鹿な考えはよしてくれよ!! あんたは『英雄』になるんだ!! だから......。」

  そんな二人を横目に、桜の方に目をやると、桜は涙で崩れた顔を思い切り拭いた後で、立ち上がり、

「いやだ!! 雄二もキュアリスも死んでほしくない!! それだったら、桜を身代わりにしてよ!! そうすれば二人は生きられる!! 」

と、『崩壊の神』の元へと詰め寄って行った。

  皆が、俺が出すであろう答えを口にさせないように躍起になっている。

  正直な所、このまま死んでしまうのは、無念ではあるな。

  そんな風にキュアリスの方にチラッと視線を移した。

  『崩壊の神』は、掴んで離さない桜を無視しながら、俺の方へ寄ってきて、その答えを問いかけた。

「それでは、どちらを選びますか? 」

  それを聞いた俺は、小さく微笑んだ。

  多分、少し泣いていたと思う。

  でも、不思議と気持ちが暖かい。

  そして、俺は彼女にその答えを告げた。

「俺は、死んでも良い。キュアリスを、助けてやってくれ......。」

  それを聞いた『崩壊の神』は、一瞬だけ驚きの表情を浮かべた後で、微笑み、こう口を開いた。

「本当に、それで良いのですね......? 」

  そんな彼女の最後の問いに、俺は大きく頷いた。

  それを聞いた『崩壊の神』は、俺に向けて右手を突き出した。

  すると、そこからは白く眩い光が現れ、俺の体全体を包み込む。

  多分、それを受けた者は、あの世に送られて行くのだろう。

  それを感じ取った桜やニルンド、それに優花は『崩壊の神』にしがみついて、それをやめさせようと躍起になっている。

  俺はそれを横目に一筋の涙を流した。


ーー多分、最後の『試練』を乗り越えた事にはならないだろう。


  桜にも優花にも、悪い事をしたとは思っている。

  しかし、後悔はしていない。

  俺は、彼女と出会って変われたから。

  何もない無味乾燥な日々に彩りを与えてくれたのは、紛れもなくキュアリスだったから。

  元より死んでしまおうとすら考えていた俺を、変えてくれたのは、彼女だ。


ーーこれで、良かったんだ。


  俺は世界で一番大切な人を救えるのだ。

  『英雄』にはなれなかったけど、それだけでも、俺が出来る事はきっとしたと思う。


ーーいや、それが最高の結末だ......。


  そんな風に思いながら、更に光を増すと同時に体が薄くなって来ている俺は、最後にキュアリスの方を見た。

  すると、しゃがみ込んで涙を流していたキュアリスは、顔を上げて、俺の存在に気がついたのだ。


「雄二......? 」

  涙を拭い、キョトンとしながらそう呟いたキュアリスに対して、俺は消え掛かった体で、微笑みながらこう言った。

「キュアリス、今までありがとな......。」

  そう呟いた後に本能的に涙目で駆け寄る彼女を見つつ、俺は静かに目を瞑った。


ーー大好きな彼女の感覚を一瞬だけ感じながら。


ーーそして、目の前は、真っ暗になった。
 

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コメント

  • ペンギン

    ...............え?主人公が死んじゃうの!?
    この後、どうなるの!?え!?え!?もう、訳わかんない...

    0
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