天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第131話 聖騎士キュアリス。


ーーーーーー

  弱り切った瞳で彼女達を見つめるキュアリスは、体から少しずつ闇を帯び始めて、心が荒んできているのが分かった。


ーー本来、彼女はかつての戦争で『異世界人』から背中に受けた古傷により、長く戦う事が出来ない。


  しかし、この回避を繰り返す攻防戦は、ゆうに一時間を過ぎていた。

その頃になると、キュアリスの息は少しずつ上がって、意識が薄れ始める......。

「そろそろ、何か行動を起こさないと、私、やばいかも......。」

  狂乱の表情で彼女への攻撃を続ける『特殊異能部隊』を見つめてキュアリスはそんな事を呟いた。

  それに対して、森山葉月は、荒々しく放たれたミルトの雷の『異能』をさらりと避けながら、焦りの表情を浮かべる。

「やはり、この場面は早く切り抜けるのが先決の様ですね......。申し訳ないですが、彼女達を......。」

  それを聞いたキュアリスは、リュイの作り出した炎の剣を、背中に背負っていた剣で交わらせて抑えると、弱り切った口調でこう即答した。

「それだけは絶対にダメ......。大切な仲間を殺すなんて......。」


ーーその時、森山葉月は彼女の頑固なまでの決心を垣間見た気がした。


  それは、かつての幼馴染で戦友でもあった『佐山浩志』そのものであったから......。

  そんな風に考えると、一度、彼女は動きを止めてしまった。

  それを見た『特殊異能部隊』は、これ見よがしに彼女へと『異能』を放った。

  彼女が一瞬見せた隙は、思った以上に彼女自身の足を止める。

  森山葉月の元に各種の『異能』が到達した時、彼女は相手に攻撃をする覚悟を決めた。


ーーその膨大な攻撃を弾き飛ばす術はあるからだ。


  しかし、その攻撃を放つと、多分、彼女達にまで危害が加わる。

  下手をした殺してしまうかもしれない......。

  一瞬だけそんな葛藤をした後で、森山葉月は膨大な量の闇の『異能』を両腕から創り出すと、そのまま構えたのだ。

  キュアリスには申し訳ないが、この状況を打開出来るのは、これしか......。


ーーそれに、キュアリス自身を守る為も......。


  そんな事を考えながら......。


ーーそして、彼女が接近する『異能』に向けてそれを放とうとした時だった。


「ドォーーーン!!!! 」

  そんな爆音と共に、彼女の目の前でその攻撃は収まったのだ。

  ふと、前を見ると、黒みを帯びた赤い火の『異能』のバリアを作り上げて森山葉月を守るキュアリスの姿があったのだ......。

「彼女達を、傷つけるのはやめて......。それに、一つ思いついた事があるの......。」

  それを聞いた森山葉月は、少し嫌な予感がした。


ーー何故ならば、森山葉月を守るキュアリスのオーラは更に真っ黒になりつつあり、しかも、何らかの覚悟を決めた表情を浮かべていたからだ......。


「何をする気ですか......? 」

  森山葉月が闇の『異能』をしまった後でそう問いかけると、キュアリスは一瞬振り返った後で、

「大丈夫。彼女達は私が救う。どうせ私、このままだともう闇に侵されちゃうし......。でも、後の事はお願いしちゃってもいいかな? 」

と、ハニカミながらそう答えた。

  その後ですぐ、狂気に満ち溢れた『特殊異能部隊』の元へと駆け寄って行き、全身から闇のオーラを自ら作り出したのだ。


ーーすると、その闇のオーラは周囲にいる彼女達のオーラと共鳴を起こし始めた。


  それとともに、彼女は『特殊異能部隊』の闇を連れて行く様に空へと舞い上がって行った。

  それを見た森山葉月は、気がついてしまった。

  どうやらキュアリスは、自分の闇のオーラに彼女達の物を取り込む事で、『特殊異能部隊』の闇を全て取り払おうとするつもりらしい。


ーー『この世界で生まれた人間は、闇の耐性がない。もし多量の作用を起こせば、精神崩壊を起こす。』ーー


  そんな、この世界では当たり前の事を、仲間を救う為に実行しているのだ......。

  キュアリスが悲痛の叫びを上げながら闇を吸収し出すと、地上にいる『特殊異能部隊』の面々は、少しずつ動きが鈍くなって行く。

