天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第110話 シークレット・ミッション。


ーーーーーー

  季節が少し暖かくなった時期だった事を口実に、ニルンドには軍服の上着を脱いでもらい、ワイシャツになる様に促した。


ーー桜はいいとして、ニルンドは余りにも目立ち過ぎるので......。


「何故、軍服を脱がねばならぬのだ!! ここには私の誇りが沢山詰まっているんだぞ!! 」

  彼女はそんな俺の提案に対して、不満を露わにする。


ーー要は、この女、軍隊である事を誇りに思っているのだ。


  ある種、軍服の詰襟こそが彼女のアイデンティティなのかもしれない......。

  そんな事を考えながらも、俺は彼女を何とか説得しようと、いろいろな言葉を用いて説得をした。


ーーだが、彼女はそれを受け入れない。


  ならばいっその事、ここで留守番して貰おうか......。

  だが、ニルンド一人をここに置いて行くのは余りにも博打だ。


ーー何故ならば、普段の彼女の挙動から見るに、下手したら勝手に外に出て、何か問題を起こす事にもなり兼ねない......。


  そんな状況の中で、必死に考えた結果、俺は苦し紛れに余りにも中二病的な言葉を投げかけた。

「ここでの俺達はスパイみたいなもんだ。要は、極秘任務で転移についての謎を解き、元の世界に持ち帰る。所謂、『シークレット・ミッション』なのだよ!! 」


ーー俺は、そんな発言をした後で、自分の口から出たカッコ悪い言葉を発してしまった事に後悔をした。


  幾ら説得に必死だったとはいえ、全くセンスのかけらもない『シークレット・ミッション』とか言う頭の悪い造語を作り出してしまった事に......。

  そんな事を考えていると、俺は一瞬で顔を真っ赤にした。


ーーしかし、ニルンドはそんな俺の恥ずかしい言葉を聞くと、真剣な眼差しで固まっていた。


「『スィークレット・ムィッション』......。」

  彼女は俺のダサいワードをやけにカッコいい発音で復唱すると、再び固まり出したのであった。


ーーいやいや、めちゃくちゃ恥ずかしいんですけど......。


ーーしかも、明らかにドン引きしている様子だし......。


  俺がそんな風に自分の浅はかな行為を恥じていると、ニルンドは小刻みに震え出した。

「そっ......。」

  ニルンドは俯きながらそう小さく呟いた後で、鼻の穴を大きくし、

「それ、なんかカッコいいな!! ならば仕方がない!! 佐山雄二の口車に乗せられてやろう!! 『スィークレット・ムィッション』だからな!! 」

と、興奮気味に叫んだ後で、先程まで大切に着ていた詰襟を脱ぎ、勢い良く立ち上がるのであった。


ーーおや? 意外と上手くいったのか......?

  
  俺はそう考えると胸を撫で下ろした。


ーー奥で必死に笑いを堪えるアメールを見て心を痛めながらも......。


ーーーーーー

「昨晩、佐山雄二が無事に元の世界に転移する事が出来たという報告があったよ。」

  王宮の最上階に位置する自分の部屋で、森山葉月はそんな社からの報告を受けると、一安心をした。

「やはり予想通りではありましたね。彼ならば、とは思いましたが......。」

  それを聞いた社は、悩んでいる様な声で、問題を提起した。

「だが、それよりも予想以上の事が起きてしまったんだよ。」

  森山葉月はそんな彼女の言動に対し、眉間にシワを寄せた。

「それは一体、どういうことですか? 」

  社は辿々しい口調でこう答えた。

「実は、一緒に同行していた他の二人も転移してしまったのだよ......。」

  そんな彼女の言葉に森山葉月は薄っすらと笑う。

「そうでしたか。やっぱり、彼の生まれ持った『才能』は本物だった訳ですね。」

  森山葉月が余裕のある喋り方でそう呟くと、社は少し驚いていた。

「ま、待ってくれよ。こんな事、前代未聞の筈だろ......? 」

  社の言葉に対して森山葉月はフフッと笑って見せた。

「まあ、それは良いとして、もう少し彼らにはあちらの世界にいてもらいましょう。あの事は彼自身が気付かなければ意味がないので......。それに、これから彼には沢山の壁が立ちはだかります......。では、私もいろいろとやらなければならない事がありますので、これで......。」

  彼女はそう言うと、納得行かないのか喚き続ける社を無視して、静かにマジックアイテムを胸元に仕舞った。

「それにしても、戦況はあまり良くないな......。まさか、たったの二日で『ロンブローシティ』が潰されてしまうなんて......。」

  森山葉月の対面でバラドレアスはテーブルに広げられた『ベリスタ王国』の地図を見つめて、そうボヤいた。

  それを聞いた森山葉月は、真剣な表情になった。

「流石にそれに関しては想定外でしたね......。まあ、あちらの国が狙っている目的が分かっているだけでも、こちらの方が優勢ではあるのですが......。」

  そんな彼女の発言に対して、バラドレアスは一つため息をついた。

「地方都市の戦力では、太刀打ち出来なそうだな。これでは、首都まで攻め込まれるのも時間の問題だ。そろそろ、俺が出向く番ではないか? 」

  彼は体に禍々しいオーラを纏いつつ、森山葉月に対してそう提案する。


ーーだが、それを聞いた森山葉月は首を横に振った。


「いや、あなたにはもう少し我慢して貰いたいと思っています。」

  森山葉月がそう言うと、バラドレアスは荒々しい口調で彼女の元に詰め寄った。

「では、このまま首都まで攻め込ませるつもりか? 」

  彼女はそんな彼の問いに対して、フフッと笑って、こう答えた。

「それは、国家にとっても困る事でありますから......。そこで、『特殊異能部隊』の施設におります、キュアリスさん、並びに、部隊の方々を派遣しようと思っております。」

  それを聞いたバラドレアスは驚愕の表情を浮かべた。

「し、しかし、『聖騎士』を派遣するというのは......。」

  それに対して森山葉月は、再びニヤッと笑う。

「彼女が暴走する事を恐れているのですね......。それは大丈夫ですよ。いざとなれば、この私が......。」

  彼女の口から出たその言葉を聞くと、バラドレアスは更に驚きの表情を見せた。

「軍帥本人が行くなんて......。」

  彼女はバラドレアスのそんな呟きを聞くと、最後にこう発言をした。

「今ある状況を考えると、私が戦う事が一番丸く収まると思うので......。」


ーーバラドレアスはそれから言葉を発する事をやめた。


ーー最近起きている前代未聞尽くしの展開に、空いた口が塞がらずに......。

「天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く