天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第124話 分かっていた筈の事。


ーーーーーー

「なかなか良い動きをしておるな......。」

  地面を波打つ低く大きな声で、『知の神龍』は俺に向け、話しを始めた。

  俺は、彼の浮き上がった大きな体を見つつ、先程までの戦闘に息を上がらせながらそれに答えた。

「俺も驚いたものだよ。まさかお前が理性を持った生き物であるとは思ってもいなかったからな......。」

  それを聞いた『知の神龍』は、高らかに笑った。

  そして、鋭くどう猛な黄色い瞳をこちらに向けた後で、俺にこう告げたのだ。

「それはさぞ、絶望を感じたであろう。しかし、お主はまだ戦闘における本質を理解しておらん。それでは決して我に勝つ事は出来んぞ。」


ーーそれを聞いた俺は、一度『知の神龍』の方をジッと見つめてみた。


  鋼鉄の様に硬そうな鱗を怪しげに光らせ、口元は鋭利で輝く牙が見える。

  ツノも一度刺さったらもう終わりと言う程に強く尖っていた。


ーーそれでいてあの攻撃......。


  そう、これだけの巨体でありながら、俺はヤツの弱点を見つける事が出来ない。
 
  何よりも、焦りから必死になり過ぎているのだ......。


ーーそれに分かってはいるが......。


  そんな風に俺が考えていると、『知の神龍』はうんざりしたのか、俺にこう言った。

「折角考える時間を与えてやったにも関わらず、お主は何も見つけ出す事が出来なかった様だな......。これでは、我が師である『崩壊の神』に顔向けも出来ん。悪いが、『試練』終わりの様だな......。」

  『知の神龍』はそう呟くと、俺に向けて打つであろう闇の『異能』を放つ為の準備として、その大きな体を思い切り反った後で、口元を黒く、怪しく光らせたのであった。


ーーこれだけの時間を貰いながら、俺は何も分からぬままだった。


  すると、龍の口元から繰り出された闇は、どんどんと周囲を巻き込み怪しく、漆黒に包んで行った。

  多分、その攻撃を喰らえば下に控える四人を含めて、諸々は亡骸すらも残らずに消え去ってしまうだろう。


ーー俺はそう考えると、再び『知の神龍』の体を見渡した。


ーーあれだけの時間を与えたと言う事は、彼の体には何かがあるはずだ......。


  そんな風に次第に膨張していく闇を目の前に、一度深呼吸をした後で相手を確認すると、俺はある事に気がついた。


ーー『知の神龍』が反っている体の丁度胸元の辺りに、白く光る丸い玉の様な物が付いている事に......。


「もしかして......。」

  俺はそれに気がつくと、体全身に風のオーラを纏った。

  それが完成すると、手元に火の『異能』で刀を作ったのだ。


ーー『知の神龍』もすっかりと攻撃の準備ができた様で、禍々しい程に暗く、力強い闇を纏いつつ、俺の方を向いたのだった。


  俺はそれを見た時、失敗したら全てが終わる事を確信した。

  いよいよ龍がそのブレスを放とうとしたその時、俺は、風で加速した体をそのまま白く光る胸元へと突っ込んで行ったのだ。

  すっかり突き立てた火の刀をそこに向かって思い切り刺した。
  
  その玉は異常なまでに硬かったが、俺は必死にそこに向け、壊そうと力を込めた。


ーーこれが失敗すれば、みんなは......。


ーーすると、その玉には次第に亀裂が入る。


  そして、俺が最後に力を込めると、その玉は木っ端微塵に破裂して、俺は身体ごと『知の神龍』を貫通して行ったのだった。

  俺は勢い余りそのまま何処まで続くかも分からない上空へと登って行く。

  それが収まった時、俺は下にいる『知の神龍』の方に目をやった。


ーーすると、『知の神龍』の先程まで禍々しい程に溜め込んでいた闇の『異能』は、綺麗さっぱりに消え去っていたのだ。


  俺はそれを確認すると、急いでその場所に戻り、固まっている『知の神龍』の眉間の辺りを手に持っている火の刀で思い切りつけたのだった。


ーーそんな俺の攻撃により、『知の神龍』は勢いよく燃え上がった。


  俺はそれを見ると、自分が勝利した事を確信した。

  そんな時、胸元に穴を開け、煌々と燃え上がる『知の神龍』は、最後の力を振り絞って俺に向けこんな事を言い出した。
 

「最後の最後で分かってくれて良かったぞ......。危うく殺してしまう所だった。お主は戦いに没頭し過ぎる所がある......。そうなると、冷静になればすぐにわかる事でも見落としてしまう......。只、面と向かって戦うだけでは今後、本物の『英雄』になる事は難しいぞ......。これからはそれを肝に命じておくがいい......。」

  神龍はそう呟くと、俺の火の『異能』で赤く燃え上がりながら、静かに消えて行った。


ーー俺は、そんな消え行く神龍を見た時、歯ぎしりをした。


  『知の神龍』は、それを理解してもらう為にわざと負けたのだから......。

  彼によって、自分の足りない所が顕著になった事で、俺は果てしない悔しさを感じていた。


ーーもし、『知の神龍』が本気で掛かってきたとしたら、俺は速攻で負けてしまっていたのだから......。


  戦闘とは、その場その場の状況がある。


ーーしかし、俺は常に同じ様に戦ってしまっていたのだ。


  相手の事など考えずに......。

  それはいつか、必ず俺自身の弱点になる。


ーー今までもずっと分かっていた事なのに......。


  そんな心境になると俺は、唇を噛み締めながら四人の待つ地上へと降りて行ったのだった。


「良くやった!! 途中危なかったけど、何とか勝った!! 後、二つの『試練』さえ乗り越えれば、『崩壊の神』が待つ本殿に辿り着けるぞ!! 」

  ニルンドは、そんな風に有頂天な口調で俺に肩を組んできた。


ーーそれ以外の三人は、まだ不安そうな表情を浮かべている。


  俺はそんな三人を見ると、悔しさを胸の中に仕舞い、笑顔でこう答えた。

「そうだな!! 次は何が来るのか分からないが、絶対に突破してみせるよ!! 」

  そんな風に笑顔で言うと、皆は少しだけホッとした表情を浮かべたのだった。


ーーそんな時、遠くの方から再び『崩壊の神』の声が聞こえてきた。


「おめでとうございます。第一の『試練』は見事突破した様ですね。少し危なかった所はありましたが......。では、そのまま前の方に進んで頂けますか? 」

  彼女の声が聞こえた後、果てしなく続く境内の先には、眩い光を放つ、小さな扉が現れたのだった。

  俺はそれを見ると、再び拳を握り締めた。


ーーここの先には第二の『試練』があるのだから......。


  そう考えつつ、一度四人の方を振り返り、
 
「よし、では再び進むぞ。」

と、宣言をした。

  すると、皆も同様に体にグッと力を込めて、大きく頷いたのだった。


ーーそして、俺は扉を開いた。


ーーその中を覗き込むと、俺は一度立ち止まる。


  何故ならば、そこにいたのは、俺が前に殺した『ヘリスタディ帝国』の魔法使い、『ランドリー・シェム』本人だった。

  真っ暗でジメジメとした、形容するならば地獄とでも言える何もない空間で、悪意にも似た笑顔を覗かせている。


「久しぶりだな、佐山雄二くん......。」


  そんな彼の言葉を聞くと、少しだけ躊躇をした。


ーー俺が殺した相手を、もう一度殺さなければならないのだから......。

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