天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第107話 時空の穴の先には。


ーーーーーー

  境内の中は、綺麗に整っていた。

  石積みで出来た道に、手入れの行き届いた白砂。

  蛇口が竹になっている水汲み場からは、綺麗な水が流れている。

  そして、正面に見える横幅十メートル程の本殿には、鈴があり、賽銭箱も見える。


ーー俺は、そんな絵に描いたような懐かしき日本の風景に、心を落ち着かせた。


  その時、何故か、涙が溢れそうになった。

  別に、戻りたい訳ではない。

  俺はこれから、大きな事をしなければならないから。


ーーだが、やはり故郷のカケラを感じられるこの場所は、俺にとって特別なのだ。


  俺がそんな風に感慨深くなっていると、社は俺に平坦な口調でこう言った。

「ここに来る『異世界人』は、みんな同じ顔をするよ。元の世界の空気を感じられると言ってな。」

  それを聞いたニルンドは、少々興奮気味にこんな事を口に出した。

「確かにそうだな!! 葉月さんも、ここに来た時は、『懐かしい』って言っていた!! 」


ーーやはり、森山葉月はこの場所に来ていたのか......。


  だが、一つ疑問に感じる事がある。

  先程から、社は俺の事を知っている様な振る舞いをみせている。

  俺はこの子には一度もあった事がない筈だが......。

「ところで、なんでお前は俺の事を知っているんだ? 」

  それを聞いた社は、おもむろにポケットからマジックアイテムを取り出した。

「これを使ったからだよ。森山葉月はあたしの元をよく訪れる。彼女が自信を持ってリークしてくれた情報だから、あたしはお前を信用したのだよ。」


ーーやはり、彼女は社とも繋がっていた。


ーー何と無くわかっていた事だが......。


  とりあえずそれを聞くと俺は、境内の中を走り回って遊んでいる桜に、

「そろそろ行くぞ!! 」

と、戻って来る様に促した。

  すると桜は、ニコッと笑いながら俺の元へ戻って来て、

「なんか、この場所ってすごく落ち着くね!! 雄二の故郷にはこんな所が沢山あるなんて凄いよ!! 早く行きたいな~!! 」

と、これから起きる転移に期待を膨らます。

  俺はそれに対して、小さく頷いた。


ーー正直な所、俺自身も転移に関して少し期待をし始めている。


  神社を見た事により、一時的なものだとしても、俺はもっと故郷の景色を見たい。


ーーこれから俺にのしかかるであろう、世界を救う責任を感じながらも......。


  社はすっかり集まった四人を前にして、こう促した。

「では、本殿の中へ入ろうと思う。だが、その前にあちらの通貨により賽銭をして頂きたい。」

  俺はそれを聞くと、学生鞄から財布を取り出した後で、小銭入れから五円玉を一枚と、十円玉を三枚取り出した。

  そして、桜、アメール、ニルンドの三人に十円玉を渡し、俺は五円玉を手に本殿の前へと立った。

  それから、俺にとっては当たり前にやっていた事である、二拝二拍手一拝の作法を社が教え、それを俺以外の三人は真剣に聞いている様子だった。

  だが、社の話を聞き終えた後、ニルンドは一つ首をかしげる。

「でも、私達も本殿の中に入ってしまってもいいのか......? 私は今までここに来ても、境内で待っていた事しかないのだが......。」

  社はそんな彼女の疑問に対して、一つため息をついた後で、こう説明した。

「今まで試みた森山葉月や佐山浩志では難しかったかもしれん。だが、今ここにいる佐山雄二がいるならば、問題は無いだろう。多分、元の世界への転移に関しては二人がやっとであろうが......。」

  俺はそんな彼女の自信に対して、少しだけ反発をした。

「ちょっと待ってくれよ。お前が俺にそれだけ期待してくれるのは有り難いのだが、例え森山葉月から話を聞いているにしても、初対面の人間にそんな信頼するのは良く無い事だ。」

