天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第119話 妹への想い。


ーーーーーー

「とりあえず、俺達が転移したきっかけになるかもしれない情報を手に入れることが出来たよ。それに際してだが、これから霞神社へ向かおうと思う。」

  俺は翌朝の早朝、皆がまだ寝静まっている時間帯に社に向け、『メディウス』の塔の石を利用してそう告げた。

  前回とは違い、彼女は俺の報告にあっさりと応答した。

「そ、そうだったか!! それは、 良い事だ。」

  彼女はぎこちない口調でそう返事をすると、その後、暫く黙り込んでいる。


ーー不思議な事に、あちらの世界からは、何か妙な雑音が聞こえる。


ーーそれに、社の息づかいも少し荒い気が......。


  俺はそんな状況を不審に思い、彼女にこう問いかけた。

「変な音が聞こえる様だが、そっちで何かあったのか......? 」

  社は俺のそんな問いに対して、明るい口調で答えた。

「何を言っておる!! 退屈過ぎたのでな、今、日課のジョギングを丁度終えた所なのだ!! それに、こちらの世界は強風が吹いているからの!! その影響ではないかと......。」

  俺はそれを聞くと、妙な納得した。

「ふーん、呑気なもんだ......。」

  その後ですぐ俺は続けて質問した。

「ならば、聞きたい事がある。『世界の理』についての事だ。どんなに小さな情報でもいい。何か教えてくれないか? 」

  それを聞いた社は、相変わらず荒い息づかいの中で、その問いにこう返答をした。

「それは、お前自身で越える壁なんだよ。後、一つだけ言っておく。そんなに簡単には全ての真実には辿り着かないぞ。だからこそ、今回の転移では、お前が『英雄』になるキッカケさえ手に入れてくれれば良いんだよ。では、あたしは疲れたので......。」

  彼女はそう言うと、俺への会話をやめた。


ーー『英雄』になるキッカケ......?


  俺はそんな彼女の言葉に少し考えを巡らせる。


ーー確かに、思えば俺は求め過ぎていたのかもしれない。


ーー転移の理由、多分それは『世界の理』に大きく関係している事はよく分かる。


  それは今まで、兄、佐山浩志や森山葉月、その他沢山の『異世界人』が求めてきた。


ーーそれだけの人間が苦労して、追いかけているその真意を今すぐに俺が全て知ろうなど、無理な話ではあるまいか......。


  俺はそんな風に暗に社が示したその言葉に、妙な納得をすると、ある決意をした。


ーー今日、『霞神社』に赴いて、何らかの手掛かりを掴んだら、一度あちらに戻ろうと......。


  彼女の言う、『英雄』への一歩はまだ掴めないかもしれない。

  それはきっと、こんな俺にしか出来ない事であると、社は言っていた。


ーーしかし、俺は何よりも、これから暫くこの場所に留まる事にも少し不安を感じ出していた。


  残してしまった部隊の面々、それに、一番はキュアリスだ。


ーー今は戦争中。


  いつ、何が起きるか分からない状態なのである。

  そう決意をすると、俺は部屋で雑魚寝をしている全員の事を無理矢理起こした後で、こう告げた。

「いろいろ考えたのだが、今回の『霞神社』への調査を最後に、一度あちらの世界に戻ろうと思っているんだ。これ以上長い間、『特殊異能部隊』の施設を空けるのは余り良くないと考えているし......。それに、本当に断片的な物ではあるが、『世界の理』の手掛かりになりそうな事も見えてきたところだ。俺はいつでもこちらに来る事が出来るみたいだから、その方向で話を進め......。」

  それを聞いたニルンドは、不満気な表情を見せる。

「まだこっちの世界に来てからちょっとしか経って無いんだぞ。それに、分からない事が山積みだ。だから、もう少しここに留まるのは如何なものだ? 」

  彼女は残念そうな顔でそう呟いた。


ーー多分、この女に関しては、単純に知的探究心からその様な発言をしている事がよく分かったので、スルーする事にした。


  桜は、俺の発言に対して、思い出した様に心配をし出す。

「それはそうかもしれない。桜も、キュアリスに会いたいと思ってるし......。」

  アメールは静かに頷いた。

  俺はそれを確認すると、その案を決定する事にした。

「では、その手筈で行こうと思う。正直なところ、『英雄』の件に関してはさっぱり分からないままであったが、あちらの国も今は戦争中だ。もしもの事があった時、動かなければならないしな。」

  俺がそう言うと、皆は了承した。


ーーニルンドは少し残念そうな顔をしていたものの、その提案に渋々納得した様子だった。


  だが、そんな時、優花は立ち上がり俺の腕を掴んだ。

「もう、行っちゃうの......? 」


ーー俺はそんな彼女の弱々しい言葉を聞くと、少しだけ切ない気持ちになる。


ーー俺達がいなくなれば、彼女はまた、一人になるのだから......。


  そう考えると俺は、彼女にこう言った。

「悪いが今、あちらの世界では戦争が起きている。俺も国王軍の一人として戦わなければならないんだ......。しかし、もう二度と来ないというわけではない。俺達もこれから調査の為にこちらに来るつもりだ。」

