天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第114話 あの日の出来事。


ーーーーーー

  夕暮れ時、森の座り込み、すっかりと中二病モードから大人しい妹に戻った優花は、俺に向けてこんな事を呟いた。

「覚えている......? 私が小学生の時、この場所に遊びに来た時の事を......。」

  俺はその話を聞くと、一度自分の記憶を辿り直す。


ーーいや、俺は優花と関わる機会というものが殆ど無かった。


  家族であるにも関わらず、俺は優花を敬遠し続けて来たからだ。

  可愛がられている優花と、疎まれている自分の間に溝を感じていて......。


  俺はそう考えると、首を大きく横に振った。

「こんな場所、来た覚えはない。それに、お前とこうしてまともに話す事など、ほぼ無かった筈だぞ!! 」


ーー過去の嫌な思い出を辿って行くうちに、俺は自分自身に、そして、周りの環境に嫌気が差し、そんな風に語尾を強めた。


  それに対して隣の桜は、心配そうな目で俺を見つめる。

「あまり、熱くなりすぎては行けませんよ。」

  アメールは強い視線でそう俺に言った。

  俺はそんな彼女の注意を受けると、すぐに我に返って一つ謝罪をした。

「ごめんな、熱くなっちゃって......。」

  優花はそんな俺の言葉を聞くと、俯いて、蚊の鳴くような声でこう言った。

「やっぱりあの日の事を覚えていないよね......。いつも思うんだ。あんな出来事が目の前である訳が無いって。でも、それは本当に起きた事だった。」

  彼女はそんな風に弱々しい笑顔をしながら、俺の視線から目を逸らして広場の奥にあるアスレチックを見つめた。


ーー俺は彼女の言う『あの日』という言葉に少々引っかかる。


ーー優花の表情から察するに、彼女が妄言の類を吐いているとは考えづらい。


ーーそれに、思い出せずにはいるものの、俺の心の中には少しのモヤモヤが存在しているのだ。


  だが、俺はそのモヤモヤの原因が理解出来なかった為に、優花へ質問をしてみた。

「すまないが、俺には思い出せそうも無いんだ。だから、お前の言う『あの日』の事を、話してくれないか......? 」

  俺がそう促すと、優花は少し不安そうな表情をして、上目遣いで俺にこう聞いて来た。

「それを話しても、私を変だって思わない......? 」


ーー俺はそんな彼女の問いかけを聞くと、居た堪れない気持ちにさせられた。


ーー多分、優花はこれから話すであろう出来事が真実であると信じて、沢山の人に確認を取り続けて来たのであろう。


ーー今にも泣きそうになり、余りにも自信なさげな彼女は、もう既に人間不信になっているのかもしれない。


  俺はそう考えると、彼女を思い切り抱きしめたくなった。


ーー羨ましくて、妬ましくて、トラウマとなっていった佐山優花という存在を......。


  俺はそんな衝動を抑える様にして、彼女の頭の上にポンッと手を置き、こう答えた。