  俺がそう口にすると、社は真剣な表情になった。

  そして、俺の近付いて来て、こう言った。

「あたしがこの『霞神社』の主をやって何年経っていると思うんだ......? 裏付けが無ければ、そんな危険な行動を取らせるわけがないだろうが。お前から放たれるオーラは、今この神社と共鳴して、全体を白く包み込んでいるのが見えるんだよ。要は、お前によって神社がここにいる人間を、全て受け入れたんだ。だから、全員が本殿にも入れるであろう......。」


ーー俺はその話を聞くと、ポカンとした。


ーー実際に俺には見えていない景色の中で、そんなにも神々しい現象が起きている事に......。


  すると、桜はニッコリと笑いながら、大きく頷いた。

「確かに、今見える光景は、凄く綺麗だよね!! 真っ白な光が神社の中を照らしているし......。」


ーー俺はそれを聞くと驚愕した。


「いや、桜。お前には見えているのか......? その光景が......。」

  そんな俺の質問に対して、桜はしたり顔をした後で、

「当たり前だよ!! 逆に、雄二には見えていないの? こんなに綺麗な景色が......。」

と、逆に問いかけて来た。


ーー俺はそんな桜の発言の後で確認の為に周囲を見渡した。


  だが、そこには薄暗い境内が広がっているだけだった。


ーー何故、俺には見えないんだ......?


  俺がそんな風に首を傾げていると、社は更に付け加える。

「それは、お前に見えてしまったら意味がないんだよ。理由は......。」

  社がそう話をしようとすると、ニルンドはみるみる内に興奮して行き、俺の両肩を持ってしがみついて来た。

「佐山雄二!! ありがとう!! 一度でいいから、私はあの本殿の中に入ってみたかったんだ!! やっぱり、葉月さんの言っていた通りあんたは『天才』だよ!! それが証明された!! 」

