天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第126話 彼が犯した罪。


ーーーーーー


ーーある日、深い森の中で熊のぬいぐるみを抱く幼い少女に出会った。


  その少女は線香花火の様に儚く、そして、弱々しかった。


ーー俺はそんな彼女の姿を見た時に、守らねば、と、強く感じたのだった。


それから俺は、彼女と旅をする様になった。

  同じ時間を共有する事も増え、常に一喜一憂を分かち合う。


ーーそして、気がつけば日々の生活でかけがえのない存在になって行ったのだった......。


  俺は、その少女を何に変えても失いたくないと思っている。

  俺にとって、大切な『家族』なのだから......。

  だからこそ、そんな彼女が今、目の前で凶器を突き付けて俺を殺そうとしている事実を受け入れるのは、余りにも受け入れ難かった。


ーー例えそれが、操られていたのだとしても......。


「何かの冗談だよな......? 」

  俺は崩れた顔で、無機質な表情を浮かべる彼女にそんな質問を何度も繰り返した。

  しかし、俺がそんな発言をする度に、桜は俺に『異能』を放つ。


ーーまるで、今までの思い出が嘘であったかの様な......。


  そんな彼女の敵意を目の当たりにした俺は、唇を噛みしめる。

  少しでも気を抜くと、泣きそうになってしまうから......。


ーー「雄二の事は、桜が守るから!! 」ーー


  俺の頭の中で、彼女の口癖がこだまする。

  そんな時、桜は両手を俺の前に伸ばすと、そこから灰色のサッカーボール程の大きさをした土の『異能』の塊を作り出した。

  俺はそれを見ると、風の『異能』で加速しつつ、一度遠くへと間合いを取るのだった。


ーーどうしても桜に危害を加えたくなかったから......。


  しかし、桜はそんな灰色の塊をすっかりと大きく成長させると、そのまま土の『異能』で地面を波打たせ、俺の方へと高速で移動して来たのだった。

  俺はそんな不意打ちに対応する事が出来なかった。


ーーそして、すっかりと俺の目の前にやって来た桜は、その塊を俺に放ったのだ。


  それを腹部に思い切り食う。


ーー同時に、激痛と悲しみが入り混じり、俺は桜の前で膝をついた。


  口からは大量の血が流れる。

  そんな彼女の攻撃は、俺の今まで食らった中で一番苦しいものであった。

  肉体的にも、精神的にも......。


ーー悔しい。


ーー何故、桜がこんな事にならなければいけないのか......。


  俺はそう思うと、涙が溢れて来た。


ーー今ここにいる桜は、俺の知っている、優しくて、責任感が強い桜ではないのだから......。


  そして、俺は血を吐きながら咳払いをした後で、彼女に必死になって訴えた。

「なあ、元に戻ってくれよ!! お前は、そんな奴じゃないはずだろ......? 前みたいにまた、明るい桜に戻ってくれよ!! 」

  しかし、そんな俺の訴えも虚しく、桜は小石程の大きさをした弾丸を作り出すと、膝をつきながら両肩を持ち、嘆願をする俺に躊躇なく撃ち込むのだった。

  その小さな弾丸は、俺の左肩を突き抜けて行った。

  俺はそんな彼女の攻撃を受けると、左肩を押さえて苦痛の叫びを上げた。

  多分、それは物理的な痛みからではない。

  それをも凌駕する程の心の痛みだ。


ーー今までの桜との思い出が蘇る。


ーー笑っている時、泣いている時、ごねている時、それに、キュアリスと三人で囲った幸せな食卓......。


  俺にとってその全ては大切な思い出であり、決して忘れたくない、これからも続くと信じていたものだった。


ーーもしも、桜がこのまま元に戻らなかったら......。


  そんな不安を強く感じると、俺の体からは意図せずに、膨大な闇のオーラが桜を巻き込む様にして現れたのだった。

  大河原悠馬と戦った時に感じた絶望と同じ様に......。

  それに対して、桜は相変わらず俺に向け攻撃の手を緩めない。

  俺が繰り出した真っ暗な闇の中で、彼女は鉄器の剣を大量に作り出した後で、俺に放ってくるのだ。


ーーだが、その攻撃は俯く俺の闇の前で、到着する前に全て消え去ったのだった。


