天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第129話 桜の憎悪。


ーーーーーー

  桜は相変わらず憎悪に満ち溢れた目で、ランドリー・シェムを睨んでいる。


ーーその視線から、桜の殺意がひしひしと伝わって来る。


  俺はそんな二人のやり取りを横目に、右手に草の『異能』で薬草を作り出した後、急いで患部を修復して、立ち上がった。


ーーそれは、彼女の手で、人を殺して欲しくはなかったからだ。


  俺がそんな風に思いながら桜の元へと走って行くと、桜はランドリー・シェムから視線を逸らさぬまま、俺の両腕と両足を鋼鉄の縄で縛ったのだ。

  その縄は硬く、幾ら暴れたとしても破れない程の強度があるのがすぐに分かった。

「何をするんだ!! 」

  俺がその場で暴れながらそう叫び、桜に問い詰めると、彼女は冷静な口調でこう答えた。

「もういいの。桜にも、『その時』が来ちゃったみたいだから......。」

  彼女のそんな言葉を聞くと、俺は狼狽えた。

「何を言っているんだ!! 全く意味がわからないぞ!! 」


ーーその時......?


  しかし、幾ら俺がそう叫び続けても、もう、桜は俺に向け返事をする事はなかった。

  その代わりに、ランドリー・シェムの震え声が聞こえて来る。

「おい、『崩壊の神』!! こんな展開は聞いていないぞ!! さすがに『大地の使』が出て来ては、こちらも手の出し様がない!! 」

  それを聞いた桜は、低いトーンでこんな事を呟いた。

「よくわからないなぁ......。まあ、とりあえず、あなたの罪はキッチリと償って貰うよ......。」

  そう呟くと、彼女の背後からは全長がゆうに百メートルを超える人の形をした鋼鉄のゴーレムが現れた。


ーーしかも、そのゴーレムは彼女の動きと連動していて、桜が思い切り右腕を引き、攻撃の構えを見せている。


  それを見たランドリー・シェムは、絶望とも取れる表情を浮かべながら、その場から走り去ろうとしている。


ーーだが、桜はそんな彼に対して、

「もう遅いよ。この力が呼び出されちゃったって事は、あなたはもう逃れる事は出来ないから。たとえ、あなたが死なない体になったとしても......。」

と、相変わらず殺意を持ってそう呟いた。

  そして、土の『異能』にて、地面を滑り、物凄い速さで遠くまで行ってしまったランドリー・シェムに向けて、彼女は小さな右手でパンチをした。

  すると、背後にいる巨大なゴーレムも、同じ様に風を切りながら正拳を放った。


ーーその腕の先からは、膨大な衝撃波が彼に真っ直ぐに進んで行った。


  それは、ランドリー・シェムの逃げるスピードを遥かに凌駕する。

  そのスピードを前に全く太刀打ち出来なかった彼は、それを周囲の爆音と共に、直接食らったのだ。

  それと共に、背後で苦しんでいたニルンド、アメール、それに優花は『魔法』の作用から解かれた様で、頭から手を離して、その場にくたびれながら放心状態で桜の様子を見ている。


