天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第108話 元いた世界での俺。


ーーーーーー

  丘の上の公園から電車を乗り継ぐ事、約三十分程の商店街付近まで俺は桜、ニルンド、アメールの四人で俺の住むマンションへと移動していた。

  生憎、転移して来た時間には、まだ電車が走っていたので最短ルートを取る事が出来たのだが......。


ーー見た事のない物で埋め尽くされたこの世界にいちいち感動をする、うるさい二人がいた為に、そこそこ混雑している電車では、俺達は浮いた存在になっていた。


ーー丘から降りる道中、全員分買って渡した切符、走り出す電車......。


「お前達、大概にしておけよ......。」

  俺は余りにも騒ぎ立てる二人を軽く小突いた後で、そう律した。

  背後では、アメールが初めて乗る電車の揺れを恐れて震えている。


ーー只でさえ、軍服の女に、民族衣装の様な古めかしい服を着た幼女、怪しいスーツを着た女がいる時点で悪目立ちしているのに......。


  俺はそんな状況で大きくため息をつく。
  

ーーやけに気味悪がっている周囲の人々の視線は、俺が以前、この世界にいた時に浴びせられたモノとよく似ている。


  そんな視線に嫌気を感じながらも、俺は早く目的の駅に到着する事を、切に願っていた。

「おい、ここじゃないか? お前の言っていた駅とやらは!! 」

  ニルンドが先程よりも少しトーンを下げた口調でモニターに映し出された駅名を指差す。

  俺はその駅名を見ると、ホッと一安心した。


ーーだが、それと同時に一つ不安に感じる事があった。


  それは、俺があちらの世界に転移している間、どうなっていたかだ。

  兄や悠馬に関しても、俺は思い出す事が出来なかった。


ーーと言う事は、俺自身もこの世界で存在していなかった事になっている可能性は高い。


  俺はそう考えると、途端に不安になっていった。

  もしかしたら、居住地すらも......。

  そんな時、桜は俺の袖を掴んでこう言った。

「ドア、開いたよ。早く降りないと閉まっちゃう......。」

  俺はそんな彼女の一言を聞くと、我に帰って頷いた。


ーーそして、電車を降りて行く。 


  どちらにせよ、現地に着けば確認が取れる。

  そう思いながらも......。


ーーーーーー

  通い慣れた商店街を抜け、俺のマンションへと向かう最中、桜にとって嗅いだ事のない匂いの応酬に胸を躍らせていた。

「何なんだー!! この美味しそうな匂いは!! 雄二、あそこに入ろう!! 」

  桜はそんな風に叫びながら、一軒のラーメン屋を指差した。

  それに対してニルンドも同調する。

「大親友、桜は、やはり素晴らしい嗅覚をしている!! 私もあんな匂いがする料理は食べた事がない!! 佐山雄二!! 後生だ!! 是非、見聞を広める為にもあの店に行こうではないか!! 」

