天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第111話 変わり果てた妹。


ーーーーーー

  電車を乗り継ぎこの街で一番主要となっている駅に到着した俺達は、デパートの中にある女性物の服屋にて、この世界にいる上でおかしくない格好をしてもらった。


ーー生憎、この世界にいた時には他人と遊ぶ事など滅多に無かった為、少し貯金には余裕があった。


  何よりも、銀行口座の中でもこの世界に戻るまでの間、俺の存在は風化されていただけであった様で、普通に使用する事が出来た。

  だが、案の定ではあったものの、服屋に行っても相変わらずニルンドはニルンドのままだった。

  迷彩に対するこだわりを語り出し、挙げ句の果てには上下その模様の服を買おうとしていたのだ。


ーーいや、そのチョイスでは、更に目立ってしまうのだが......。


  結局俺は、辿々しい足取りで女性ファッション誌を購入すると、彼女らの体型に似た人物を探し出して、その通りの格好をさせたのであった。

  ニルンドは白いロングTシャツに黒いボーダーの入った物に、灰色をした七分のデニム、更には奴の動きを抑える為に足元は黒いヒールをチョイスした。

「おかしいじゃないか!! これでは囚人の様だぞ!! それに、この靴、歩きづらいぞ!!いざという時に......。」

などと、大いに文句を垂れていたが、俺はその度に『シークレット・ミッション』と言うワードを血反吐を出す気持ちで発する事で、何とか納得してくれたのである。


ーーそれにノリノリになったニルンドは、何故か買い物カゴの中に伊達メガネを『変装』という名目で入れ始めてしまったのだが......。


  アメールは、ニルンドに比べて少し小柄だった事もあり、英語のプリントがされた灰色のパーカーに黒いミニスカート、黒いタイツを。

  桜に関しては、余りにも気に入ってうるさかったので、花柄のワンピースに茶髪の髪にはピンクのカチューシャをチョイスした。


ーー正直な所、俺はそんな彼女達の試着の際は、物凄くソワソワとしていた。


ーー何故なら、こんな場所、一度も入った事が無かったから気まずさが全身を覆い尽くした。


  そんな状況を何とか乗り切り、やっとここにいる三人がこの世界で溶け込める事に喜びを感じた。

  そして、店を後にした時、俺は疲れ切った体を無理やり奮起させて、みんなにこう告げた。

「とりあえず、第一ミッションは完了した。」

  俺がそう言うと、すっかり着替えを済ませた喜んでいた。

「雄二、素敵な服を買ってくれてありがとね!! 」

  桜は俺の手に両手を絡めながらそうお礼を言った。


ーーそんな無邪気な彼女の笑顔を見ると、俺は少しだけ疲れを忘れる事が出来たのだった。


  それと同時に、もしこの世界にキュアリスが来たのならば、彼女はどんなリアクションを見せるのだろうなどと、頭の片隅で考えるのであった。


ーーそれにしても、この街に流れる時間と、あの世界に流れる時間の密度は全く別物である事を、俺は強く感じた。


ーー自宅から出て、栄えている街を歩いている人々は、『平和』という確固たる大義名分に酔いしれる様に幸せそうな表情を浮かべているからだ。


  そんなこの世界の雰囲気に少し身を委ねると、俺は一瞬自分に課せられている責任を忘れかけてしまう。

  以前ここにいた時は、そんな当たり前な感覚を疑う事も無く只、自分という存在価値を探し続けていたのだ。

  先の人々が作り上げてきた『安全』や『安心』にぶら下がり続けて......。

  だからこそ今は、遠い世界で起きている戦争を経験して行く中で、それが如何に難しい事であるかを痛感させられる。


ーー『異世界人』にとっての目標は、そんな『平和』な日本を占領する事。


  俺はそんな危険な思想を抱いている彼らに気を引き締めて、少し歩いた路地にあるカフェへと、休憩がてら足を運んだのであった。


ーーーーーー

「いやあ、それにしても、この世界は何もかもが進んでいて驚かされる事ばかりだよ......。」

  カフェの中に入り座り込むと、ニルンドは先程買ったばかりのメガネに手を当てながら、小声でそう呟いた。

  それに対して桜は同調する様に頷きながら、にこやかに、

「そうだよね!! 建物もあっちには無いくらい大きいし綺麗だし、馬が引かなくても荷馬車だけが遠くまで運んでくれるし!! 」

と、答えたのだった。

  俺はそんな二人の会話を聞きながら、コーヒーを啜っていた。

「しかし、それにしてもこれから『世界の理』に関する情報を仕入れなければならないのだが、何処に転がっているのかが全く見当がつかない。いつか転移した時の為、文献には沢山目を通したのだが、どれも最後は『あちらの世界に着いた時、全て分かるだろう』と、アバウトな事しか書いていないんだ......。」

