天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第99話 些細なひととき。


ーーーーーー


ーー今生きているこの世界に、俺はどんな気持ちを抱いているのだろうか......?

 
  俺はそんな事をふと、考える。

  無作為に蔓延る悪意と、何物にも変えられない優しさが混在する世界。

  優しさは元の世界にもきっと有るもので、俺が見つけられなかったもの。


ーー目を背け続けてきたものである......。


  森山葉月は、この世界に関する情報を何か掴んでいる。

  そんな断片的な事でも、俺の気持ちを騒つかせる。


ーー俺はこれからどうしたいのだ......?


  まだ目を覚まさない朝方の施設内の廊下を一人で歩きながら、俺はふと、自分の気持ちを省みるのであった。

「隊長殿ーー!!!! 」

  静かな廊下に響き渡る程の声で駆け寄って来たのは、まだ寝巻き姿でボサボサな頭をしたリュイだった。

  俺はそれに戸惑いながら彼女に、

「朝から騒がしいぞ。いきなりどうした? 」

と、うんざりした口調で問いかけた。

  すると彼女は涙目になっている。

「よくよく考えたのですが、隊長殿が『遊撃士』になると言う事は、我が『特殊異能部隊』から去ってしまうと言う事ですよね......? 」

  俺はそんな彼女の問い掛けを聞くと、真っ直ぐに俺を見つめるリュイから目を逸らしてこう答えた。

「ま、まあ、そう言うことになるな......。」

  俺がそんな曖昧な返事をすると、彼女は更に涙を溜める。

「そんな......。そうしたら、これから私達は誰を頼って行けばいいのですか......。」


ーー彼女が不安を感じるのは、痛いほど分かる。


  これからに対する不安、それに、ミルヴィールとも離れ離れになってしまう現実。

  俺はそんな彼女の気持ちを察すると、微笑みながらこう答えた。

「それは、大丈夫だよ。俺は死ぬ訳じゃないんだから、会う機会だってあるだろう。」

  そう言うと、彼女は眉間にシワを寄せた。

「そんな問題じゃないんですよ!! わかりますか?! 私は佐山雄二隊長の下で働きたいのです!! 」


ーー俺はそれを聞くと、少しだけ嬉しくなった。


  彼女がここまで俺の事を慕ってくれていた事に......。

  それと同時に切なさが込み上げてくる。


ーーそう、いつも当たり前の様に行動を共にして来た、『特殊異能部隊』と別れることの実感をしつつ......。

 
  俺はそんな風に考えた後で、歯を食いしばって彼女にこう告げた。

「心配するんじゃない。これからは、最高の上司がお前達の支えになってくれるんだから......。」

  そう言うと、背後から頭を抱えて軍服に身を包むキュアリスがやって来た。

「おはよう......。昨日の晩餐会で二日酔いだよ......。」

  俺はそんな彼女をジッと見て、静かに微笑んだ。

  すると、リュイは何かを察した様に驚いた表情を浮かべて、

「これからの上司ってまさか......。」

と、キュアリスをチラッと見た後で、俺に確認を取る。

  俺はそれに対してニコッと笑った後で、

「迷惑をかけるんじゃないぞ......。」

と、答えるのであった。

  それを聞いたリュイは、驚愕の様子で、

「えーーーー!!!??? 」

と、叫んだ。

「こ、これから私達は、『聖騎士』様の部下として従事するのですか......? 」

  彼女の質問に俺は頷く。

  すると、キュアリス自身もその事実を初めて聞いたみたいで、二日酔いの事も忘れて驚いていた。

「私の新しい部下って、『特殊異能部隊』だったの?! 初耳なんだけど!! 」

  俺はそんな食い付き具合に対して、苦笑しながら、

「ま、まあまだ完全に決まった訳ではないがな......。」

と、弱々しく答えた。


ーー俺はそんな二人の驚きの表情の中に、少しの安心感を確認できた。


  それに対して俺もホッと胸を撫で下ろす。

  少しの切なさを感じながら......。

  すると、気の早いリュイは俺に対して、

「それならば、盛大に送別会をやらなければなりませんね!! 」

と、突然の提案を始めた。


ーーいや、まだ詳細は何も聞いていないぞ......。


  そんな風に思いながらも、俺は彼女にこう言った。

「それは良いとして、今日も訓練をするぞ!! 早めに準備しておけよ!! 」

  それを聞いた彼女は、現実に引き戻された様な仕草をした後で、

「わ、分かりました!! では、これから準備をして参ります!! 」

と言った後で、慌てて部屋へと戻って行く。


ーー俺にとっては、こんな些細なひと時も、もうすぐ終わってしまう。


  だからこそ、最後までいつも通りに接しようと、強く考えたのであった。


ーーーーーー

  それからいつも通りの形で訓練は行われた。


ーー彼女達は初めて見た時から比べると差は歴然で、初陣の勝利から自信も付けている様子が伺えた。


  俺はそんな部隊の隊員達一人一人を見ていると、『もう大丈夫だ』と胸の中で強く思う。


ーーこれから俺は......。


  そんな気持ちで励んでいると、気がつけばあっという間に日は傾いていた。

「それでは俺は、軍帥と話をしに行かなければならないので、抜けるぞ。」

  俺がそう皆に呟くと、彼女達は少し切ない表情を浮かべた。

  だが、その後でリュイがニコッと笑い、

「分かりました。それまでの間、施設はお任せください!! 」

と言って、俺を送り出した。

  それを見た俺は、静かに頷くと施設を後にする。


ーー『異世界人』同士でゆっくりと......。


ーーーーーー


ーーそれにしても、彼女はどの様な情報を握っているのであろうか......。


  俺は市街へと向かう坂を下りながらひとりで真剣に考える。


ーーずっと追い求めていた真理はそこに存在するのであろうか......。

 
 そして、この世界に来た理由とは......。

「雄二、雄二、ねえ、聞いてるの?! 」

  俺はそんな聞き覚えのある少女の声に、軽く返事をする。

「聞いているに決まっているじゃないか......。」


ーーそう言って振り返ると、そこには桜がいた。


「お前、何でついて来てるんだよ!! 」

  俺はそれに驚き、そう問い詰める。

  すると桜は、口を膨らせた後で、

「ずっと後ろにいたよ? それに、雄二だけ美味しい物食べに行こうとしてたから!! 桜も行く事にしたの!! 」

  そう、万遍の笑みで答えた。


ーーいやいや、それはダメだろ......。


  俺は、否定しても拒否しても、絶対について来そうな幼女を横目にため息をつく。

「全く......。まあ良いや、とりあえず森山葉月には伝えておくよ......。」

  そう折れた俺に対して、桜はニコニコと笑いながら俺の手を掴み、喜んでいる。

  それを横目に俺はマジックアイテムで森山葉月に報告をした。

「申し訳ないが、桜もついて来てしまったから、同行させるよ......。」

  それを聞いた森山葉月は、小さく笑いながら、

「そうですか。まあ、それは好都合ですね。」

と、返事をする。


ーー好都合......?


  まあ、どちらにせよその発言の真意は後で分かるだろう。

  どうせ、森山葉月の事だから、色々と考えがあっての発言なのだろうから。

  そんな風に考えながら、俺は『異世界の料理店』の引き戸を勢い良く開けるのだった。

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