天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第125話 愛する仲間と。


ーーーーーー


ーー俺は今、夢を見ているのだろうか......。


  あの日、桜を連れ去ろうとしていた『ヘリスタディ帝国』の『暗躍部隊』に属していたランドリー・シェム。

  俺は、彼があの時、あの森の中で俺が首を落とした時の事を思い出していた。


ーーそれは、俺が異世界に転移して、初めて人を殺めてしまった瞬間だった。


  彼によって命共々消されてしまった村の事も思い出す。


ーーその場所は桜の故郷で、彼女の父と母も無残なまでに殺されて行った。


  俺は、そんな彼を始めとする『ヘリスタディ帝国』に今まで感じた事がない程の憤りと理不尽さを感じての行動であった。
 
  あの時と同じ格好をした、黒いマントに身を包んでいるランドリー・シェムを目の前にすると、怒りと罪悪感が入り混じるのであった。

「何をボーッと突っ立っているんだ......? 貴様は、我を殺したのではないか。 あの時の様にもう一度......。」

  何もない暗い空間で、彼はそんな事を言いながら俺の方へ視線を向けた後で、背後に控える桜の方へと目をやった。

「お前さえ、いなければ......。」

  ランドリー・シェムは、憎々しい表情を浮かべながら、ボソッとそんな事を口にする。

  それに対して桜は怖がりながら、優花の腕に掴まっていた。

  優花は、先程の俺の戦闘を見た事により、ずっと呆然としていたのだが、桜の右手が彼女の左腕に触れた時、ふと、我に帰った様で、震える体を無理矢理に奮い立たせる様にして、桜をこう励ましたのであった。

「ククク......。気にするでない。あの程度の男、この『邪神』の眼中にも至らぬわ。」

  ランドリー・シェムは、そんな彼女の発言を見事にスルーすると、再び桜にこう声を掛けた。

「あの日、国から貴様を連れ去れという指令を受けた。我はそれを易々と承諾してしまったのが全ての過ちだったのだ......。まあ、まさか、度が過ぎる『異世界人』に遭遇するなんて思ってもいなかった。」

  桜はそんなランドリー・シェムの発言を聞くと、小刻みに震えている。


ーー彼はそんな桜を見ると、大きな声で笑い出した。


「実際に、お前が『ベゴニア村』にて何が起きたかは知らなかったであろう......。ならば、我が教えてやろう。」

  ランドリー・シェムがそんな事を口にすると、俺は彼に向け闇の『異能』を放った。


ーー桜は彼に連れ去られそうになっていたが、その後に何があったか詳しい事は知らない。


  それを知り、彼女の両親を殺した張本人が目の前にいると知った時、桜はどんな顔をするのかを想像したくなかった。

  しかし、そんな俺の動きを見たランドリー・シェムは、俺の方をギロッと睨んだ。

  すると、俺の体の自由は奪われて行く。

  目眩と頭痛で体が動かなくなる。


ーー俺はここに来てからずっと、『結界』を張っていた筈だった。


  しかし、どうやらこの場所においては、その『結界』は全く意味を成さないらしい。


ーー何故なら現に、俺は今、『魔法』に掛けられてしまっているのだから......。


「や、やめろ......。」

  俺が頭を抱えながら、跪き、絞り出した様な口調でそう言うと、ランドリー・シェムは、俺を気にも留めずにニヤッと笑いながら再び桜を見る。


ーーそして、ランドリー・シェムは、一度遮られたその先の言葉をゆっくりと桜へ伝えたのだ。


「お主の両親を殺したのは、誰でもない、我なのだよ......。」

  桜はその言葉を聞くと、その場で呆然とした。


ーー隣で何が起きたのかもわからずに只、桜を心配そうに見つめる優花を気にもせずに......。


  その後で桜は、優花の腕を振りほどき、高らかに笑うランドリー・シェムの方へと、俯きながらゆっくりと近づいていった。

「あなたがパパとママを殺したの......? 」

  桜は相変わらず下を向きながらそう呟く。

  それに対して、ランドリー・シェムは、不敵な笑みを浮かべながら明るい口調で惚けながら答えた。

「あれ?! 知らなかったか~? 」


ーー桜はそんな彼の罪悪感のない口調を聞くと、勢い良く顔を上げた。


  その顔は、涙で全体を濡らしていた。

  そして、彼女は雄叫びにも近い叫びをあげながら、思い切り土の『異能』で作った剣を数十発ランドリー・シェムへと撃ち込んだ。

  そんな彼女の攻撃を、ランドリー・シェムは垂直に飛び上がる事であっさり避けると、そのまま彼女の元へと間合いを詰めた。

  俺はそんな彼らの様子を見ると、焦りを感じた。

  何故ならば、今は『結界』が通用しない。

  即ち、彼のかける『魔法』は全て反映してしまうのだから......。

  俺はそう考えると、薄れ行く意識の中で、全身に力を込めた。

  すると、体の自由が戻る。


ーーそんな奇怪な体質である俺は、そのまま桜の元へと急いで駆け寄って行った。


  そして、俺は桜を抱きしめると、ランドリー・シェムから一度、遠のくのだった。

「危なかった......。後少しで『魔法』を掛けられる所だった......。」

  俺がそんな風にホッと胸をなで下ろすと、ランドリー・シェムはケタケタと下品な笑い声を上げた。

「もう、遅いよ......。」

  彼がそう呟くと、俺が抱きしめている桜は、突然手に土の『異能』の鋭利な刃物を作り出して、それを俺に向け振りかざしたのだ。


ーーそれに対して、俺は慌てて桜から一旦離れた。


  俺はそんな桜の表情を見た時、全身の鳥肌が立った。

  そう、彼女は『メルパルク山脈』で戦ったグリンデルと同じ、全く生気を感じさせない無機質な表情を浮かべて俺を見ていたからだ......。

  つまり桜は、ランドリー・シェムに意識を乗っ取られてしまったのだ......。

  それが完了した事を確認したランドリー・シェムは、果てしなく続く闇の空間の遥か彼方に消え去って行った。

「お前の相手は、『観音寺桜』だ。俺が味わった屈辱はこれで清算させてもらうぜ......。」


ーーそんな言葉を残した後で......。


  俺はそんな彼に対して強い憤りを感じた。

  しかも、ふと周囲を見渡すと、アメールやニルンド、それに、先程まで桜を勇気付けていた優花までもが、『魔法』による作用で膝をつき苦しんでいた。

  俺はそんな状況に焦りながらも、相変わらず表情の無い桜に向けて、こう言った。

「あれ......? いきなりどうしたんだ......? 」


ーー返ってくる事が無いと分かっているのに......。


  すると、桜は俺が放った言葉に反応する様にして、俺の立っている地面から、槍の様に尖った剣山を無数に突き上げてきたのだ。

  それを、俺は慌てて風の『異能』を使って浮き上がり避けたのだった。

  しかし、桜はそのまま浮き上がった俺に向け、再び手から土の『異能』で弾丸を作り放って来たのだ。


ーーそして、それをも回避した時に俺は痛感した。


  これから、いつもそばにいた、誰よりも大切な『家族』である『観音寺桜』と戦わなければならないという事に......。

「これが第二の『試練』......。」

  俺は、そんな余りにも理不尽な『崩壊の神』に対して心を痛めつつ、襲い来る桜の攻撃を避けるのであった。

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