天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第113話 ワガママな理由。


ーーーーーー

  隊長不在の訓練施設にて、リュイは両手一杯に力を込める。


ーーそれから暫くすると、一キロまで広がるグラウンドには全長五メートル程の鳥の形をした火の『異能』が現れた。


  彼女はそれに喜ぶと、その火の鳥の翼を動かしてみる。


ーーそれにも成功し、目の前の鳥が自在に操る事が確認出来ると、彼女は静かに『異能』を手の中に戻した。


  そんな彼女の実験を見たキュアリスは、嬉しそうな表情でリュイの元へと詰め寄った。

「凄いよ!! そんなに早く修得しちゃうなんて!! 」

  それを聞いたリュイは、佐山雄二隊長が出掛けてからのキュアリスが説明していた『異能』の強化法を思い出していた。


ーー「まず、一人ひとりに備わっている『異能』の力は決まっているのはわかると思うんだけど、その力を最大限活用出来ている人は少ないの。それはちょっとしたコツを使えばすぐに強化出来るはずだよ。」ーー


  それから数日間、キュアリスの教える通りに鍛錬を続けると、部隊の面々は見る見るうちに上達して行った。

  そんな周囲の成長を見て、リュイはふと思う。


ーーこれが、『聖騎士』たる所以......。


  彼女がそう考えているそんな時、キュアリスは慌てて新しく支給されたばかりのマジックアイテムをおもむろに手に取った。

  リュイはそんな彼女の所作を見ている限りだと、どうやら軍の方からの連絡であるのだろうと思った。


ーー初陣が終わったばかりにも関わらず、どうしたんだろう......。


ーーしかも、少し遠くに移ったキュアリスは少し強い口調で何かに反論している様であった。


  リュイがそんな彼女の異様な姿を見ていると、部隊の面々も少し不安そうな表情でキュアリスを見ていた。

「リュイ、何かあったの......? 」

  ミルトは何も知らない様子でリュイに向けそう質問をした。

「いや、よくわからないのだけれど......。」

  彼女はそう呟くと、そのままキュアリスの姿をジッと見つめていた。


ーーそして、キュアリスは話を終えて胸ポケットの中にマジックアイテムを仕舞うと、不安がる部隊の皆の元へと戻ってきた。


「ど、どうしてのですか? 何やら口論をしている様でしたが......。」

  リュイは深刻な表情でそう質問をする。

  すると、キュアリスは笑顔になり、

「いや、何でもないよ! それよりも、みんな、もう少し頑張って鍛錬に励もうね!! 」

と、何事もなかったかの様な口調でそう言った。

  それを聞いた部隊の面々は不審がりながらも、各々の鍛錬へと足を運んだ。


ーーその時、リュイは思った。


ーーきっと、『ヘリスタディ帝国』との戦争で、何か動きがあったと......。


  すると、ミルトはリュイに向け、こう耳打ちをした。

「キュアリスさん、何も無いわけがないよね......。」

  それに対してリュイは小さく頷いた。
 
  そして、考える。

  その真相次第では、自分達も動くべきだと。


ーーこの場所を留守にする事、隊長には申し訳ないと言う気持ちを抱えながらも......。


ーーーーーー

  すっかりと本日の訓練を終えて、雄二と桜の使用していた部屋へと戻ったキュアリスは、一人、ため息をつく。


ーー「『ロンブローシティ』が陥落しました。このままでは、いつ『首都リバイル』に攻め込まれてもおかしくないです。隊長不在の中、至急ではありますが、あなたが指揮を執り、街の奪還に向かってもらいたいのです。」ーー


  森山葉月から司令を受けた時、彼女は反論をした。


ーー「そんなのはあんまりだよ!! 彼女達はまだ、戦いを終えたばかりで、しかも、隊長は不在......。そんな話、通る訳がないでしょう!! それならば、私一人で行ってくるよ!! 」ーー