  その闇が『異能』をブラックホールの様に吸収して行く。

  それからランドリー・シェムにより操られている桜は、必死に俺へと攻撃を続けたのだ。


ーーしかし、その全ては闇の前に打ち消されて行った。


  俺はそんな彼女の滑稽なまでの動きを見ていると、悲しみをも凌駕した、底知れぬ切なさに打ちひしがれる。

  そして、ランドリー・シェムは無効化した事に対する苛立ちを感じたのか、桜を違う所に矛先を向けさせる。


ーーそれは、『魔法』により頭を押さえて苦しむ、三人の元だった。


  桜はそんな三人に向かって、手元に刀を作り、一目散に走って行く。


ーーこのままでは......。


  俺はそんな殺意が感じられる彼女の背中を見ると、闇落ちしかけた自分にグッと力を込めて、風の『異能』で加速し、背後から彼女の首元に裏拳を入れた。


ーー決して傷つけたくなかった桜に思い切り......。


  すると、桜はそのまま気を失い、俺の体におぶさる様にして倒れたのであった。

  俺はその時、初めて桜を殴ってしまった。

  本当はそんな事はしたくなかった。


ーーだが、アメールやニルンド、それに妹である優花を桜の手によって殺されてしまう現実に耐えられなかった。


  俺はそう考えると、左肩の痛みを感じながら自分の手を見た後で唇を噛みしめて、

「本当にごめんな......。」

と、俺に抱き抱えられる状態になってグッタリとしている桜に謝罪を述べた。

  それと共に、憎しみが俺の心を支配する。

  矛先はもちろん、こんな事態を招いた張本人であるランドリー・シェムだ。

  一瞬の出来事であったとはいえ、俺の『家族』を利用した罪、彼が桜に自分が殺したと告白した罪......。

  今、現在進行形でニルンド、アメール、優花の三人を苦しめている事も......。

  俺はそんな一つ一つに怒りを感じる。


ーーお前は、死んでもなお、人を苦しめ続けるのか......。


  そして、一度桜を遠くに寝かせると、広大に広がる不穏な空間の中で、俺は大きく息を吸い込んだ後で叫んだ。

「隠れていないで出てこい!! 俺がお前をもう一度潰してやるよ!! 」


ーー俺がそんな風に叫ぶと、上空遥か彼方からは、不快な笑い声が聞こえてきた。


  再び目の前に現れたランドリー・シェムは、俺の怒りを察しながらこんな風に呟く。

「結局、観音寺桜の真の実力は見れなかった様だな......。あのガキ、我の『魔法』操作を食らっていても、内部から抗い続けてきた。なんて扱いづらい者だ......。」

  俺はそんな桜に対する彼の扱いを聞くと、一言も言葉を発する事なく、そのまま彼に向け炎の『異能』を放った。

  すると、ランドリー・シェムに当たった筈の俺の攻撃は、彼の体を綺麗にすり抜けて行った。

「お主は本質を理解していない様だな。 死んだ人間は、もう死ぬ事が無いのだよ。実体も無いのだから、攻撃も当たるまい。」

  彼はそんな風に俺を嘲笑った。

  だが、俺はそんな言葉を気にする事なく彼に近づいて行き、決して当たる筈が無いと分かっていながら、彼を素手で殴ったり、無造作に『異能』を放ったりした。


ーー桜を傷つけてしまった自分への懺悔も込めて......。


  俺が先程の『知の神龍』に言われた事も忘れて、暫くそんな事を繰り返していると、ランドリー・シェムは一本の指を立て、俺の目の前を爆発させた。


ーーそれをまともに食らった俺は、体を焦がしてその場に倒れこむ。


ーーお前だけは......。


  俺はそう思うと、再び立ち上がった。

  この男だけは、何があっても倒してやる。
 
  そんな気持ちにさせられながら......。

  すると、そんな俺に向け、ランドリー・シェムは笑いながら周囲に鉄の兵士を作り出すと、こう言った。

「お主もなかなかな死にたがりだな......。ならば、今すぐ楽にしてやるよ。」

  そんな彼の一言に俺は、決意を固めた。


ーー死んでいようと、関係ない。


ーーどんな方法を取っても、もう一度こいつを葬り去ってやると......。
 

「天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く