  ニルンドは首を傾げながらそう言った。

  俺もそれに頷く。


ーー実際に転移して来たは良いものの、これでは買い物に来ただけになってしまっているから......。


  そこで、とりあえず『メディウス』の石をポケットから取り出し、社から情報を聞き出そうと話しかけてみたのであった。


ーーだが、幾ら俺が石に向け念じても、話しかけても、そこから返事が来る事は無かった。


  それに多少疑問を持ったものの、忙しいだけかもしれないと思い、俺は再びポケットに石を仕舞って考えを巡らせるのだった。

「社さんは、少なくとも何か手掛かりになる情報を持ってそうですからね......。とりあえず、彼女から返事があるまではこの話をしても不毛かと......。」

  アメールはホットコーヒーを手に取りながら、そんな風にこの不毛の議論に終止符を打つ。


ーー確かに、結局の所、俺達は話し合ったところで何の結論も出せないのだから......。


ーーそんなこちらの世界の人間からすると不気味な会話をしていると、黒いゴスロリの様な格好をした一人の少女が俺達の目の前に現れた。


「もしかして、あなた達、異世界から転移して来た者......? 」

  そんな突然の問いを聞くと、俺は慌てて顔を上げた。


ーーそして、少女の顔を見ると俺は驚愕した。


  何も知らないニルンドは鼻の穴を膨らませながらその少女の手を掴む。

「もしかしてお前、『世界の理』について何か知っているのか?! 」

  それに対して少女は小さく頷いた。

「悠久の過去から生きて来たこの私には、知らぬ事などない。丁度今、邪神としてこの世界に退屈していた所だ。詳しい話なら聞く。それに、そこにいる佐山雄二にも話があるからな。」

  彼女はそう言うと、ニルンドの手を振りほどき、俺の方に近寄って来た。

  俺はそんな彼女から目を逸らした。

  いや、何かの間違いだよな......。


ーーだって、あいつ昔は......。


  そこで俺は近寄って来た彼女に対してこう問いかけた。

「お前、もしかして......。」

  俺の確認に対して、少女は自分の顔の前に三本の指を立ててポーズを取りながら意気揚々とこう答えたのであった。

「そう、この私は、佐山クロニクル優花!! 闇より現れし混沌の邪神である!! 」


ーーそんな、周囲の目を気にしないハイテンションな自己紹介に対して、ニルンドと桜は拍手をしていた。


ーーいやいや、クロニクルって......。


「久しく会ったな、我が兄よ......。」

  俺は彼女の口から出た『兄』と言う言葉を聞くと、彼女が紛れもなく俺の妹、『佐山優花』である事を自覚した。


ーー以前は全く会話をする事もなかった大人しい妹である事を......。


  俺が一人暮らしを始めてからというもの、彼女と顔を合わせる事もなくなった。


ーーその間に彼女は大きな進化を遂げてしまっていたのだ。


ーー『中ニ病』と言う名の......。


  それを証拠づける様に、彼女は小脇に胡散臭い魔術教本を抱えている。


ーーその本には、どこぞのアニメのキャラクターがプリントされているのが確認出来る。


  そんな彼女に対して、俺は話すだけ無駄だと判断し、三人に向けて冷静な口調でこう言った。

「多分、こいつは何も知らないから相手するだけ無駄だと思うぞ。」


ーーそれを聞いた優花は、一瞬打ちひしがれた様な表情を浮かべた後で、再び居直る。


「ククク......。何をデタラメな事を言っておるのだ。流石は邪神の兄であるな。」

  そんな痛々しい彼女の発言を聞くと、俺は心を痛めた。


ーー家庭で嫌われていた為、殆ど会話が無かったとはいえ、一応こいつの兄である事に......。


ーーだがふと、視線を移すと、ニルンドと桜は相変わらず目を輝かせている。


  俺は、そんな二人を見ると嫌な予感がした。

  そして、静かに目を逸らすと、ニルンドは俺の肩に手を当て、こう呟いた。

「彼女なら、『世界の理』について知っているかもしれん......。一応詳しい話を聞いておくのも悪くないのでは......。」

  俺はそんな彼女に苦笑いをしてアメールに助けを求めると、彼女は何かを察したのか、引きつった笑顔でこう言った。

「あ、あまり意味は無さそうですが、一応、話だけでも聞いてみてはどうですか......? せっかくの兄妹の再会でもありますし......。」

  アメールのそんな発言に折れた俺は、俯きながら優花にこう促した。

「とりあえず、座って話を聞かせてくれ......。」


ーー俺が優花にそう告げると、彼女は一瞬嬉しそうな表情を浮かべた後で、慌てて再び『邪神』のキャラクターに戻ってこう呟いた。


「クハハ......。やはりこの悪魔の前に屈したのだな......。」

  彼女はそう言うと、空いている俺の隣の椅子にゆっくりと腰掛けた。


ーー最悪の再会だ......。


  只でさえ家庭での事はあまり思い出したくもないし、それに、残念に変わり果てた妹の存在......。

  いや、何よりも辛いのは、すっかりと盛り上がり悪目立ちしてしまった事により感じる周囲のドン引きしている目だ。

  何も知らない周りの人からすれば、俺達も痛い妹と同類なのだが......。


ーーこれでは、何の為にこの世界の服装に身を包んだのか分からなくなる。


  そんな事を考えながらも、俺は隣でダサいポーズを取り続ける優花の話を聞かされる事になったのだ。

「天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く