天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第112話 中二病の非現実的な体験。


ーーーーーー

「我がダークネスハートが世界と共鳴した瞬間から、私は無の境地へとシフトして行く事が出来たのだ。もしもあの時、それを拒否していたのならば、私は今もこの退屈な世界にて無益な時間を過ごしていただろう......。」

  変わり果てた妹は、訳のわからないワードを繰り返し続けている。


ーーどうやら、『闇に堕天して、邪神としてこの世界に転移した』という『設定』で動いているらしい。


ーー本当はこの世界のこの街に生まれた何もない大人しい中学生なのだが......。


  しかし、精神年齢が小学生レベルのお姉さんと、見たまんま明るい小学生は、熱心にそんな彼女の妄言を聴き続けていた。

「何だかよく分からないけど、あなたが物凄い人間なのはひしひしと伝わってくる!! 」

  ニルンドは身を乗り出してそんな事を言っている。


ーーいやいや、よく分からないって言ってしまっているじゃないか。


ーー本当にこの女は、賢いのか賢くないのかよく分からなくなる。


  そんな時、アメールは優花に向けて冷静な口調でボソッとこう呟いた。

「それではあなた、もしかしたら闇の『異能』を使えるのですよね......? まあ、雄二さんの妹さんならば、そのくらいは容易いと思うのですが......。」


ーー多分、アメールはある程度『中ニ病』と言う生き物の性質を理解した上での発言だと思われる。


ーー最初は兄弟で積もる話もあるという事で気を遣ってくれたのだろうが、三十分程も訳のわからない話を聞かされれば......。


  そんな彼女の質問を聞いた優花は、一瞬明らかに困惑した表情を浮かべた。

「あ、当たり前だ!! だ、だが、一目に触れると余りにも目立ってしまうからな!! 」

  優花は明らかに動揺しながらそう答えた。


ーーいや、もう既に悪い意味でだいぶ目立っているのだが......。


  すると、アメールは一つ確認を取る様に俺の方を見た。

  俺はそれに対して、小さく頷く。

  そして、彼女はそれを見ると、こう提案を始めたのだった。

「それでは、余りに人目のつかない場所まで行って、一つあなたの『異能』を見せてもらいましょう。それによってあなたを信用するかどうかの判断とさせて貰います。」


ーーアメールが淡々とした口調でそう告げると、優花は泣きそうな表情をしながら、俺の方を捨てられた子犬の様な顔で見ていた。


ーー正直、アメールの容赦ない口撃に対して、妹が、しどろもどろしているのには少々心を痛めたところではあるが、優花には将来まともになって欲しいという気持ちが先行してしまったので、俺はそれを止める事をしなかった。


「そ、そうか!! ならば、ち、ちょうどいいところがあるぞ!! そ、そこでなら、邪神としての能力が遺憾無く発揮できるだろう!! 」

  優花はそう叫ぶと、俺に一瞬弱々しい表情を見せた後で、俺達を連れて行く様にして店を後にするのだった。

  去り際にアメールは俺の耳元で、

「これで妹さんは、元に戻ると思いますよ......。」

と、小さく呟いた。


ーーーーーー

  先程いたカフェから妹の誘導によって、数駅離れた場所にある市民の森の奥深くにある人気のない広場に誘導された俺達は、彼女の妄言に付き合っていた。

「すごいね!! あんなに都会な場所があったと思ったら、こんな山なんかもあるんだ!! この世界って、本当に不思議な所だね!! 」

  桜はそんな風にテンションを上げながら、広場の周りを走り回っている。


ーー俺はというと、もし万が一、優花が本当に闇の『異能』を作り出してしまった時の為に、念には念を入れて人除けの『魔法』をかけたのだった。


  それを見た優花は、俺が彼女同様に中ニ病を患っていると勘違いしたのか、

「やるわね......。貴様には、『カオス・ブレイン』の称号を与えるわ......。」

とか、不名誉な異名をつけられてしまっていた。

  そして、その『魔法』の詠唱が完了したのを見たアメールは、真剣な眼差しで優花にこう告げる。

「それでは準備が整いました......。では、見せて貰いましょう。あなたの『異能』とやらを......。」

  それを聞いた優花は、いまさっきのテンションも忘れて俯きながら両手を広げた。

「お願い、力を貸して......。」

  そんな事を呟きながら......。


ーー俺は、そんな責め立てられる妹を見ていると、段々と心が痛くなって行く。


ーーアメール自身も意地悪の気持ちでやっている訳ではなく、この世界の性質を理解した上で、疎まれてはいけないという良心からその様な厳しい事を言っているのは分かっていた。


