天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第128話 追いつめられた時。


ーーーーーー

  未だに『魔法』の作用によって頭を抱えながら、必死にその場で苦しむニルンド、アメール、優花の三人は、衰弱しきっていた。


ーーもう、今にも倒れてしまいそうな程に......。


  桜は深く暗い空間の中で、俺の攻撃を受けて意識を失っている。


ーーそんな彼女が目を覚ました時に、ランドリー・シェムから伝えられた事実を知った心の傷を抉られるのが、何より俺の胸が痛い。


  しかし、今この状況を加味すると、それ以前の問題になる可能性すらある。

  何故なら、俺は透明の敵と戦って深手を負っているからだ。

  俺は何とかそんな状況からの打開策を考えていた。

  『異能』は、文字通りすり抜けて行き、結局ひとつも当てられなかった。

  『魔法』においても、俺から幾ら繰り出したところで、この場所では発動する事なく、何一つとして反応を示すことはなかったのだ。

  そして、何よりも厄介なのは、彼は普通に『異能』や『魔法』が使えるという事だ。

  俺は途中から無意味な攻撃を続ける事を辞めた後、一度冷静になってランドリー・シェムの事を凝視した。


ーーしかし、今回の敵に関しては、余りにも死角が少なすぎるのだ。


  そんな事を考えて彼が作り出した十体のゴーレムの攻撃を避けているうちに、俺は先程桜から受けた『異能』のダメージにより、動きが鈍くなる。

  ランドリー・シェムは、そんな俺の様子を見ていたのか、そのゴーレム達の隙間を縫う様にして鉄の弾丸を、血が滴る左肩に放った。

  その攻撃を見落とした俺は、彼の思惑通りに貫通したのだ。

  俺の体には、それに対して今まで感じた事のない程の痛みを感じる。

  そして、大声で苦悶の叫びを浮かべながら、その場に立ち止まってしまった。

  肩から吹き出す血の量は、次第に増えて行き、俺は一度倒れこむ。


ーー体が動かない......。


  すると、それを見たランドリー・シェムは、ゴーレム達に俺を囲む様に指示を出した。


ーー目の前には大量のゴーレム。


  そんな様子にご満悦なのか、ランドリー・シェムは、ゆっくりと俺に近づいて行き、こう言い放った。

「いやあ、それにしても、死ぬ前の人間の表情って言うのは、最高な物だ。ましてや、我が殺された者のときたら、また一味違うものがあるよ......。」

  彼はそう言うと、血が滲んで苦しむ表情を浮かべた俺に向け、笑顔で勢い良く唾を吐いた。

「お前は、最低だ......。」

  俺が仰向けで絞り出す様な声をしてそう言うと、彼は下品な笑顔で俺の左肩を蹴っ飛ばした。

  そんな彼からの攻撃を受けると、おれは叫び声を上げた。

「もう死ぬ人間が、そんな事を言うのは少し御門違いでは......? 」

  彼は、完全に勝利を確信した上で、そう悦に浸る。


ーーくそ、俺は死ぬのか......?


  俺はそう考えると、悔しさから歯を食いしばった。

  すると、彼はゴーレム達に攻撃の準備をさせた。

  ゴーレム達は規律正しく右腕を思い切り構えて、地面に横たわる俺を攻撃しようとしている。

  俺はそれを見ると、死を確信してしまった。


ーー俺は『英雄』になどなれなかった。


  桜も傷つけ、あの世界も救えない。

  最後に一度、キュアリスに会いたかったな......。

  そんな俺の様子を少し遠くから見ている優花は、頭を抑えながら、

「お兄ちゃんを殺さないで......。」

と、涙を流して嘆願した。


ーーだが、そんな彼女の言葉は無惨にも届く事はない。


  俺は、そんな妹の声を聞くと、襲い来るゴーレムの腕を見ると、静かに目を瞑ったのだ。


ーーしかし、そんな時だった。


  空から炎のオーラを帯びたメテオが、数個落ち、俺の周囲を取り囲むゴーレムを一瞬で破壊したのだ。

  俺はそんな不意の出来事に慌てて辺りを見渡す。


ーー何が起きたのだ......?


  そんな風に考えながら......。


ーーすると、慌てるランドリー・シェムの奥の方から、小さな少女が、鬼の様な形相を浮かべて歩いて来たのだ。


ーー俺はその顔を見て、彼女が誰であるか、すぐに気がついた。


  そう、今まで見た事のない程に赤く、そして、黒いオーラを放っているその少女は、紛れもなく観音寺桜そのものだったからだ......。


ーーその雰囲気から、彼女が本当に桜なのかも疑う......。


  俺がそんな風に倒れ込んだままの状態で彼女を見ていると、桜は両手の拳を強く握りしめた後で、ランドリー・シェムに向け、こう叫んだのである。

「お前はまた、桜から大切な物を奪う気か!!!! 」

  それを聞いたランドリー・シェムは、その迫力に圧倒されて小刻みに震えていた。


ーーいや、多分、それだけが原因で恐れている様子ではない。


  何故ならば、余りにも過剰なまでに恐怖の表情を浮かべているからだ。

  そして、彼はその場に尻餅をついた後で、こんな事を口にした。

「い、今、覚醒するなど聞いていないぞ......。」


ーー俺はそんな桜の様子を見た時に気がついてしまった。


  桜が本当の力に目覚めてしまった事に......。

  彼女はそんな雰囲気に包まれながら、ランドリー・シェムへと一歩一歩近づいて行くのだった。

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コメント

  • ノベルバユーザー252836

    ここで雄二が殺されて帝国の思い通りになる末路も面白そうだなと思った

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