天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第123話 それぞれが進む道。


ーーーーーー

  社は、崩壊の街『メディウス』を行く『ヘリスタディ帝国』の一万を超える軍勢が『霞神社』に向かってくるのを眺めていた。

「やはり、葉月の睨んだ通り、軍の行動を分散させて攻めて来たか......。」

  彼女はそんな事を呟いた後で、静かに立ち上がる。

  その後で、襲いかかるその者達に向けてゆっくりと右手を伸ばした。

  そして、その手からは目に見えぬ程に小さく、真っ白な光が作り出され、それは、向かい来る『ヘリスタディ帝国』の軍勢に放たれた。


ーー『ヘリスタディ帝国』の兵士達はそんなちっぽけな光の存在に気がつく事もなく、そのまま目的の『霞神社』に走り続ける。


  それを確認すると、彼女は静かに目を閉じた。

「全く......。」

  社はため息をつきながらそうボヤくと、鋭い眼光の目を開いて右手に力を込めたのだ。


ーーその途端、小さく儚かった筈の光は、一気に大軍全体を包み込む程に大きくなり、そのまま天高くまで真っ直ぐに、勢い良く伸びて行ったのだ。


  目を覆いたくなる程、眩い光を放ちながら......。

  すると、先程まで威勢良く足を進めていた軍勢は、光の中で一人一人消滅して行く。

  まるで、最初からそこにいなかったかのごとく......。

  そして、その光が雲を割ってその先に到達した時、ゆっくりと消えて行ったのである。

「お前達が幾ら強くても、強大な力を手に入れたとしても、決してあたしには勝てるわけがないよ。だって、もう既にあたしは人間を超えてしまったんだから......。」

  大軍が一瞬にして消滅し、普段通りに戻った風景の中で、社は悲しい表情を浮かべながらそう言った。

  その後で、『崩壊の神』の動向が気になった社は、本殿に戻ると、雄二達が入って行った『時空の歪み』の中に、勢い良く飛び込んだのだ。


ーー佐山雄二達が消えてから、彼女は姿を現さない。


  それはつまり......。

  そして、『時空の歪み』の中で念じる。

  『死後の世界へ導きたまえ』と......。

  すると、社は『時空の歪み』から『崩壊の神』がいる場所に辿り着いたのだ。

  社が息を荒げながら、悠然と座る彼女の前に立つと、『崩壊の神』はニコッと笑いながらこう問いかけた。

「いきなりどうしたんですか? あなたはここにいてはいけない筈なのに......。」

  そんな『崩壊の神』の質問に対して、社は少し不機嫌な表情を浮かべながら、

「どうせあたしが、何を考えているのかなんて、分かっているんだろ......。」

と、俯きながら答える。

  『崩壊の神』は、社の考えをサラリと読み取ると、手元に長方形の光を作り出した後で、

「とりあえず、これを見てください。」

と、社の肩を軽く掴んで膝元に置いた。


ーーすると、その長方形の光からは、ひとつの映像が映し出された。


「これは......。」

  社はその映像を見ると、驚愕した。


ーー何故ならば、そこには黒光りした龍と必死に戦う佐山雄二の姿があったからだ。


  しかも、彼はその龍に押されている。

  いや、回避を繰り返しているのだ。


「お前、何をしているんだ......。」

  社が冷や汗をかきながら『崩壊の神』にそう問いかけると、彼女はフフッと笑った。

「あなたなら、よく分かる筈ですよね。これが、『試練』だと言うことは。」

  それを聞いた社は、一瞬、過去の事を思い出して歯を食いしばった後、深呼吸をして、

「下手をしたら死んでしまうぞ。お前は、ヤツの味方なんじゃないのか? 」

と、飽くまで気丈に振る舞いながらそう質問した。
 
  それに対して『崩壊の神』は、相変わらず口元を緩めながら、

「それは、これから決まりますよ。ここで死んでしまった時は、『英雄』の資質が無かったという事ですからね。どちらにせよ、私は楽しみにしていますよ。それが例え、どちらに転がったとしても......。」