ーー待ってくれ、このままでは、本当に桜が人を殺す事になってしまう......。


  俺は、硬く縛られた鋼鉄から逃れようと暴れながら、桜にこう叫んだ。

「もう、あいつの負けなんだ!! だから......。」

  すると桜は、俺の言った言葉を遮る様にして背後の巨大なゴーレムを体の中にしまい、

「まだまだ......。」

と、呟きながら、遠目でボロボロになったランドリー・シェムの方へと、桜は一目散に走り出し、血塗れで虫の息になった彼の上に馬乗りになった。

「や、やめてくれ......。」

  ランドリー・シェムが弱々しい声でそう嘆願をすると、桜は右手に土のオーラを纏いながら、彼の顔面を思い切り殴りつけた。

「何を言っているの......? やめるわけが無いじゃん。」

  彼女はそう言うと、両手で彼を何発も殴打する。


ーー顔面の形が変形する程、むごく......。


  俺はそんな彼女の暴走を見ると、居た堪れない気持ちになった。

  そう考えると、俺は全力で炎のオーラを纏わせた後で、全身に力を込めた。


ーー何とか、間に合ってくれ......。


  すると、その鋼鉄は火力で変形して柔らかくなり、その縄を引きちぎる事で、やっと体の自由が戻ったのである。

  俺はそれに安心すると、風の『異能』で加速し、躊躇なく殴打を繰り返す桜の元へと急いだ。


ーー何故、透明である筈のランドリー・シェムに攻撃出来るのか、彼の口にした『大地の使』とは一体何なのかは、まだわからない。


  しかし、今はそれよりも先に彼女の暴走を止める事が最優先だった。

  そして、馬乗りになる桜へとたどり着くと、急いで彼女の両腕を掴んだのだ。

「もう、終わりにしろ!! こいつが負けたのは、誰が見ても分かる事だ!! 」

  桜は俺に掴まれた腕をバタつかせると、ボロボロになって弱り切っているランドリー・シェムに向け、こんな風に叫んだ。

「止めないで!! こいつは、桜から大切な人を奪ったんだ!! 桜を操らせて、雄二まで攻撃をさせた......。桜は絶対に許さない!! 殺してやるんだ!! 」


ーー俺は、桜のそんな悲痛の叫びを聞くと、自然と涙が溢れた。


  親を殺され、意図せず信頼する人間を傷つけさせられた......。

  そんな桜にとって、彼は報いるべき相手である。


ーーそれは、誰から聞いても同じ答えになるだろう......。


  ただ、俺の気持ちは、全くブレる事は無かった。

  桜に人を殺して欲しくない。

  幸せな未来に生きて欲しい。

  俺にとって、大好きな『家族』なのだから......。

  俺はそんな感情が込み上げると、腕を掴まれて暴れる桜を、無理やり抱きしめたのだった。


ーーすると、桜はピタリと止まり、その後で、体の力を抜いたのだった。


  それを確認すると、俺は桜を向かい合わせた後でしゃがみ込み、笑顔で頭を撫でた。

「本当に悪かったな。桜に戦わせてしまって......。俺の力不足だったよ......。助けてくれて、ありがとな。」

  俺がそう優しい口調で褒めると、彼女は、みるみるうちに表情を歪ませた後で、俺の胸に顔を埋めた。

「怖かった。辛かった。悲しかった......。パパやママの事もそうだけど、何よりも、操られている間、幾ら否定しても、雄二を攻撃しちゃってた......。本当にごめんなさい......。桜、最低だよ......。」

  桜がそう懺悔にも似た言葉を口にすると、俺は強く桜を抱擁した。

「それくらい、大した事じゃないんだよ......。それに、俺は絶対にお前の事を嫌いになんかならない!! ずーっと、お前の味方であり続ける!! だから......。」

  俺がそんな風に彼女へと告げると、桜は一度俺の方へと顔を上げ、グシャグシャになった表情を笑顔に変えた後で、俺から伝う涙を指で掬った。

「雄二、ありがとね。」

  彼女がそんな言葉を発した途端、俺の周囲は光に包まれた。


ーーそれは、神々しい程に......。


  すると、背後でボロボロになったランドリー・シェムは次第に姿を消して行く。

「また、負けてしまったな......。佐山雄二、お前には最後の『試練』が残っている......。残念だが、お前にはそれを乗り越えられんよ......。」

  ランドリー・シェムは、ニヤッと悪い笑顔をしながらそう呟くと、そのまま光に包まれて完全に消えて行ったのであった。

  俺は、そんな彼を見た後、桜から体を離して周囲を見渡した。


ーーすると、第一の『試練』、第二の『試練』の時とは違い、先程まで薄暗かった闇の空間には、日差しの差し込んでいた。


  それを確認して安心したのか、先程までへたり込んでいた三人は走って俺と桜の元へとやって来て、喜んでいた。

「それにしても、一瞬死んでしまうかと思ったぞ!! 」

  ニルンドは、そんな風に切り替えた様な口調でそう言った。

  アメールは、まだ頭を抑えながら首を傾げる。

  優花は、桜の元へと涙ぐみながら近づき、彼女の両手を掴んだ後で、

「桜ちゃん、お兄ちゃんを助けてくれて、本当にありがとう......。」

と、感謝を述べた。


ーーすると、桜は困惑しながら俺の顔を見る。


  俺はそれに気がつくと、ニコッと笑いながら頷いた。

  それを見た桜は微笑んで、

「何もなくて良かった!! 」

と、答えたのであった。


ーーそれにしても、最後の『試練』とは、一体どの様な物なのだろう......。


  俺がそんな風に考えていると、空からは再び『崩壊の神』の声が聞こえた。

「おめでとうございます!! これで、二つの『試練』を突破しましたね!! 良かったですよ!! 」

  明るい彼女の声が聞こえると、俺は、天に向かってこう問いかけた。

「ああ、お前のせいで、一時はどうなる事かと思ったよ......。それで、最後の『試練』とはなんだ......? 」

  俺がそう問い詰めると、『崩壊の神』は、

「う~ん......。」

などと、考え込む素振りをみせた。

  その後で、思いついた様な口調で、こう提案したのだ。

「そうですね、最後の『試練』は、あなた方が私の所へ辿り着いた時に用意するとします。なので、これから廊下を伝って、一番奥にある部屋へと向かってください。」

  彼女がそう言うと、俺たちは再び、最初にいた広大な神社の境内に戻された。


ーーそして、その殺風景な空間の少し先には、まばゆい光を放ちながら、大きな本殿が姿を現したのだ。


「この中には、何もあなた方を妨げる物はありません。ですから、安心来てください。それで、また後ほど......。」

  その言葉を最後に、彼女の言葉は途切れた。


ーー俺は、彼女が言った最後の『試練』と言うものが、気になった。


  第一と、第二、二つの『試練』は、正直な所、苦痛としか感じられない程の嫌悪感を抱く物であった。

  と言うことは、最後はそれ以上に......。

  俺は、そんな事を考えながらも、先程、桜に悲しみを与えてしまった事を後悔し、次こそは自分で解決する事を誓った。

「お前に会った時に聞きたい事が、山程出来た。答えてもらうからな......。」

  そんな事を呟くと、そのまま走り出したのである。


ーー『崩壊の神』の待つ、一番奥の部屋へと......。

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