天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第90話 昔と同じ様に。


ーーーーーー

  昨晩、キュアリスには別の部屋が用意されているという事で、一度俺の部屋からは出て行った。

  俺と桜は、寄り添う様にして眠っていたのだが、目が覚めた時は清々しい朝が待っていた。

  起きたのは早朝で、まだ日が出たばかりの時間帯だ。

  そんな中、俺に寄り添っている桜の事を起こさぬ様に静かに立ち上がった。


ーーふと、窓から見える中庭の方に目をやると、誰もいない青々とした芝生の上には、つがいの鳥が仲睦まじく胡桃をつついている。


  俺は外の様子を見ていると、今が戦争状態では無い様な錯覚をさせられる。


ーー昨日起きた事が全て夢だったのか......?


  この世界に来てからというもの、俺は数え切れない程に非現実的な経験をしている。

  元の世界にいたら絶対に無かった事。

  だからこそ、今だにこれは長い夢なのでは、と、疑ってしまうのだ。


ーー泣いたり、悲しんだり、時には喜んだり......。


  その全てが、自分の経験である事が不思議でならないのだ。

  孤独だった筈の自分に、一人、また一人と仲間が増えて行く。

  疎まれていた筈の自分を、信頼してくれる人が沢山いる。
  
  昔の俺は、自分の存在意義すら見失っていたのにも関わらず......。


ーーそんな俺が少しずつ変わって行く。


  それは、迷い込んだ森の先で出会った優しい少女のおかげだ。

  そんな風に彼女への想いを馳せながら静かに微笑み、ソファへと腰をかけた。


ーー彼女との再会を喜びながら......。


ーーーーーー

「おはよう、雄二......。」

  東に見える太陽が部屋を照らす時間、虚ろな目をした桜がまだ眠気を感じて抗う体を無理矢理起こして、そう呟いた。

  俺はそれに対して、元気良く返事をする。

「おはよう、桜。」

  すると、彼女は半開きの目をこすった後で、思い出した様な表情を浮かべて俺にこう提案をした。

「昨日の夜考えたんだけど、今日は外食じゃなくて、キュアリスの手料理が食べたいなって思ったの!! 」


ーー俺はそれを聞いた時、ふと、思い出した。


  最初に出会った時、彼女が俺に作ってくれた料理......。

  そう、キュアリスは料理を作るのがとびきり上手い、只の女の子なんだ。

  俺はそんな風に彼女を共に旅をしているあの時の様に思って安心すると、桜の頭を撫でた後で、

「そうだな......。俺も久々に食べたいもんだよ。ならば、これから食材を買いに行かなきゃいけないな。」

と、微笑みながら答えた。

  すると桜は嬉しそうな表情を浮かべながら、

「そうだね!! 桜、すごく良い事思いついたでしょ?! それに、桜もキュアリスのお手伝いしたいし!! 」

と、明るい口調で言った。

  俺はそんな彼女に対して小さくため息をつくと、

「おう、桜。お前は天才だよ......。」

と、微笑みながら返事をするのであった。


ーーそんな時、部屋のドアからノック音が聞こえる。


  俺は、そのノック音の相手がキュアリスであると察して、静かにドアへと近づいた。

  それに対してゆっくりとドアを開けると、その先には少しだけ頬を赤らめたキュアリスがいた。


ーー初めて出会った時と同じ、白のワンピースに青いベストを纏った姿で......。


  俺はそんな彼女を見ると、一瞬照れて目を逸らしてしまった。

  するとそんな俺を突き飛ばす様にして、桜が間に入りキュアリスへと、興奮気味にこう言った。

「さっき雄二と話していたんだけど、桜、キュアリスの作る手料理が食べたいの!! 」

  それを聞いたキュアリスは、突然目を輝かせ始める。


ーーやはりこの子は、人に料理を振る舞うのが大好きな様だ。


  そして彼女は、嬉しそうな笑みを浮かべながら、

「そ、そんなに言われたなら、作ってあげるよ!! なら、今から街に材料を買いに行かなきゃだね!! 」

と、分かりやすい程の気合の入り具合で答えた。


ーーやっぱりキュアリスは、キュアリスのままじゃないか......。


  俺はそう考えると、思わず爆笑をしてしまった。

  そんな俺に対してキュアリスは、少し怒った表情をして、

「何がそんなに可笑しいの?! 」

と、口を膨らませている。

「いや、やっぱりキュアリスは何も変わっていないなって思ってね......。」

  俺がそう言うと、彼女は顔を赤くして怒っていた。


ーーだが、その後で穏やかに微笑んでいる彼女を見た時、俺は胸の奥が暖まって行くのが分かった。


「じゃあ、昔みたいに三人で買い出しに行くとしようか。」

  俺がそう合図をかけると、二人は嬉しそうな表情を浮かべた後で大きく頷く。


ーーそんな二人の表情を見た時、俺は旅をしていた時の幸せだった時間を思い出した。


  そして、微笑んだ後で窓の外を眺めると、遠くに見える朝日の眩しさに気がつくのだった。


ーー戦争の間にある小さな休息のひと時を満喫しつつ......。

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