天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第122話 龍の際限なき力。


ーーーーーー

「こうすると、格段に移動速度が上がるんですよ。」


  『首都リバイル』を出発してから一日経った草原の上で、森山葉月は地面を這う様にして『ロンブローシティ』の方角に向け、数人が通れるほどの大きさの風の『異能』の道筋を繰り出した。

  その中にいるキュアリスと『特殊異能部隊』は、風の作用により、少し浮いた状態になり、普通に向かう数倍の速度で戦地へと向かっていたのだ。

「流石、軍帥殿!! 『異能』を用いてこの様な作用をもたらすなど、考えもつきませんでした!! 」

  リュイは興奮気味に森山葉月を讃えた。

  それに対して彼女はニコッと笑いながら、

「そう言ってもらえると嬉しいですね。それに、遅れれば遅れる程に状況は悪化します。一刻の猶予もありませんから......。私も少しは力になれましたかね? 」

と、冗談めかしく答えた。

  キュアリスは激しくなびく風の中で、そんな二人のやり取りを見て真剣な表情を浮かべた。


ーーこの調子だと、明日の朝には『ロンブローシティ』に到着する。


  今、あの街はどうなってしまっているのだろう。

  想像するだけで、悲しい気持ちになる。


ーー『復興の街』、『市民で作った街』......。


  彼女は、フリードが口にしたそんな言葉を思い出すと、戦争という悲劇に胸が苦しくなる。


ーー何故、この世の中はこんなにも理不尽なのだろう......。


  そう考えると、馬の手綱を持つ手には、自然に力がこもっていたのだった。


ーーーーーー

  周囲が怪しく黒く光る境内の中で、俺は巫女姿の神が『試練』と銘打って、突如現れた龍と攻防を続けている。


ーーニルンドは最初から全力で『最高戦力』に相応しい程の火の『異能』による攻撃を繰り返したものの、何一つ効くことはなく、一度体制を立て直す為に地上に降りていた。


  俺はというと、そんな彼女の攻撃が効かない事を加味しながら、弱点を探りつつ、龍の口から放たれる闇の『異能』のブレスを同じく闇のオーラで吸収しつつ、手数の多い尻尾による物理攻撃もひたすらに避け続けていた。


ーー攻撃を受ける中でその龍は、前に戦った『スケアリー・ドラゴン』よりも、大きさ、速さ、それに加えて持っている『異能』の力も格段に高いのがすぐにわかる。


  しかし、『スケアリー・ドラゴン』と何よりも違う点がある。

  それは、その龍が、意思を持って動いている事だ。

  見事なまでに『異能』と物理攻撃を使い分け、俺が少しでも隙を見せる瞬間を伺っている様にも思えた。

  現に先程、俺が体制を立て直すニルンドの方へ、

「一度攻撃を止めろ。」

という指示を出す為に振り返った時、ヤツはそこを待っていたかの様に俺に向け、猛々しい爪の生える指先から闇の『異能』を放って来たのだ。

  俺は今も、龍の攻撃を避け続ける。


ーーすると龍は、その長く、大きい図体を思い切り浮き上がらせて空の遥か彼方まで登っていった。


  そして、すっかりと上空に行き、小さく見えているその龍は、怪しげに口を光らせたら後で、俺の真上からは大量の闇のメテオを際限なく放って来たのだ。


ーーそれは、広々とした神社の境内を超え、周辺の森にまで落ちる程、広範囲の攻撃で、俺以外にも、奥に控える三名にまで危害を及ぼすことは容易に想像できた。


  俺はそれに懸念を抱くと、必死に逃げようとする四名の上まで急いで到着して、降りかかるメテオに向け両手を広げ、周囲五十メートルにも及ぶ闇のバリアを作り出したのだ。


ーーそれが数個、俺のバリアに当たった瞬間、

「ドオーーン!!!! 」

と、激しい音を立てた。


ーーそれと同時に、今まで感じた事の無い程の重みと痛みを感じる。


  だが、それからも立て続けに落ちるメテオから桜、アメール、ニルンド、優花を守る為にも、俺は必死でそれに耐えるのであった。

  すると、一度メテオの応酬は止んだ。

  俺はそれを確認すると、下にいる四名を見る事なく、そのまま龍のいる上空へと上がって行った。


ーー少しでも、相手にダメージを与えないと、ジリ貧になる。


  そう考えた為に......。

  そして、俺が上空へと登って行き、龍の体が大きく見えて来た時、俺は右手を握り締めてに風の『異能』を思い切り溜め込んだ。


ーー致命傷を与えねば......。


  すると、そんな俺の様子をジッと見ていた龍は、突然、大きな鳴き声で叫び出したのだ。

  俺はそんな龍を気にも留めずに、一気に距離を詰めて行く。

  それと同時に、右手一杯に溜め込んでいた風を解放しながら振りかぶった。


ーー喰らえ、この化け物が......。


ーーしかし、龍の元へと到着する直前に、俺の頭上は青白く光ったのだ。


  俺はそれを見た時、避けきれない事を自覚した。

  そう、ヤツはさっき叫んだ時に、禍々しい程に膨大なエネルギーを有した雷を俺の真上に作り出していたのだ。

  だが、それに気がついた時には、もう時すでに遅し。

  俺はその攻撃を受ける覚悟をした。


ーーそして、その雷が俺を踏襲しようとしたその時だった。


  俺の腰に細い形状の石の様な物が絡まり、それに強い力で引っ張られ、そのまま横へとシフトして行く。

  そんな俺の鼻の先には、上から一本筋の膨大な雷が落ちた。


ーーその後すぐに、地面では轟音が響き渡る。


  俺は一瞬、何が起きたのか分からずに、その細い石の元を辿っていった。


ーーすると、そこには、火の翼で羽ばたくニルンドの背中におぶられ、右手から出した土の『異能』で俺を必死に引っ張る桜の姿があった。


「間に合って良かったよ......。後少しで、雄二が死んじゃうところだった......。」

  桜はホッとため息をつきながら、俺を引っ張ってそう呟いた。


ーー何とか、龍の繰り出した雷の攻撃は、桜のおかげで回避出来たのだ。


  俺はその後、下に目をやると、境内の地中奥深くまで陥没した攻撃の跡を見てゾッとした。


ーーもし、あれをマトモに食らっていたら......。


  その後で俺は、一瞬だけ桜の方に目をやり、

「助かったよ!! 後少しで死ぬところだった!! 」

と、お礼を言って、再び悠然と泳ぐ龍に視線を移した。


ーーこの龍は、攻撃の隙を与えない。


  それに、罠まで仕掛けてくる。

  ならば、どの様にして責めれば良いのだろうか......。

  そんな事を考えている時だった。

「まさか、あの攻撃が避けられてしまうとは......。お前たちには、驚いたものだよ。こっちも本気で挑まないといけない様だな。」


ーー龍は、腹に響く程、低く、大きな声で、そう言ったのだ。


  俺は、突然言葉を発した龍に驚きながらも、一つ分かったことがある。

  彼は、しっかりとした人格を持って戦っているのだ。


ーーだからこそ、人の頭脳で攻撃をしてくる。


  そう考えた時、俺は絶望にも近い感情を抱いたのであった。


ーーあの力を持ち、しかも、知恵を持っている。


ーーそれ即ち、人間を遥かに凌駕した存在なのだから......。

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