天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第116話 言わない勇気。


ーーーーーー

  あの世界では、あり得ない日々がある。

  それは、この世界にとっては余りにも非現実的で、その場所では『常識』という概念は通用しない。

  人の作り出せる価値観という物は乖離して行く。

  しかし、人は適応する。


ーーそれが如何に現実からかけ離れた事柄であったとしても......。


  俺は、この世界に戻って来た事により『異世界』での現実が如何におかしい物かを思い知らされた。


ーーこの世界に住む、非現実的な理不尽と戦い続けた少女を見て......。


ーーーーーー

  優花は気持ちの整理がついた様で、俺に向け、こんな質問を投げかけて来た。

「雄二お兄ちゃん達が異世界へ行ってしまったのは分かったけど、どうしてお兄ちゃん達だったんだろうね......。」

  優花は首を傾げながらそう問いかけると、俺も首を傾げた。

「そこが分からない所なんだ。あちらの世界でも色々な場所で聞いて回ったのではあるが、どうやら、『負の感情』という物が大きく関連しているというのは分かっている事なのだが......。それ以上の理由に関しては、皆無なんだよ。」

  そんな俺の発言を聞いていたニルンドは、大袈裟に頷いた後で、こんな発言をした。

「それは、私も葉月さんから聞いた事があるぞ。」


ーーそんなニルンドの発言を聞くと、優花は驚き表情を見せた。


「もしかして、葉月って森山葉月さんの事ですか?! 」

  彼女は驚きながら、そんな事を口走った。

  俺はそれに対して、質問をした。

「お前、森山葉月を知っているのか? 」

  俺がそう問いかけると、彼女は真剣な顔でこう答えた。

「知っているも何も、元々浩志お兄ちゃんの幼馴染だった人だからね......。彼女も、浩志お兄ちゃんがいなくなってからすぐに消えちゃったんだけどさ......。」


ーー兄の幼馴染......?


  俺は、その言葉に引っかかると、その後で彼女を再び見つめる。


ーー森山葉月がそこまで兄と仲睦まじい関係であった事に驚いたからだ。


  すると優花は、俺の視線を受けるとすぐに、鞄からノートを取り出した。

「実は、今までずっと、私の取り巻く環境の中で消えてしまった人達の失踪したであろう日時などを沢山調べていたんだ。葉月さんはその一人で、実際に私も消える前に、一度会った事があるんだけど、やはり、消えてしまってからは、お兄ちゃんと同じ様に忘れ去られてしまったの......。そこで思ったんだ。私は、人と違うという事に......。」


  それを聞くと、アメールは突然立ち上がり、一つお詫びをした。

「先程から今まで、ご無礼な言葉を投げかけた事、大変申し訳ありませんでした。あなたは、私が思っていたよりも、何かの手探りを握っていると思います。宜しければ、これから暫く、私達に協力して頂けませんか......? 」

  彼女がそう言うと、優花はそれにニコッと笑った後で、

「当たり前です。私も、これまで自分がやって来た事の正当性を見つけ出したいと思っていたので......。それに実は、私、一つの大きな憶測を立てた所なんですよ。それによっては、お兄ちゃんの為にも、あなた達の為にも、力になれるかもしれません......。」

と、快く俺達への協力を受け入れた。


ーーそんなやり取りを聞いている内に、俺は言いそびれてしまった事がある。


  だが、それに関しては優花が知らない方が良い事なのかもしれない。


ーー彼女は、こちらの世界の人間だ。


  優花は、このまま行方不明のままの方が幸せなのかもしれない。


ーーもう、桜に起きた悲劇の様には絶対にしない......。


  俺はそう考えると、彼女に向け、ぎこちない笑顔でこう言った。

「ありがとな、優花。」

  それに対して優花は微笑み返した後で、

「あれから、やっと、その言葉が聞けたよ......。」

と、喜ぶ素振りを見せていた。


ーー俺達がそんな風に、話に集中している最中、ふと、辺りを見ると、桜が再び森と広場に花を咲かせていた。


「やっぱり、こっちの方が可愛いよ!! 」

  俺はそれに対して、再び彼女を注意する。

「だから、この世界で『異能』をつかうのはやめろって!! 」

  すると、桜はまた拗ねながら、辺りに咲いた花を手の中に戻していた。


ーーそんな俺と桜のやり取りを見ていた優花は、フフッと少しだけ笑った。


「お兄ちゃん、戻って来てくれて、ありがとね。」

  そんな事を口にしながら......。


ーーーーーー

  『霞神社』の入り口付近で、社は大きくため息をつく。

「全く......。最近は不安定にも程があるだろ......。」

  そんな事を呟くと、そばにいる巫女は笑顔でこう答えた。

「まあ、人間とは浅はかな生き物ですからね......。欲求や欲望を抑えながら、それが爆発した時は、猛獣よりも本能的になるものですよ。」

  彼女は先日よりも傾斜の大きくなった塔を見ながら、あくびをした。

「お前は呑気でいいもんだよ......。こっちの身にもなって欲しいものだ......。」

  社は首を鳴らしながらそう言うと、足下に落ちている多くの死体のジッと見つめた。

「この方々も、『歪み』を求めて来たのですね。」

  巫女がそう彼女に問いかけると、社は静かに頷いた。

「どうも、ここの秘密が何処かから漏れた様でな......。今日の昼からずっと襲って来ていたんだよ。」

  彼女はそう呟いた後で、遠くで崩壊する『メディウス』の街の一区画を眺め、眉間にしわを寄せる。

「また、この世界で何かが起きたな。『ベリスタ王国』の何処かでなければ良いが......。」

  それを聞いた巫女は、静かに微笑み、こんな言葉を言い残して燦然と空へと消えて行った。

「まあ、どちらにせよ、あの青年に期待するしかありませんね。そうでなければ、私も困ってしまうので......。」


ーーそんな巫女の消えた方向を向きながら、一人残された社は、返り血で真っ赤になった服を気にしながら、大きくため息ついて、こう呟いた。


「全く、誰が原因でこんな不安定な世界になったと思っているんだ。使わされる身にもなれよ。『崩壊の神』であるお前のせいでしか......。」

社からそう言うと、ポケットからマジックアイテムを取り出して、佐山雄二の動向を気にしたのだった。

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