「お前の言う話を、兄である俺が信用しない訳ないだろ......。」

  俺がそう言うと、彼女は小さく微笑んだ後で、息を吸い込み静かに話し始めるのであった。

「今から四年前の夏、私は雄二兄ちゃんと、浩志兄ちゃんと、一度、三人でこの場所に訪れた事があるんだよ......。」

  俺はそれを聞くと、少し身を乗り出した。


ーーその記憶を何とか蘇らせようと......。


  すると、そんな俺の動きを見た優花は、そのまま続けた。ーー


ーーーーーー

ーー夏の日の朝、自宅のリビングにて優花は両親が出掛けると言う事で誘いを受けた。

  だが、ちょうど小学生高学年だった彼女は、その日、早めに夏休みの宿題を終わらせたいと言う理由でその話を断った。

  それを聞いた両親は少し残念そうな表情を浮かべながらも、彼女にとっての弟を連れて足早に家を出て行ってしまった。

  そんな様子をソファに腰掛けながら眺めていると、まるで出ていくのを見計らっているかの様に兄、雄二がリビングに姿を現わす。


ーー決して優花から目を合わせる事なく......。


  そしてそのままキッチンにあるテーブルの方に行くと、朝ごはんを作り始めたのだった。


ーー優花はそんな兄の背中から、明るさを感じた。


  それに対して優花はこう思った。


ーー両親の関係もあってなかなか話しかけづらい存在ではあるけど、何だか兄の機嫌が良い様子を見ると、私も嬉しい......。


  彼女は少し前に、たまたま聞こえて来た雄二が浩志に発した言葉を思い出す。


ーー「実は、事故で入院していた悠馬が意識を取り戻したんだ!! これからは俺があいつを勇気付けてやるんだ......。」ーー


  それから雄二は毎日病院に通っているのであろう。


ーー危機から脱した親友の為に......。


  優花はそんな事を考えながら、すっかり食事を終えて家を出ていく雄二を心の中で見送った。


  それと同時に浩志はまだ眠たそうな表情を浮かべながらリビングにやってくる。

「今日も悠馬くんの所へ行ったんだな。本当に意識を取り戻して良かったよ......。」

  微笑み、そんな事を言いながら......。


ーーバラバラではあるけど、今日はみんなが幸せそう。


  優花はそんなみんなの姿に安心しつつも、宿題に取り掛かるのであった。


ーーーーーー

  夕暮れ時、夏休みの宿題を終えた時、優花は達成感を感じた。


ーーやっと宿題を終えられた。


ーー後は夏休みを満喫出来る。


  そう思いながら、彼女は一つ伸びをする。


ーーだが、そんな時、自室にいた浩志が慌てた様子でリビングにやって来た。


ーーその表情から何か嫌な事が起きたのだと、優花は感じた。


「すまん、優花。実は今、悠馬くんのお母さんから連絡があったのだが、雄二が悠馬くんと何かあったみたいで、病院から急いで出て行ってしまったらしいんだ。それが昼間の出来事だと言う話だが......。一緒に探すのを手伝ってくれないか......? 」