  それを聞いた彼女は、更に不安そうな顔をする。

「戦争なんて行っちゃったら、もう会えないかもしれないじゃん......。」

  俺はそれに対して、兄、佐山浩志の事が一瞬浮かんだが、歯を食いしばってこう言い張った。

「何言ってるんだ!! 俺が死ぬわけ無いだろ!! 俺は、『天才』だ!! そこら辺の敵に負ける訳が無いだろ!! 絶対に会いに来てやるよ!! 」

  それを聞いた彼女は、嬉しそうな顔をした。


ーーほんの少しだけ哀しみを抱いた様な......。


  俺はそんな彼女に意地を張った後で、目を逸らしてこう呟いた。

「それに......。」

  俺のそんな発言に彼女は首を傾げながら、

「それに......? 」

と、聞き返した。

  優花の質問に、俺は少し恥ずかしくなりながらも、ゆっくりと答えた。

「俺は、嬉しかったんだ。この世界で、しかも、血の繋がっている実の妹が俺の事を覚えてくれていた事に......。正直なところ、俺は、転移した時から、この世界の人間では無くなってしまったんだよ。理由は分からない。だけど、お前は覚えていてくれたんだ......。」


ーーそれを聞いた優花は、暫く固まった後で、目に沢山の涙を溜め込み、表情を崩して行った。


「そんな事言われたら......。」


  俺は、そう呟きながら泣き崩れる妹を見ると、自分がどれだけ酷な事をしているのかを、強く感じた。

  探し続け、やっと会えた兄がすぐに消えてしまう。

  そんな状況を、誰が受け入れられるだろうか。

  しかし、俺はキュアリスに誓ってしまった。


ーーあの世界を救うと......。


  だからこその決断だった。

  
  俺は、そんな泣き崩れる彼女を強く抱きしめると、こう約束したのだ。

「またすぐに、この世界に戻って来る。だから、その時まで俺を忘れずに待っていてくれるか......?」

  それに対して彼女は、涙を勢い良く拭った後、最高の笑顔になり、

「了承した!! 忘れる訳が無かろう!! いつまでも待っているぞ!! 何故なら我は、『邪神』!! 記憶を統べる者!! 」

と、強がりながら中二病なポーズを取っていた。


ーー俺はそんな彼女の行動は、彼女自身の強がりである事を知った。


  今までもずっと、強がって中二病を演じていたのであろう......。

  俺はそう考えると、彼女の行動に対して、気持ちとは裏腹な笑い声を上げた。

  それに対して、優花も笑っていた。


ーーその内に自然と俺は泣きそうになった。


ーーしかし、それはグッと堪えた。


「じゃあ、行くとしよう!! 『霞神社』へ!! 」

  それを聞いたみんなは威勢良く返事をする。

「了解!! 」


ーーーーーー

「今、リバイルに潜伏している者から連絡があったのだが、敵国『ベリスタ王国』の『聖騎士』、並びに『軍帥』、その他、『特殊異能部隊』の面々がこちらに向かっているとの情報が入りました。そこに、佐山雄二の存在は無かったと聞いております。」

  ロンブローシティ内の薄暗い一室にて、黒いマントを纏った一人の女が大河原悠馬にそう報告をした。

   そんな彼女からの報告を受けると、椅子に腰掛けた大河原悠馬は小さく笑みを浮かべた。

「やはり、予想通りその面子での出兵になったか......。」

  それに対して女は微笑む。

「どうせ、佐山雄二が来る事は無いとは思っていたが、厄介な周りから潰して行くのが一番手っ取り早いからな。ね、フリードくん。」

  大河原悠馬は不敵な笑みを浮かべながらそう言うと、足下で傷だらけになり虫の息になったフリードは、彼を睨みつけた。

「どんな策があるかは知らないが、お前らは彼女達を侮っている......。このまま上手くいくと思うなよ......。」

  それを聞いた悠馬は彼の腹の辺りに野球ボールくらいの大きさをした闇の『異能』を放った。


ーーそれと共に、部屋中に響き渡る呻き声。


  彼はそんなフリードを見つめながら真剣な口調でこう言った。

「そろそろ来るな......。」

  薄暗い部屋の窓から、崩壊した街を眺めつつ、彼は『ベリスタ王国』の敵の応酬に備えて黒いマントの女にこう指示を出した。

「では、あの作戦の準備をする様、我が軍の『異世界人』達に伝えておけ。」

  それを聞いた黒いマントの女は、口元をニヤつかせながら、

「仰せのままに......。」

と言って、その部屋を去って行った。

「さあ、始めようじゃないか。」

  悠馬はその言葉を残すと、悲鳴がどよめく街を見て、口を緩めた。

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