  俺はそんなお祭り騒ぎをする二人に再びうんざりとする。


ーーすると、そんな様子を見ていたアメールは、俺に対してこう呟いた。


「ここで拒否をすると、状況は悪化の一途を辿りそうです。ここは、勇気ある決断を......。」

  彼女はそう言った後で、お腹を大きく鳴らした。

  アメールは、その後ですぐに顔を赤らめる。


ーー俺はそれに気がつくと、無表情で問いかけた。


「お前も腹減っているのか? 」

  それに対して彼女は、大きく頷くのであった。

「それなら仕方ないか......。」

  俺がそう呟くと、ルインドと桜の二人は大喜びをした。

  先程、腹を鳴らしていたアメールは、俯きながら、

「勇気ある決断、ありがとうございます。」

と言って、はしゃぐ二人の後をついて行く。


ーー実を言うと、俺も少し楽しみにしている。


ーー懐かしき故郷の味、ラーメンを食べるのは、実に一年ぶりくらいになるのだから......。


  俺はそんな風に湧き立つ気持ちを押し込めつつ、飽くまでポーカーフェイスを装って、ラーメン屋の中に足を進めたのであった。


ーーーーーー

「ぷはー!! 桜の予想通り、ラーメンって食べ物は最高だったよ~!! 」

  桜がそう言うと、後から出てきた二人も、満足そうな表情を浮かべていた。

「日本という国には、こんなにも美味しい食べ物があるんですね......。」

  アメールは、そう言いながらお腹を抑えている。


ーーまあ、俺自身も懐かしさから涙が出そうになったのは事実なのだが......。


「じゃあ、行くとするか。」

  俺はそう言うと、自宅マンションへと足を進めた。


ーーまだ確証のないその場所へと......。


ーーーーーー

  俺は自宅マンションへと辿り着くと、ポケットからキーケースを出した。


ーードアの鍵穴にそれを差し込んだ時に、この世界での俺の存在の有無が決まるのだ。


  そして、息を飲み込んだ後で、俺は鍵を差した。


ーーすると、入り口のドアは開き、中へと入れる事を確認した。


  俺はそれに、ホッとしてため息をつく。


ーー何も知らずにはしゃぎ倒す二人を否しながら......。


「雄二の家、楽しみだなぁ!! 」

  そんな声が耳元を掠める。


ーーそして、俺はすっかり開いた部屋の中を確認した。


  すると、そこに広がっていたのは、紛れもなく俺の部屋だった。

  ベットの配置やテレビ、本棚の位置も当時のままであったのだ。


ーーだが、以前とは一つだけ違う点がある。


  それは、部屋中が約一年間の蓄積を物語るかの如く、埃だらけになっている事だ......。

  俺はそれを見た時に思った。


ーー俺が転移している間も、この部屋はずっと存在していた事になる。


  では、何故俺はあちらの世界に来た『異世界人』の存在を忘れてしまっていたのであろうか......?

  実は俺だけはあちらの世界に行ったとしても、皆に認識されていたのではと......。

  俺はそう考えると、部屋の郵便受けを開いて見せた。


ーーだが、そこの中には郵便物の類は一つも存在しない。


  俺はそこに疑問を感じる。


ーー幾ら何でも、一年間も何も届かないなどという事は普通に考えて有り得ないから......。


  更には、携帯電話に関しても、電源を入れたところで、履歴は残っていなかった。


ーー学校だってそうだ。


  突然行方不明になったのであれば、学校側から何らかの対処があってもおかしくない。


ーーそれが例え、生徒や教師、全員に疎まれていたとしても......。


  そんな事を考えていると、俺は一つの結論を導き出した。

  要は、転移すると、俺自身に関わるもの全てが風化されると言う事だ。

  俺がこのマンションの三階に住んでいたとしても、そこはない事になっているので、他人には認識されない。

  そんな事に気がつくと、俺は少しだけ切ない気持ちになった。


ーー幾らこの世界で嫌われていたとしても、実際に存在していない事にされると言うのは、哀しいものだから......。


  そんな風に俺が俯いていると、周囲に風が吹き荒れ、いつの間にか開いていた窓の先へと埃が綺麗に舞って行くのであった。


ーー何事だ......?


  俺は驚いて、その風の元を辿ると、そこには手から風の『異能』を出して、部屋の掃除をしているニルンドの姿があった。

「すごーい!! 一瞬で埃が消えたよ!! 」

  桜はいつから仲良くなったのか、ニルンドにしがみつきながら、そんな風に彼女を讃える。

  すると、桜はその後で、枯れ果てた観葉植物の方に手をかざすと、綺麗な花をそこに咲かせたのだ。

「これで綺麗になったね!! 」

  桜は嬉しそうに自分の生やした花を見つめる。

  俺はそんな二人の様子を見ると、ポカンとした。


ーーいや、待てよ......?


  なんでこいつらはこの世界で『異能』が使えるんだ......?

  俺はそう考えると、慌てて自分の手に水の『異能』を作り出してみた。


ーーすると、俺の手からは、綺麗に丸い形をした水の球が出来上がっていたのだ......。


「えっ......? 」

  俺はそんな非現実的な状況に驚きを感じた。


ーーファンタジーは想像の域でしかない筈のこの世界で、『異能』が使えてしまっている事に......。


ーーそんな時、ポケットの中から騒がしい声が聞こえる。


  俺はそれに気がつくと、その音の素になっている石を取り出した。

「もうひと段落ついたと思って、連絡したよ!! 」


ーーその声の主は、紛れもなく社であった。


「何故......。」

  俺がそんな風に弱々しい声で質問をすると、彼女は得意げな口調でこう答えた。

「何故も何も、石の中に『魔法』を編み込んでおいただけの話だよ!! それよりも、少しは『ヘリスタディ帝国』の狙いが分かったか? 」

  俺は彼女のそんな言葉に妙な納得をした後で、一度深呼吸をした。

  そして、静かに口を開いた。

「ああ、今さっき良くわかったよ。あいつらの真の狙いがな......。」

  俺はそう呟くと、『魔法』の編み込まれた石を静かにポケットにしまった。


ーー彼らの真の狙い。


ーーそれは、『異世界人』達が、あちらの世界で手に入れた『異能』や『魔法』の力によって、この世界を征服しようとしている事だった。


ーーだが、まだ多くの疑問が残る。


ーーどこでそんな情報を仕入れたのか......。


  そして、俺はこの世界で確かめなければならない事がある。


ーーそれはら俺の存在に関する事や、『世界の理』についてだ。


  そう考えると、ある程度の目処がついた所で、座り慣れたソファに腰掛け、拳に力を入れた。
 

「天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

  • ノベルバユーザー252836

    元の世界で魔法が使えた?よくわからん話だな。

    0
コメントを書く