天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第106話 メディウスの鳥居。


ーーーーーー

  メディウス付近の目印となる岩を越えて三十分程馬を進めると、今にも崩れかけた塔が見えてきた。

  岩場の先からは深い森に囲まれていて、それを二分する様に綺麗に木々が伐採された道が違和感を引き立てる。

  しかも、その街には囲いという類が存在せず、街のシルエットは剥き出しになっていた。


ーーそれにしても......。


  俺がそんな風に驚愕の表情を浮かべていると、赤チェックのシャツにホットパンツを身に纏った社は、綺麗にぱっつんに纏まっている黒髪を少し弄りながら無表情で俺にこう問いかける。

「この街は、廃れているだろ? だが、一応人が住んでいるのは事実だ。まあ、今は住む人もいなくなり、もぬけの殻になっているがな......。」


ーーでは、何故そんな誰も住んでいないこの地を『地方都市』と位置付けているのであろうか......?


  俺は少々疑問を抱いたが、それについては質問する事をやめた。


ーー隣でニコニコと社に熱い視線を浴びせ続ける桜がいたから......。


「だけど、前に来た時よりもずっと、廃れているなぁ!! 私が初めてここに来た三年前よりもずっと......。」

  ニルンドがそんな事を呟くと、社は桜の熱視線から目を逸らした後で、大きくため息をついた。

「それはそうだろう......。これだけ世界の情勢が不安定になれば、堕ちるのも早くなるだろうよ......。」

  彼女はそう呟くと、段々と近づいてくる全ての建物に亀裂の入った『メディウス』の姿に、悲しい表情を浮かべた。

「また昔の様に戻れば良いのだが......。」


ーー俺はそんな二人の会話の意味を模索しつつ、崩壊しかけている『メディウス』のかつての姿を想像するのだった。


  そして、アメールが馬の足を止めた事により、俺達は馬車から下車をして、地方都市『メディウス』に降り立ったのであった。


ーーーーーー

  街の中に入ると、外から見ていた様子よりもずっと深刻な状況である事を物語る様に廃れていた。

  今にも崩れかけている石段の建物が互いを懸命に支え合う様に重なり合っている。

  足下の道は石造りのタイルが剥がれ落ち、そこから草が鬱蒼と生い茂る。

  そして何よりも、多分かつてはこの街の象徴であったであろう、二十メートル程の大きさの塔は、見る影もなく傾いているのだ。

  桜はそんな不気味な街の様子に怖がっていて、涙目になりながら俺の手を強く握っていた。


ーーそんな街の様子はまるで、戦争によって壊滅させられたのでは、と、疑う程だ。


ーーいや、実際にそうなのかもしれない。


  俺はそう思うと、手元に落ちている瓦礫を一つ拾い、この中で一番質問をし易そうなアメールに向けてこんな質問をした。

「この街も、戦争の被害を受けたのか......? 」

  それを聞いたアメールは、一瞬眉間にシワを寄せた後で再び無表情に戻り、淡々とこう答えた。

「いえ、この街が被害を受けた事は一度もありません。むしろ、世界一安全な場所と言われていた程です。かつては......。」

  彼女がそう言うと、少し前を歩いていた社は少しだけ涙目になった後で、アメールの前にやって来た。

「まあ、今そんな話をした所で状況が変わる訳でもあるまい。それよりも、目的の場所は『霞神社』だろ? 」

  彼女はそう呟くと、塔の手前にある角をゆっくりと曲がって行った。


ーーそして、そこを曲がると街の入り口にあるメイン通りよりもより一層大きく、太い一本の通りへと出た。


  その通りは、先程のメイン通りとは違い、地面にタイルも綺麗に敷き詰められていて、並びに建つ建物も今建てたのかと思う程、新しい造りになっていた。


ーーそれは、今まさに出来上がったばかりの様に......。


  俺がそんな先程の崩壊した街との差に圧倒されていると、ニルンドは真面目な顔つきでこう呟いた。

「ここが最後の砦な訳だ......。」

  それに対して、社は先頭で前を向いたまま、

「まあ、そう言う訳だよ......。だが、今は状況が違う。この街、いや、この世界を救う可能性がある男が今ここにいるのだからな......。」

と言った後で、ピタリと立ち止まった。

  その後すぐに彼女は上を向く。

  俺はそんな彼女の視線の方向に目をやった。


ーーすると、そこにあったのは、小高い丘の上に煌々と聳え立つ、真っ赤な鳥居であった。


  その鳥居の大きさは三メートル程と、こじんまりとしたものであったが、俺はそんな鳥居に懐かしさを感じた。


ーーこれが『霞神社』......。


  俺は西洋風の建物の先にある浮いた存在であるそれを前に、立ち尽くす。


ーーすると、そんな俺を気にする事もなく、社は俺にこう言ったのであった。


「では、これから中に入るとしよう。あたしはお前に期待しているよ。この生きている街、『メディウス』の再建、そして、悪意を持った『異世界人』に塗れるこの世界を救う救世主になってくれる事を......。」


ーー俺は彼女の言葉を聞くと、その街の真相を理解した。


ーー要するに、この街は生きているのだ。


  そんな風に考えていると、ニルンドが彼女の発言に付け加える。

「『メディウス』と言う街は、世界の情勢によって、自発的に崩壊や復興を繰り返す、いわば、この世界の心臓部なんだよ。今までは国家を持ってしてその真実を隠し続けて来たのだが......。今となっては何処からか情勢が漏れ、『ヘリスタディ帝国』はこの場所を狙っている。正直な所、一刻の猶予もないんだ。だから、佐山雄二、観音寺桜にはその一歩を踏み出してもらいたいと思っている。」

  ニルンドはそう言うと、先程の探究心を捨て去ったかの様に精悍な顔つきをして、俺の前にひざま付いた。


ーー俺はそれに対して一瞬躊躇した。


ーー目の前で未だに崩壊を続ける街を見ながら......。


  余りにも重荷である責任感が現実として押し寄せて来ているのを感じながら......。

  すると、そんな俺を無表情で見た後で、社は俺にこう告げた。

「そう言う事だ。では、中へ入るぞ。」


ーー俺はそれを聞くと、拳にグッと力を込めた後で、桜と共に重い重い一歩を踏み出して、鳥居をくぐったのであった。
 

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