  彼女はそう声を荒げると、その意見を突っ撥ねてしまった。


ーーだが、キュアリス自身はその司令を聞いた時から、もう既に『ロンブローシティ』に行く事は決めていた。


  理由に関しては、自己中心的な物かもしれない。

  もちろん『首都リバイル』に攻め込まれない事も、その街に拘留されてしまった人々を助ける事もその一つだ。


ーーしかし、それよりも気がかりになっている事がある。


ーーそれは、桜の建てた家の事だ......。


  彼女にとって、その場所は何にも変えられない思い出の場所。

  雄二と桜と三人で、幸せな時間を過ごした......。


ーーだからこそ、彼女は失いたくなかった。


  その後、フリードが大切に住んでくれているという話を聞いた時、彼女は心底嬉しくなった。

  そんな街が崩壊しているという現実......。


ーーそれに対して彼女は耐えられなかった。


  キュアリスはそんな風に先にある絶望に唇を噛み締めると、深夜の真っ暗な部屋の中で静かに準備を始めた。


ーー身勝手な理由で、たったひとりその場所に行く為に......。


  そして、全てを終えた時、彼女はその旨を書いた手紙を片手に足早に旅立とうと部屋のドアを開けた。


ーーだが、そこには軍服姿を纏ったリュイの姿があった。


  彼女は驚き、慌てふためきながらも、そんなリュイに向け、こう呟いた。

「何故、私の部屋の前にいるの......? 」

  それを聞いたリュイは、ニコッと笑いながら、呆然としているキュアリスに向け、ゆっくりと答えた。

「ミルトを通して状況は全て聞きました。隊長殿が戻って来るまで不在にするのは、申し訳ないと思ってはいるのですが、帰宅した際は、軍帥殿を通してお伝えして頂けるという事です。なので、どうか、私達を連れて行ってください。」

  それを聞いたキュアリスは、彼女から目をそらす様にして通り過ぎようとする。

「あなた達はここで雄二の帰りを待ってあげて......。それに、戦争へ向かうのは、私の身勝手な理由でしかないから......。」

  そう言って彼女はその場を去ろうとした。


ーーだが、そんな彼女の腕を、リュイはしっかりと掴んだ。


  それに驚くキュアリスは、リュイの腕に力を感じつつ、一度彼女の方を振り返る。

  すると、リュイはその手を解いてその場に跪いた。

「隊長殿を待つ事ももちろんですが、私達は兵士です。そんな話を受けて、行かないわけにはいきません......。それに、これから私達はキュアリスさんの部下となります。長を助けるのは、我々の仕事なので。入り口の前に準備を済ませた部隊の皆が待っております。早く行きましょう!! 」

  それを聞いたキュアリスは、一度その場に立ち尽くした。

「何を言っているの......。」

  キュアリスがそう言うと、リュイは顔を上げ、精悍な顔つきでこう答えた。

「これも、ある意味我々のワガママなのかもしれませんね。こんな出来ない部下の、私達のワガママを、たった一度だけでいいので、ぜひ受け入れて頂きたい。」


ーーキュアリスはそんな真剣な口調で意思表示をする彼女を見た時、頷くことしか出来なくなった。


  覚悟を決めた彼女の表情を見た時......。

  そんな彼女に向け、キュアリスは、こう呟く。

「ならば、少しだけ私のワガママに付き合ってもらってもいい......? 」

  それに対してリュイは、笑顔でこう答えた。

「はい、どこまででも!! 」

  キュアリスはそんな彼女の言葉を最後に、『特殊異能部隊』と共に戦う事を決意した。


ーーそして、全員と顔を合わせると、そのまま施設を後にしたのだ。


「『聖騎士』キュアリス、並びに『特殊異能部隊』は、『ヘリスタディ帝国』により占領された『ロンブローシティ』奪還の為、出兵を開始します。」

  そんな言葉を置き去りにして......。

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