天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第120話 結界の向こう側。


ーーーーーー


ーーこの街には、俺の知らない場所が沢山ある。


  坂道にある大きな通りに行き交う車を横目に、歩道を歩いていた時、ふと、そんな事を考えた。


  商店街を抜け、住宅街の建ち並ぶこの道も、小さな路地の中に入ると、見知らぬ光景が俺の視界に入って来る。


ーーそれはある意味、異世界と同じで、新たな発見に対する興奮と、少しの不安が入り混じって行く。


  これから辿り着くであろう『霞神社』にも、俺は同じ様な感情を抱くのであった。

  家を出てから、目標がある住宅街の坂を登っている間、桜は片時も俺の手を離そうとしなかった。

「雄二、不安な顔をしてる。だから、桜が守ってあげなきゃいけないね!! 」

  彼女は俺に対してそう言っていた。

「お兄ちゃんと桜ちゃんは、まるで親子みたいだね。」

  優花はそんな桜を見た後で、そんな俺達の様子に笑顔で呟いた。

  それを聞いた桜は、万遍の笑みでこう答えた。

「当たり前でしょ!! 桜が一番辛かった時に見つけてくれたのも、助けてくれたのも全部、雄二だったんだから!! 桜にとって、雄二は家族なの!! 」

  優花は嬉々として語る彼女を見ると、小さく微笑んだ。

「こんな可愛い女の子と家族なんて、お兄ちゃんも幸せもんだね......。」


ーー俺はそれを聞くと、少しだけ照れ臭くなって優花から目を逸らした。


  優花がそう言うと、桜は続けた。

「それでね、桜と雄二とキュアリスは三人で仲良しなんだよ!! 」

  彼女はそんな桜の言葉を聞くと、俺の方を向いて、問い詰めた。

「キュアリス......? 」

  彼女のそんな問いに俺は、照れながらこう答えた。

「そう、一応、俺と桜と、後、キュアリスって言う同い年くらいの女の子とずっと冒険をしていたんだ。」

  そう言うと、桜は食い込み気味に得意な顔をして、

「そうだよ、キュアリスだよ!! キュアリスは、とても優しくて、とても強いんだ!! 」

と、胸を張って話した。

  そんな俺達の話を聞くと、優花は何かに気がついた様な表情を浮かべた後で、ニコッと笑い、

「その子を残して来て心配だから、お兄ちゃんはあっちに帰りたいんだね。」

と、核心を突いて来る。

  それに対して俺は、恥じらいながらも正直に、

「ま、まあ、そう言うことになるな......。」

と、答えだのだった。


ーーすると、長い坂の登頂部に差し掛かると、アメールが何かに気がついた様にこう言った。


「『霞神社』とは、あそこではありませんか......? 」

  俺はそんな彼女の言葉の後で、ふと、頭を上に上げた。


ーーそこにあったのは、あまり整備のされていなそうな石造りの鳥居がある、一見、何の変哲も無い小さな神社であった。


  俺はそれを見ると、一度足を止めた。

「ここが......。」

  そんな風に俺が呟くと、優花は大きく頷いた。

「そう、ここが『霞神社』。一連の行方不明事件の中心に位置する場所だよ。」


ーー彼女がそう返事をすると、俺はその神社をもう一度じっくりと見つめた。


  はたから見ればただの小さな神社にしか見えないその場所。

  だが、日本において、ここ以上に歪な場所は無いとは俺は強く思った。


ーー何故ならそこからは、普通の人間が踏み込むのは不可能な程の強い『魔法』の作用が感じられたからだ......。


  俺が感じ取れる物だけでも、人除け、精神汚染、存在消しの『魔法』が掛けられている。

  要は、この場所に一歩踏み込めば、その人間に何が起きてもおかしくない程に危険な場所なのだ。

「禍々しいこの雰囲気、あまり宜しい場所ではないな......。」

  ニルンドは、先程までの楽観的なテンションから打って変わって、真剣な表情でそう呟いた。


ーーそう、俺を始め、ニルンドやアメール、桜はその場所の異様な空気感を感じていたのだ......。


  優花は、そんな俺達を見ると、その現実を感じ取った様で、

「やっぱりこの場所、何かあるんだね......。」

と、かしこまってそう言った。

「だが、これだけの『魔法』が掛けられた場所だ。もし仮にそれを全て取り除いてこの中に入るなど、良いのだろうか......。」

  俺がそんな風に不安を口にすると、ニルンドがそれに答えた。

「どちらにせよ、佐山雄二が求めている『世界の理』についての手掛かりがあるのは、ここしかないだろう。それに、『魔法』はこの世界で言う異世界の産物。つまり、この場所は私達のような別世界から来た者に用意されてるとしか思えんのだが......。」