  どうやら、彼女の目論見は成功している様子だ。


ーーしかし、このままでは、キュアリスが......。


「やめてください!! あなた、このままでは死んでしまいますよ!! 」
  
  森山葉月が喉が裂けるくらいの声でそう叫ぶと、キュアリスは薄れて行く意識の中で一度、彼女のことを見た。

「大丈夫。これで上手く行くから......。残っている敵軍は、宜しく頼んだよ......。」

  彼女がそう呟くと、森山葉月は風のオーラを纏った後、急いでキュアリスの元へと近づいて行った。


  それと同時に、キュアリスは辺りの闇を全て吸収し終える。


ーーその頃になると、キュアリスを取り巻く周囲は、上空を深く覆うほどに闇に侵されていた。


「これ以上は、本当にやめてください!! 」

  森山葉月は、彼女に向かいながら、そう叫び続ける。


ーーすると、キュアリスは苦しい表情を和らげてゆっくりと背中から剣を取り出した。


「大丈夫。これで全て、上手く行くから......。」

  森山葉月は、その言葉を聞くと、歯を食いしばりながら更に加速を強めた。

  そして、彼女がたどり着こうとしたその瞬間、キュアリスはその剣を自分の胸に向かって、勢い良く突き刺したのだ。

  鋭く尖ったその剣の先は、彼女の防具を貫いて行った。


ーーそれと同時に彼女の体は、真っ赤に染まって行く......。


ーー闇の消滅と共に......。


  多量の血を流し、真っ青な顔をして地面へと堕ちて行くキュアリスを掴んだ時、森山葉月は確信した。


ーー『聖騎士』キュアリスは、自分の命を持ってして部下である『特殊異能部隊』を守った事を......。


  それから彼女は必死にキュアリスへ声を掛けた。

「あなたはまだ、死んではいけません!! 佐山雄二さんと、幸せに暮らすのでしょう!! 」

  それを聞いた虫の息のキュアリスは、咳をしながら、ゆっくりとこう答えた。

「そうだね......。会えなくなっちゃうのは辛いけど、私は何も後悔していないよ......。最後に、雄二に伝えておいて欲しい事があるの......。」


ーーそんなキュアリスの言葉を聞いた森山葉月は、頬から伝う涙を堪えながら、大きく頷いた。


「分かりました......。必ず伝えます......。」

  森山葉月がそんな風に言葉を返すと、キュアリスはニコッと笑った後で、最後にこう言った。

「あなたなら、この戦争を終わらせられる......。後は、頼んだよ。」


ーーそれを最後にキュアリスは静かに息を引き取った。


ーー森山葉月の胸の中で......。


  その後、彼女はすっかり闇のオーラが消え去り、気を失っている『特殊異能部隊』を横目に、俯きながらゆっくりと地面へと降り立った。


ーーこれでは、浩志の時と変わらないじゃないか......。


そんな風に自分を責め立てながら......。


ーーそして、穏やかな表情で死んで行ったキュアリスを静かに地面へと寝かせると、森山葉月は全身に闇のオーラを纏ったのだ。


「私が全て終わらせます。キュアリスさんの為にも......。」

  そう呟くと、決意を固めた表情で上を向いた。


ーーそんな時、広場には、その瞬間を待ちわびていたかの様に、大河原悠馬を始めとした数千を超える『ヘリスタディ帝国』の兵達が、たった一人である森山葉月の元へと現れた。


「一人だけ残ってしまったが、これならば大成功って事でいいよな!! 」

  大河原悠馬は、キュアリスの亡骸を見ながら笑い声を上げる。

  そんな彼らの悪意に満ちた声を聞くと、森山葉月は彼らの方へと体を向けた。


ーーそして、大声で叫ぶ。


「私が、終わらせてやる!! 」

  彼女はその宣言の後、おびただしい程の雷の『異能』を全身に纏って、たった一人で『ヘリスタディ帝国』の大軍へと突撃した。


ーーキュアリスの意思を継ぐ様に......。

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コメント

  • ペンギン

    え?キュアリスが死んじゃったら雄二と桜はどうなるの...?

    0
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