  カフェで彼女が囁いた言葉から察するに......。

  だが、どうしても俺は追い詰められる妹の事を擁護したい衝動が心を支配して行く。

  今にも泣き出しそうになりながら腕を前に突き出している滑稽な姿を見ていると......。

  そして、彼女が大きな声で叫び、手に力を込めた時、俺は彼女の目の前に思わず闇の『異能』を出現させてしまったのだ。


ーーすると、広場の真ん中には縦に延びる様にして闇の柱が現れる。


ーー黒く怪しく煌びやかに......。


  そんな現実世界ではあり得ない光景を目の当たりにした優花は、自分の両手を見つめた後で跪き、まだ黒々と光り続ける闇の『異能』を呆然と見ていたのだ。

「よ、良かったじゃないか......。やっぱり彼女は『異能』を......。」

  俺がそんな風に取り繕いながらアメールに向け叫ぶと、彼女はうんざりした表情を見せていた。

「あなた、幾ら妹が可愛いからって、擁護したら私が意地悪な演技した意味が無くなるじゃないですか......。」

  アメールがため息をつきながらそう呟くと、ルインドはびっくりした表情を見せて、

「えっ?! 今のって佐山雄二が出したの?! 私はてっきり優花ちゃんが出したのかと思っていたよ!! 」

と、ハイテンションで驚く。

  それに対して俺は、上を向きながら、

「な、何のことだよ......。お、俺じゃねえし......。」

と、二人から目を逸らしながら答える。

  そんな時、桜は山の中から出て来て、

「見て見て!! この森、余りお花が無かったから、沢山生やしてみたの!! どう?! 綺麗でしょ!! 」

と、先程まで只の緑色だった森は、色とりどりの花に埋め尽くされていた。


ーー俺はそれを見ると、慌てて彼女の元へと近づき、

「この世界では余り目立ちたくないんだ......。だから、悪いんだが、もと通りにしてくれないか? 」

それを聞いた桜は少し不満気な顔をした後で、

「分かったよぉ......。」

と、しょげながら手元へと花を戻して行った。


ーーまあ、俺も俺で闇の『異能』を出してしまったのは事実なのだが......。


  そんな非現実的な光景を目にした優花は、俺達の事を探る様に何度も見直した。

  煌々と燃える闇の柱、ゆっくりと手元に戻る花々。

  彼女の思考回路は完全に停止していた。


ーーそんな中、段々と現実を理解して行く。


  そして、全てを理解した時、彼女は驚愕の表情を浮かべた後で、

「えーーー???!!! 」

と、大きく叫んだ。


ーー本来はこの世界で余り厄介事には巻き込まれたく無かったのだが、こうなってしまった原因は俺にある。


ーーそれに、優花を守る上で内心、今の俺の状況を分かってもらいたいと思ってしまったのかもしれない。


  それに観念した俺は、優花の元へと近づいて行き、静かにこう呟いた。

「ごめんな、実は俺、今『異世界』で生活しているんだよ。それの副作用で、こんな力を手に入れてしまったんだ。」


ーーそれを聞いた優花は再び驚きの表情を見せる。


「えーーー???!!!! 」

  その後で、半ば錯乱状態のまま、俺の両肩をグッと掴んでこう詰め寄って来た。

「本当に異世界に住んでいるの?! どうやって行ったの?! どうすればそんな不思議な力が使えるの?! 」

  俺はそんな彼女の狂乱に苦笑いしつつ、こう答えた。

「いやいや、いきなりそんな事言われて焦るのも分かるが、一回落ち着いてくれよ!! それに、その理由を探しに一度この世界に戻って来たんだよ。」

  俺がそう促すと、彼女は俺から一度離れて頭を抱えていた。

「本当にあるんだ......。不思議な世界......。」

  そんな風にブツブツと呟いていた。

「だ、大分、混乱していますね、妹さん......。」

  アメールはそんなおかしなテンションになった優花を見つめながら、少し引き気味にそう呟く。

「それはそうだろう。だって、この世界では、『異能』や『魔法』の類は空想の範囲で捉えられているんだから......。」

  俺がそう返事をすると、近くにいるニルンドはオーバーリアクションでこう答えた。

「そ、そうなのか?! それにも関わらず、ここまでの文明を築くとは......。侮れん。」


ーー俺達がそんな会話をしていると、優花は相変わらず絶望的な表情を浮かべたまま俺の元へ再び戻って来て、カッと真剣な顔をした。


「だからずっと行方不明になっていたの?! 浩志兄ちゃんにしてもそうだけど......。いきなり居なくなったのに、誰も覚えていないんだもん......。」


ーー俺は、優花の言葉を聞くと、焦った。


ーー何故、優花は佐山浩志の事を覚えているのかと......。


  そこで俺は恐る恐る彼女に対して質問をした。

「お、お前、兄貴の事を覚えているのか......? 」

  それに対して優花は涙目になりながら、語尾を強めてこう答えた。

「当たり前じゃん!! だって、私にとっては大事な家族だもん!! 雄二兄ちゃんの事だって、ずっと覚えていたよ!! でも、お父さんもお母さんも、弟も、誰も二人のことなんか覚えていない。どんなに雄二兄ちゃんが両親に嫌われていたとしても、そんなのはおかしいじゃん!! だから......。」


ーー俺はその話を聞くと、少し切ない気持ちになった。


  その後で、直感的に思う。


ーー全く自覚の無い優花は、『世界の理』に関する何か大事な鍵を握っている事を。


  俺はそう考えると、優花の肩にポンと手を当て、こう言った。

「俺が消えてからの話を詳しく聞かせてくれないか......? 」

  それに対して優花は笑顔で大きく頷いた。

「もちろんだよ。私だって、聞きたいことが沢山あるし......。」

  彼女がそう答えると、俺達はその場にゆっくりと腰を下ろした。

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