  俺はそんな彼女の姿に苦笑いをした。

  ふと、その先を見ると、無表情であるはずのアメールが驚きの顔を見せていた。


  すると社はうんざりとした表情を浮かべながら、一つ咳払いをする。

「分かったならば、しっかりと参拝をしろ。」

  それを聞いた俺達は、静かになった後で、鈴の前に立ち、先程渡した通貨を各々が賽銭箱の中に投げ入れ、横一列で祈った。


ーーすると、その先にある本殿の襖は静かに開いて行く。


ーー誰が手をつける訳でもなく、自発的に......。


  俺はその光景を見ていると、先程社が言っていた言葉を思い出す。


ーー『この街は生きている』ーー


  きっとこの神社も同様に生きているのであろう。


ーーそして、神社が俺達を受け入れたと言う意味を理解した。


「では、ゆっくりと中に入るが良い。」

  そんな社の誘導が聞こえると、俺達は本殿の中へと足を踏み込んだのであった。


ーーーーーー

  本殿の中に入ると、俺は驚いた。


ーー何故なら、外からの景色とは違い、本殿内部は奥行きもあり非常に広々としていた。


ーーそれは感覚の範囲ではあるが、外から見た時よりも数倍の広さはありそうであった。


「なんて不思議な場所だ......。」

  俺がそんな風に驚きの様子を隠せずに呟くと、社はニヤッとした後でこう言った。

「そうであろう......。実際にここは時空の歪みが生じているのでな。」

  彼女がそう自信ありげにそう説明すると、俺はそんな不思議な状況に納得せざるを得なかった。

  そんな歪みにより広々とした屋内の壁際には、ボロボロになった古文書の類が、本棚の中に整頓されていた。

  ニルンドはその中の一つを手に取って興奮している。

「これこれ!! 今までずっと読みたかった本だよ!! やっと見れることになるなんて、幸せだー!! 」

  俺はそんな彼女のテンションをチラッと見た後で無視をすると、再び社の方に目をやった。

「中に入れたのは分かったが、どうすれば俺は転移が出来るんだ? 先程ニルンドが転移についての手順はここにある古文書に載っていると言っていたが......。」

  そんな質問をすると、社はおもむろに歩き出した後で、一つの小さな本を手に取って俺の前に座り込んだ。

  そして、そのページを探るようにめくっていくと、真ん中の辺りでその手を止めた。

「まず最初に質問したいのだが、お前が来た世界は、ここで良いのか......? 」

  彼女はそう問いかけながら、古い本の中に描かれている一つの絵を指差した。

  俺は、その絵に目をやると、大きく頷いた。


ーー小高い丘から描いたであろう、港の絵を......。


ーー古い街並みとはいえ、その絵を見た時、俺はそこが自分の故郷である事を確信したから......。


  すると、社は安心した後で、一度本を閉じる。

「やはり、この街からの転移者で間違い無いようだな......。では、これから手順を説明しようと思う。」

  彼女はそう言うと、再び立ち上がり、一つの石を持ち出す。

  そして、そこだけ何もない壁に不自然にも掛けてある屏風を取り除いた。


ーーするとその壁の先には、人が通れるくらいの通り穴の様な物が顔を出した。


ーーその穴の先は、何色とも形容し難い不気味な色が歪みを持って光り続けている。


  俺がその光景に驚いていると、桜は後ろから大きな声で、

「なんか、少し気持ち悪いけど、ここを通れば雄二の故郷に行けるんだね!! 」

と、目を輝かせている。

  社はそんな桜の憶測に頷き、先程取り出した石を俺の目の前に差し出した。

「そうだ。お前達ならば何もしないでも行く事は出来るのだが、こちらの世界に帰ってくる為にはこの石が必要になる。この石は、『メディウス』の動力である塔の一部だ。これに向かって今から教える呪文を唱える事で、あちらの世界から再び戻って来る事が出来る。」