ーーそれを聞いた彼女は、朝元気だった兄が物凄く心配になった。


  そして、優花は浩志の後ろをついて行く様に雄二の行方を捜しに行った。

  嫌われているに違いない筈の兄を見つける為に......。

  それから暫く探し回ったが、結局兄の姿を見つける事は出来なかった。


ーーその頃には、すっかりと辺りが暗くなっていた。


  それでも浩志は足を止めない。

  優花は疲れ切った体を奮い立たせると、そんな兄の後ろを再び追いかけた。


ーーそして、気がつくと二人は森にある広場の中にいた。


  街灯が少ししか無いその森の中は薄暗く、こんな時間帯には決して入る事のない場所である。

  そこにたどり着いた時、彼女は思った。


ーーこんな場所にいるはずが無いと......。


  だが、浩志は辺りを見渡すとニコッと微笑んだのであった。

  そんな兄の表情を見た優花は不審がりながらも、浩志の視線の先に目をやった。


ーーすると、広場のアスレチックの近くにあるベンチに、俯き、この世の終わりの様な表情を浮かべた雄二の姿があった。


  彼女はそんな悲しい顔をする彼の表情を見た事が無かった。

「やっと見つけたよ!! 」

  優花の隣にいた筈の浩志は、そんな事を言いながら気さくに雄二の座るベンチへと向かう。


ーー彼女は、そんな兄について行く事なく、その場に立ち止まってその様子を眺めていた。


  雄二との心の溝を感じて躊躇して......。

  遠くで話している二人は、少しずつ表情が柔らかくなって行く。

  彼女はどんな会話をしているのかは分からないが、その姿から一件落着した事を感じて、一安心をするのであった。

  すると、雄二の表情がすっかり戻った時、浩志は優花を呼び出した。

  彼女はそれに怯えながらも、静かにベンチへと向かって行ったのであった。

「これからは何か悩んだ時は、ここに来よう!! ここだったら親に言えない相談だって大きな声で叫べるからな!! 」

  浩志はそう提案をすると、ハニかんだ。


ーーそれを聞いた時、彼女は嬉しくなった。


ーー浩志はもちろんだが、未だに目を合わせてくれない兄、雄二とも少し仲良くなれるのでは無いかと......。


  それから浩志はリュックから一冊のノートを取り出すと、ベンチの少し奥にある木の根元に一つの穴を掘る。

「ここに秘密のノートを埋めておく!! もしも、俺に直接相談しづらい事があったのならば、それに書いてくれ!! 」


ーーそんな、不器用な浩志の提案を聞いた雄二は、大声で笑いながら彼にこう言った。


「そのまま地面に埋めたら、雨とかで濡れちゃって何も書けないじゃん!! 」

  それを聞いた浩志は、顔を赤らめた後で慌ててこう取り繕った。

「そ、それはそうだな!! ならば、この袋に入れておくとしよう!! そうすれば、雨で濡れる事は無いだろうからな!! 」

  彼はそう言うと、そのノートを数枚のレジ袋に厳重に包み込むと、掘ったばかりの穴の奥深くに入れた。


ーーそんな二人のやり取りを見ていると、優花は自然に笑っていた。


ーーなんかこう言うのっていいなぁ......。


  それが完了すると、彼は立ち上がり、雄二に向けて、こう言った。

「雄二、優花も一緒にお前を探してくれたんだ。ちゃんとお礼を言うんだぞ!! 」

  それを聞いた雄二は、少し照れながらも、優花の方を見た。

  それから、小さな声で下を向きながら、優花に、

「ありがとな......。」

と、小さく呟いた。


ーー優花はそんな兄のお礼に対して、小さな感動を覚える。


ーー初めて兄とまともに話しかけられたことに......。


  そして、喜びの気持ちの中、優花はニコッと笑顔で、

「気にしないでいいからね!! 」

と、声を大にして答えたのだ。


ーーすると、そんな二人の様子を微笑みながら見ていた浩志は、

「では、すっかり遅くなっちゃったし、帰るとしよう!! 」

と言って、森の出口へと足を進めようとした。


ーーだが、そんな時だった。


  浩志がその一歩を踏み出そうとした途端、彼の目の前には何色とも形容し難い『歪み』が生じたのだ。


ーーそれに対して、優花は慌てる。


ーーそんな『歪み』の存在に全く気づかずにそれに向けて足を進めている浩志を見て、何が起きているのかも分からずに......。


  そして、みるみる大きくなり、彼を包み込んで行く『歪み』に優花は手を伸ばして助けようとした。


ーーだが、そんな時、背後から強い力で腕を掴まれた。


ーーそれに対してゆっくりと振り返ると、無機質な表情をした雄二の姿があった。


  そんな彼は、先程までの暖かい雰囲気とは違う、いや、全くの別人にすら見えた。


ーーいや、ここにいる、腕を掴んでいる彼は、『佐山雄二』ではない。


  彼女の直感が彼女自身にそう伝えた。

  それに焦った彼女は、その腕を振り解こうと必死にもがいた。


ーーもう消えかかっている浩志を助ける為にも......。


ーーだが、不思議な事にもがけばもがく程に体から力は抜けて行く。


  そして、その場にいた筈の浩志の姿はすっかりと消えてしまったのだ。


ーーそれを見た優花は、泣き叫びながら絶望を感じた。


ーーこれは一体......。


  そんな事を思いながら。


  すると、先程、強く腕を掴んでいた雄二は、優花から手を解くと、相変わらず無機質な表情でこう呟いた。

「彼ならば、英雄になれるかもしれない......。」


ーーそれを聞いた彼女は意味の理解できないその言葉に、恐怖を覚えた。


  目の前にいる佐山雄二には、何かが乗り移っている事に......。


ーーこの人は一体、誰......?
 

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