  彼女がそう予想を立てると、アメールもそれに賛同した。

「確かにニルンドさんの仰る通りですね。この『魔法』は、敢えて気づいてもらう為に、頑丈に作られているとしか思えません。」


ーー俺は、そんな二人の言葉を聞くと、小さく頷いた。


  確かに、考えてもみれば、日本においてこんな場所があると言うのは、少しおかしな話だ。

  以前に『異世界人』の類がここに何かを残した可能性も強く考えられる。

  そんな風に思いを巡らせると、俺はこの『霞神社』の中にある物に好奇心を抱いた。


ーーここには一体、何があるのだろう......。


  俺はそう考えると、繋いでいる桜の手を解いた後で一歩前に踏み出し、目の前にある『霞神社』に向けて、右手を伸ばした。


ーーそこに向け、『結界』の詠唱を始めた。


  俺が『結界』の詠唱を唱え出すと、周囲からは、禍々しい程の嫌な空気が漂い出す。


ーーそれに伴って背後からは、四人の苦しそうな声が聞こえるのだ。


  そんな四人の動向を気にしつつも、詠唱を続ける。


ーー今は我慢してくれ。


ーーそう思いながらも......。


  そして、詠唱を終え、周囲を巻き込んでいた嫌な空気が消えたのを確認すると、目を瞑っていた俺はため息をついて、後ろで苦しんでいた四人の方を振り返った。

「お前達、大丈夫だったか......? 」

  俺がそう問いかけると、四人は息を上がらせているが、理性を持っている事を確認すると、無事にそれを乗り切った事がわかった。

「一瞬、意識が飛び掛けたよ......。すごく気持ち悪かった......。」

  優花はため息をついて、そう答えた。

  ニルンドも、何とか『結界』の詠唱が成功した事に喜び、

「危なかったが、流石は佐山雄二だ。」

と、何故かドヤ顔を決め込んでいた。

  桜は余程怖かったのか、俺にしがみついて泣いてしまっていた。

  アメールも息を上げつつ、胸に手を当てていた。


ーーそんな皆をみると、俺は一安心をした。


  何とか、誰にも危害が加わる事なく、詠唱を完了させられた事に......。

  その後でふと、もう一度アメールの方を見る。


ーーすると、彼女は、俺の視線の奥を見て呆然としていた。


  俺はそんな彼女に問いかける。

「どうしたんだ......? そんな顔をして......。」

  アメールは俺のそんな質問に対して、俺の奥を指差して震え声でこう呟いた。

「ここは、何処......? 」

  俺はそんな彼女の言葉を聞くと、不思議に思いながらゆっくりと後ろを振り返った。


ーーすると、そこには、先程の小さな神社とは打って変わった、五十メートル程の大きな鳥居、その奥には果てしなく広がる広大な境内があったのだ。


ーー俺はそれを見ると、驚愕をした。


  そして、慌てて周囲を見渡す。
   

ーー俺は、そんな周りの光景を見ると、更に驚きが増したのだ。


ーー何故ならば、さっきまで普通の住宅街に囲まれていた筈の景色は消え去り、『霞神社』の周囲全ては、深い森になっていたからだ......。


「これは一体どう言う事だ......? 」

  俺が冷や汗をかきながらそう呟くと、そこにいる全員は暫く黙り込んだ。


ーー何が起きたんだ......?


  俺は突然全く別の場所に来てしまったこの状況に気持ちの整理がつかず、呆然とした。

  すると、そんな俺達の方へと、空から巫女の姿をした女性が、見た事がない程に大きな鳥居を掻い潜って舞い降りて来た。

  俺は、そんな彼女の様子を何も言葉を発する事なく見つめる。

  そして、目の前にピタリと止まると、小さく微笑みながら、狐につままれたような表情を浮かべた俺に向け、こう呟いた。

「待っていましたよ、佐山雄二さん。ようこそ、表裏一体の地、『霞神社』へ......。」


ーー俺はそんな事を言っている巫女姿の女性を見ると、何となくこの女性がこの世の生き物ではない事が直感で分かった。


ーーそう、きっとこの女性は、『霞神社』に潜む神であるのだろうと......。

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