と言いながら、手元の映像を消した後で、『死後の神社』の本殿の壁に掛けられた一枚の絵に目をやっていた。

  社はそんな彼女の姿勢の先を見ると、ため息をついて立ち上なり、本殿内にある『時空の歪み』の方に足を進めた。

「まあ、神であるお前には何も関係がない話だからな。」

  社が背後にいる『崩壊の神』を見る事なく吐き捨てる様にそう呟くと、彼女はそれに対して首を傾げながらこう答えた。

「あら、社さんがここまで熱くなるのなんて珍しいですね。」

  それを聞いた社は、神妙な表情を浮かべながら言った。

「いつまでも白々しいな。百年以上前に、あたしはお前に使役する為、あの『試練』を受けたぞ。それは、今も時々思い出すよ。後悔した事もあった。想像を絶する程に過酷な『試練』について......。」

  彼女はその言葉を残すと、再び『時空の歪み』に入り、元いた『霞神社』へと戻って行ったのだった。

  そんな社の後ろ姿を見届けながら『崩壊の神』は、物思いにふける。

  そして、その後で再び光に雄二と龍が戦っている映像を映し出すと、ニヤッと笑いながらこう呟いた。

「あれからもう百年を超えたのですか......。それにしても、佐山雄二さん、早くしないと大切な物が壊れてしまいますよ。第一の『試練』、『知の神龍』に手こずっている様では......。」



ーーーーーー

  森山葉月が風の『異能』を駆使して作り出した道しるべを進むキュアリスと『特殊異能部隊』の面々は、地形に沿う様にして物凄いスピードで『ロンブローシティ』へと向かっていた。


ーー驚くことに、その風は山すらでも有効になっていて、本来なら苦労して登る山すらもスムーズに進む。


  途中一度、睡眠の為に休んだ以外は、その風に乗るだけであった。


ーーそして、最後の山を越えて再び平地に差し掛かった辺りで、キュアリスは奥に見える街と思しきシルエットを見つけた。


「そろそろ到着するね。葉月の『異能』のおかげで、こんなにも早く街が見え始めたよ。」

  キュアリスはそう言うと、森山葉月に目をやる。

  それに対して森山葉月は微笑みながら、

「それは嬉しいです。しかし、着くと言う事は、これからすぐに戦争が始まってしまうと言うこと。皆さん、心してください。」

と、気を引き締めるのであった。

  キュアリスはそんな彼女の言葉を聞くと、グッと体に力を込めた。


ーー雄二、あなたとの思い出の場所は、私が守ってみせるから。


彼女はそんな気持ちを持った。


  そして、街へと向かう最中、彼女達が前に訪れた際に桜が建てたあの家が見えてきた。

  その場所は不思議と何の危害も加えられる事もなく綺麗な状態で残っていた。

  しかも、その周りには、多分フリード達によって植えられたであろう花が色とりどりに咲いている。

  そんな思い出の場所の様子を見ると、キュアリスは一度、ホッと胸を撫で下ろした。

  その後、そのすぐ先にある街の方へと目をやる。


ーーだが、目と鼻の先にある『ロンブローシティ』の光景は、そんな不思議な程、綺麗な桜の家とは対照的に、煙巻き、門は破壊され、建物は崩れ、まさに地獄と形容できる程に変わり果てていた。


  そんな街の様子を見たキュアリスは、拳を握り締める。


ーーなんて事を......。


  彼女は怨念にも似た怒りを感じた。

  そして、同じ表情を浮かべた皆に向け叫んだ。

「これから、街に突入するよ!! みんな、この街を救う為にも全力で戦おう!! 」


ーーそれを聞いた森山葉月、並びに『特殊異能部隊』の皆は、

「了解!!!! 」

と、雄叫びを上げて、そのまま足を止める事なく『ロンブローシティ』内部へと進んで行ったのだった。


ーーこれから、どんな悲劇が待っているのかも知らず......。
 

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