  彼女はその呪文を俺に教えると、俺の掌にその石を託す。


ーーそんな様子を、俺達の背後からアメールは真剣な様子で見守っている。


  この穴の先には、元いた日本に戻る事が出来る。そこには、森山葉月が言っていた『世界の理』の真相があるのだ......。


  そして、俺は決心をつけると、桜の手を握って深呼吸をした。

「それでは、今から行って来る......。」

  俺がそう社とアメールに告げると、彼女達は頷いた。

「是非、お気をつけて行って来てください。」

  アメールがそう激励の言葉を口にすると、社もそれに続けて、

「そうだな。これは世界を救う上で重要な一歩だ。その自覚を持って現実を見て来てくれ......。」

と、言ったのであった。


ーー相変わらず古文書に夢中になっているニルンドは放っておく事にしよう......。


  俺はそう考えると、社とアメールに小さくお辞儀をした後で、歪みを持った穴の方に体を向けた。

「では、行って......。」


ーーだが、そんな時だった。


「遂に行くんだね!! 気をつけてくれ!! その前に、大親友桜ちゃんに熱い抱擁を......。」

  俺達の出発に気がついたニルンドがそう叫んで穴の中に足を進めようとした俺と桜の元へと勢い良く襲いかかって来た。


ーーそれは、俺達とニルンドの間を隔てているアメールも巻き込む様にして......。


  そして、俺はそんな彼女のタックルを食らうと、飛ばされる様にして穴の中に放り込まれたのだ。

  決して桜の手を離さぬ様にして......。

  穴の中に入り込むと、時空の歪みで吐き気すら感じる程に平衡感覚を失う。


「雄二!! なんか気持ち悪いよー!! 」

  手を繋ぎ続けている桜の叫び声を聞きながら、俺は目を開ける事も出来なかった。


ーーそんな不快な時間が数分間続いた時、俺は不自然な気持ち悪さから解放された。


  そして、まだ桜の手を握っている事を確認すると、俺はゆっくりと目を開いた。


ーーするとそこに広がっていたのは、小高い丘の上に立つ公園だったのだ。


  その景色は、紛れもなく俺の元いた世界であり、かつて見慣れた筈の街だった。

  俺はその景色に感動した。


「綺麗......。夜なのに、こんなに明るい街なんて、今まで見た事ないよ......。」

隣を見ると、桜は暗がりの中、海と陸の間を照らす様に明るく輝くビル群に釘付けになっていた。


ーーそれで俺は確信した。


ーー元の世界に戻って来た事を......。


  そして、街の光景に圧倒されている桜に対して自信を持ってこう告げた。

「こここそが、俺の故郷、『日本』だ!! 」

  それを聞いた桜は、相変わらず驚きの表情のまま俺の方に視線を移した。

「って事は......。」

  彼女はそれからみるみる内に笑顔になって行く。


ーーそして、両手を広げて息を吸い込み、叫ぼうとした。


だが、そんな時、背後から大きな叫び声が聞こえた。


「まさか、私達まで転移して来たのかー?!」


ーー俺はその声を聞くと、一瞬頭の中でクエスチョンマークが浮かんで来た。

 
  いや、待てよ、そんな訳がない。

  だって、転移出来る資質を持っているのは、俺と桜だけの筈では......。

  そんな気持ちと共に、俺はゆっくりと顔を背後の叫び声の方に向けた。

  すると、そこには、桜と同じポーズを取ってはしゃいでいるニルンドと、若干眉間にシワを寄せているアメールの姿があった。


「いや、おかしいだろ!! 」

  俺は彼女達に向けてそんな風に叫んだ。

  そんな俺の発言に、ニルンドは首を傾けた後で、こう言った。

「私達だってよく分からないよ。古文書にはあの穴を通れるのは『英雄素質』を持つ『異世界人』のみって書いてあるんだから!! まあ、それは良いとして、どんな弾みがあったのかは分からないけど、まさか、来られる日が来るとは思わなかったよ......。」

  彼女はしみじみとそんな事を口にした。

  隣ではアメールが転移して来た現実を自覚して来たのか、どんどんと青ざめて行く。

  そんな状況であるにも関わらず、不覚にも、そんな彼女の表情を見ていると、俺は思わず笑ってしまった。


ーーあまり表情を表に出さない彼女のそんな顔を見ていると......。


  すると、叫ぶタイミングを失い、ずっと両手を広げて固まっていた桜が俺の袖を掴んだ後で、こう呟いた。

「雄二、とりあえずなんか疲れたから一回休みたいかも......。」

  俺はそんな彼女の発言を聞くと、一度余計な二人が誤って転移した事を置いておいて、皆に向けこう告げた。

「では、一回俺の家に戻って話を整理するとするか......。」

  それを聞いたニルンドは冷めやらぬ興奮の中で拳を大きく上に突き上げた。

  続く様にして桜も同じポーズを取る。


ーーそんな風に、多くの疑問を抱えながらも、俺達は異世界転移に成功する事が出来た。

 
  そして、考える。


ーーこれからが本番だ。


  この住み慣れた街にあるであろう、『世界の理』を知って、あちらの世界を救うためにも......。

ーーーーーー

  すっかりと全員が転移した本殿の屋内にて、社はため息をついた。

「いやはや、前代未聞だぞ。こちらの世界の人間まで転移してしまうなんて......。そうは思わないか? 」

  彼女は、時空の歪みによって遥かに高くなった天井を見上げ、大きな声でそう呟いた。

「いるのは分かっているんだぞ......。」

  そんな社の言葉の後で、天井からは巫女の格好をした一人の少女が降りて来た。

「全く、社はかくれんぼには強いのですね......。」

  そんな余裕の口調で微笑む巫女に向けて社は続けた。

「そんな事はどうでも良いんだよ。それよりも、何十年一緒にいても、お前は相変わらず掴めんな......。」

  それを聞いた巫女は笑顔を絶やさぬまま、こう口を開いた。

「私は楽しいと思いますけどね。長く生きると退屈な事も多いので......。」

  社は巫女のそんな気まぐれな発言を聞くと、再びため息をつく。

「影に潜んでずっと見ているなんて......。全く、お前は性格が悪いな......。」
 
  彼女はそう呟くと、再び時空の穴の方に目をやった。

「なんにせよ、『英雄』への第一歩がいよいよ踏み出されましたね。神として、楽しみですよ。私は情勢に身を委ねる事しか出来ませんから......。それも結局の所は、類い稀ない『才能』を持った彼次第になるのですが......。」

  巫女はそう言って微笑むと、『首都リバイル』の方角を見つめる。

「まあ、あちらの方も少し危険かもしれませんね。」

  それを聞いた社は俯く。

「佐山雄二、急がなければ、この世界の問題だけでは無くなってしまうぞ......。」


ーーその間にも、『メディウス』はゆっくりと崩壊を続ける。


ーーまるで、未来を暗示するかの様に......。

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コメント

  • ペンギン

    ニルンド邪魔...なんか腹立つ

    0
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