天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第132話 眩い光を放つ本殿。


ーーーーーー

「あれ......? 私は、何を......。」

  目を覚ましたキュアリスは、森の中で一人、体を起こす。


ーーどうやら、深い深い眠りに落ちていた様で、体はいつもよりも重かった。


  そんな中で、寝惚けている彼女は一人、先程自分の身に起きた出来事を思い返す。


ーー詳細まで、事細かにじっくりと......。


その後で、彼女は何もかもを思い出した時、涙が溢れてきたのだ。


ーーそして、背中にある筈の古傷がない事を確認すると、彼女はある事実に気づいた。


「そうだ、私、死んじゃったんだった......。」

  彼女はそう呟き、現実を思い知ると、止まらない涙を拭った後で、小さくはにかんだ。

「『特殊異能部隊』のみんなはこれで助かった。きっと、戦争は葉月が何とかしてくれる筈。だって、葉月は何を隠そう、『軍帥』だしね。彼ら『異世界人』の攻撃に関しては熟知している。それに、あの場においては私が足手まといになっていただろうし......。必ず上手く行くよ!! 」

  しかし、そう笑顔で胸を張った後で、キュアリスは悲しそうな顔をしながら俯いた。

  彼女には、たった一つだけ心残りがある。


ーーそれは、『佐山雄二』の存在だ。


  彼女自身は元々、自分勝手な理由で彼の留守にしている間に、訓練施設を飛び出し戦地へと赴いた。

  そんな状況で彼女が佐山雄二を心配するのも、ワガママである。


ーーしかし、彼女は願ってしまった。


「もう一度、雄二に会いたかったなぁ......。」

  そう考えるとキュアリスは、自分の顔を両手で強く叩いた後で立ち上がり、死後の世界と思われる深い森の中をゆっくりと歩き出したのだ。


ーー薄暗い森の奥の方で輝く一点の光を、疑う事なく目印にして......。


ーーーーーー

  生と死の境界にある『霞神社』の本殿を走る俺を含めた皆は、少々驚かされていた。


ーーその内部は、どこを見ても白く、眩い光を放っていて、神々しささえ感じさせるからだ。


「まさか、驚いたものだよ......。さっきまでの闇の空間とは、えらい違いだ。」

  俺がそう呟くと、優花はにこやかな表情を浮かべてこう答えた。

「そうだね。これだけの室内を作るのは、日本でも絶対にできない事だし......。」


ーーその後で、彼女はこんな事を言った。


「あまりにも非現実的な事が多過ぎてびっくりしたけど、この先の『試練』を乗り越えた時、分かるんだね......。私が追いかけていた事実が......。」

  俺はそんな優花の一言を聞くと、小さく微笑んだ。

「ああ、そうだな......。」

  俺がそんな風に優花の発言に浸っていると、すっかりと精神的に正常に戻って明るくなった桜は、俺の背中の上で、肩を叩きながらこう言った。

「やっと終わるんだね。これが終わったら、またキュアリスのご飯が食べたいなぁ~。」

  俺はそれに対して、再び微笑んだ。

  やはり桜は、こう能天気でなければ、桜ではない。
 
  先程のランドリー・シェムとの戦いの中で、俺は一つ気がついた事がある。

  それは、当たり前を手にする事の難しさだ。


ーー今ある日々は、少しでもバランスを崩すと、すぐに壊れてしまう程、脆いものなのだ。


  だからこそ、守りたいと思う。

  俺は、そんな当たり前の事を一瞬でも見失っていたのかもしれない。

  そう考えると、俺は背中から桜の呼吸を感じると、掴まっている小さな手をギュッと握った。

「桜、帰って来てくれてありがとな。」

  俺がそう呟くと、桜は、後ろから明るい口調でこう言った。

「これからも桜の事を宜しくね!! 」

  俺はそんな桜の言葉に対して、大袈裟に頷いた。

  それと同時に、ある衝動が湧いて来た。


ーーキュアリスに会いたい。


  そんな気持ちだ。

  最後の『試練』が先の二つよりも過酷になるかもしれないのは、重々承知している。


ーーだが俺は、絶対に乗り越えると強く誓った。


  ここに来てからずっと、自分に足りない物が露見している。

  それを全て直せと言われると甚だ疑問だが、今、本殿を走る俺は、何故か見えない自身に満ち溢れている。
  
  根拠は無い。

  だが、『俺ならできる』という言葉が、体の奥底から湧いてくるのだ。


ーーそれは、一体何故だろう。


  理由は分からない。

  しかし、一つだけ分かっている事がある。

  それは今、俺が口先だけではなく、心の底から『世界を救いたい』と思っている事だ。

  ランドリー・シェムの様な悪意を持った人間が、あちらの世界には多く点在している。


ーーその火の粉は渦を巻いて戦争へと突き進んでいるのだ。


  俺は、そんな未来の見えない不安定な状況を打開したい。

  この世界の真相だって、全てを知りたい。

  そして、何よりもキュアリスを守りたい......。

  だから、俺は足を止める事をやめた。

  自分に自信を持つ事にした。


ーー『俺は、天才だ』そんな風に自分を奮い立たせた......。


  そして、何の障害も起こらぬまま、俺達は一番奥の部屋の前に辿り着いた。

「いよいよ、ここまで来たのだな......。」

  ニルンドは、柄にもなく生唾を飲みながら緊張感している。

  先程、『魔法』によって動きが止められてしまった事で、この『試練』の過酷さを身を持って感じたのかもしれない。


  アメールは、飽くまで冷静な素振りでその場に立ち止まった。


ーー俺は、そんな皆の様子を確認すると、ゆっくりとその部屋の扉に手をかけた。


「では、行くぞ......。」

  俺がそう宣言すると、皆は大きく頷く。

  そんな皆を見た後で、俺は静かに扉を開けたのだった。

  すると、その中には、畳の敷かれた簡素な部屋に、言っていた通り『崩壊の神』は正座を崩して待っていたのだ。

「あら、早かったですね。」

  彼女は素っ気ない口調でそんな事を呟く。

  俺はそれに対して、探る様にしてこう問いかけた。

「やあ、俺からしたら、物凄く長く感じたがな......。それで......。」

  俺がそんな風に最後の『試練』について聞こうとすると、彼女はニコッと笑いながら、俺の口元に指を当てた。

「申し訳ありませんが、もう少しだけ準備が必要になりましたので、暫くここでお待ち頂いても宜しいですか......? 」

  俺はそれを聞くと、脳内にて妙な詮索をする。


ーー『崩壊の神』は何を考えているのだろうか......。


  やはり、『異能』や『魔法』における戦闘を強いられるのだろうか......。

  俺はそんな風に考えると、彼女に質問をした。

「そんなに準備に時間が掛かるほど、過酷な『試練』となるのか......? 」

  『崩壊の神』は、俺が構えつつそう問いかけると、微笑を浮かべた後で、

「それも全て、整った時に分かりますよ......。」

と、茶を濁すに留まったのであった。

  それを聞くと俺は、これから何が起きるのか詮索する事をやめた。

  どんな『試練』がやって来ても、乗り越えてやるという強い意志を持ったからだ。


ーーそして、俺はゆっくりとその簡素な部屋に座り込んだのであった......。
 

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