天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第88話 懐かしき瞬間。


ーーーーーー

  俺達は今、ヘベレスシティに到着した後で、支部の人々から初陣勝利への賞賛の言葉を受けた後だった。

  日が沈んで一時間程が経過した頃に戻って来た事もあり、一度各々がリフレッシュを取る為、皆に自由時間を与える事にした。

  グリンデルはかつての部下達に囲まれていた。


ーーその様子を見ると、如何に彼が周りから信頼されているかを物語っている。


  リュイに関してはまだ目を覚まさないミルヴィールの元へ。


ーー彼女は心配そうに眠っている医務室へと足を運んで行った。


  ミルトは、ポルと談笑をしている。


ーー先程はミルトが帰って来た事により、号泣してしまい、とんでもない状態になってしまっていたのだが......。


  この前のだけでは喋り足りない様で、二人であれやこれやと会話をしている。

  その様にして、各々が各々の時間を過ごす。

  俺は、キュアリスと桜と共に、一度部屋に戻った。

  そこで、マジックアイテムを取り出す。


ーーそれは、今回の戦争の勝利や、敵国から新たな事態が起き得る事を、森山葉月に報告する為である。


  そんな事もあり、俺がポケットからペンダントを取り出した時、キュアリスは何処か切ない表情を浮かべた。


ーー多分、彼女は森山葉月を経由して彼女の持っているペンダントが『ヘリスタディ帝国』に通じている事を聞いてしまったからであろう......。


  証拠に、胸元に必ずぶら下げていた筈のそれは、外されていた。

  首都までの旅の際は、常に肌身離さず大切に持っていたのだから......。

  そんなにも大事にしていたペンダントを廃棄せざるを得なくなってしまったキュアリスの心情を察すると、心苦しくなるのであった。

  そして俺は、そんな彼女から目を逸らす様にして、森山葉月に向け報告を始める。

「とりあえず初陣に関しては勝利する事が出来たよ。グリンデル、矢立駿についても支部にて保護をした。これから色々と大変にはなりそうだがな......。」

  俺がそう伝えると、森山葉月は明るい声で、

「それは本当に良かったです。やはりあなた方、『特殊異能部隊』を推薦して良かったと、改めて感じております。」

と、満足している様子だった。

「それで、これから『メルパルク山脈』内部の調査結果についての報告もある。そこら辺も含めて今後は戦略を練るべきかもしれない。」

  そう続けると、森山葉月はこう答える。

「そうですね。後、我が軍の方からも、数名のスパイを『ヘリスタディ帝国』の方に派遣しております。その中で、今後の敵国の動向についても若干把握出来る部分がありました。なので、その他の事についても詳しくお話ししたいので、明日の一日休息を取ったら、一度『首都リバイル』の方まで戻って来て頂けますか? 」

  それを聞いた俺は、素直に了承する事にした。


ーーその時に、転移に関する話はゆっくりしたいと考えて......。

  
  だが、それよりも気になる事が......。

「最後になるのだが、グリンデルや矢立駿についてのこれからは......。」

  俺がそう問いかけると、森山葉月はフフッと小さな笑い声を出した後で、

「それについても、首都に到着したらゆっくりとお話しします......。」

と、静かな口調で答えた。


ーーそんな彼女の言葉から、俺は二人の去就について、心配をするのであった。


  もし、何かの罪にかけられたら......。

  ミルヴィールのスパイの件については伏せておいてあるが......。

  その言葉を最後に、彼女との連絡は終わる。

  俺はそれに一つため息をつくのであった。

  その後で、周囲を見渡すと、キュアリスや桜が俺の事を心配そうな表情で凝視している。

  俺はそんな視線に耐えられずに、二人にこう言った。

「今日の会議が終わったら、明日は自由時間だ。そこでなのだが、久々に三人で食事でも行かないか......? 」


ーーその時に丁度、キュアリスには俺達と別れた後の行動を聞きたかったところではあったから。


  それに彼女は、今もなお『聖騎士』だ。

  俺はキュアリスをまた平和な生活に戻す為の説得もしたかった所なので......。

  すると、俺の提案を聞いた桜は、ベッドの上で跳ねながら、

「やった!!!! 久しぶりの外食だー!!!! この前の約束通り、ハンバーグとカレーライスだからね!!!! 」

と、俺にクギを刺した後で喜んでいた。

  それに対して俺は、微笑みながら、

「分かっているよ。約束だからな......。」

と、桜の頭を撫でながらそう答えた。

  彼女はそんな俺の返答に満足そうな顔をしている。


ーーだが、そんな俺と桜の様子を見ていたキュアリスは、小さく震えていた。


  俺はそれに気がつくと、彼女を見つめる。

  するとキュアリスは、少し涙が出ている目を抑えながら微笑み、

「なんか懐かしいね、この感じ......。」

と、小さな声で呟いた。


ーーそれを聞いた俺も、何故か少しだけ泣きそうになってしまった。


  きっと、辛くて、苦しくて、平凡な生活を捨ててまで覚悟を決めた『聖騎士』だったのだろう......。
 
  だからこそ、胸が苦しくなる。助けたくなる。

  そんな感情が、胸の奥から体全体を支配して行く。

  先程の説得への算段すらも忘れる程に......。

  何でこの子だったのだろうか。

  そんな気持ちにすらさせられてしまう。


ーーそう考えていると、俺は衝動を抑えられなくなってしまった。


  それと同時にキュアリスを抱きしめる。


ーーもう、悲しませたくない。


ーー幸せに生きて欲しい。


  そんな気持ちの俺は、体温や胸の鼓動が上がっているのが分かる彼女の耳元で、こう囁いた。

「もう、お前に辛い思いをして欲しくない。『聖騎士』をやめてくれないか......? 」

  それを聞いた彼女は、明らかに困惑していた。


ーーそして、数十秒の沈黙の後に、彼女は一度俺の体から離れた後で、こう答えた。


「明日の外食、楽しみにしているね......。」

  そう答えた彼女は、少し頬を赤らめて微笑を浮かべていた。
 
  俺はそんなキュアリスの表情を見ると、目を逸らした後で頷きながら、

「いきなりすまない......。じゃあ、明日は宜しくな。」

と、答えるのであった。


ーー彼女の言葉から、俺はどの様な解釈をすれば良いのだろうか。


ーー俺はそんな答えを導き出せず、だが、何となく......。


  その出来事が終わると、間を満たす為に時計を確認した時、間近だったので会議の為に部屋を後にするのであった......。

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