天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第87話 彼の国の王。


ーーーーーー

「それにしても、不思議な気持ちだったよ。何故なら、自分の行動の筈なのに、まるで自分では無いかの様な錯覚に苛まれたのだからな。」

  グリンデルは『結界』の中にて、すっかりと正気に戻った後で、不思議そうな表情を浮かべて呟いた。


  俺はそれに対して、

「要は、自分の意志で行動している様に思わせる何らかの『魔法』に掛かっていた可能性が高いな......。他には、何かおかしいと感じた点はあったりしたか? 」

と、推測をしつつ、そんな質問を投げかけた。

  すると彼は、首を傾げながらも気になる事を口にした。

「そうだの......。だが、一日のうちで数回程、自分の取ったはずの行動が思い出せなくなる事があったな。そこだけ、すっぱりと記憶から抜けている様な......。今だってそうだ。何故なら、気がついたらここでこうして寝ているのだからな。」


ーー俺は彼の発言から、グリンデルは外部の作用によって、巧妙に操られていた事を認識した。


  その記憶の無い時間に、彼は『ヘリスタディ帝国』への報告などをさせられていたのであろう......。

  という事は、やはり俺と戦った記憶はないという事になる......。


  俺はそう考えると、その事について触れるのはやめておこうと決めた。


ーー彼の気持ちを考えて......。


  だが、そんな時彼はこう続けた。

「しかし、我が『メルパルク山脈』に潜入した時、椅子に腰掛けた青年が妙な事を口にしていたのだ。」


ーー大河原悠馬......。グリンデルの一言で俺は彼が何らかの情報を話した事を理解した。


「それで、やつは何を言ったんだ......? 」

  すると彼は、何も分かっていない様な口ぶりでこう答えた。

「『あの人に気に入られれば、元の世界に帰る事が出来るんだ』などと言っていたぞ......。それから今までの記憶は全くない。」


ーー『元の世界に帰る事が出来る』


ーーという事は、大河原悠馬はこの世界に転移して来た理由も、帰り方も、俺達を転移させた張本人の事も全て分かっているのかもしれない......。


  それから俺は、座ったまま惚けた表情を浮かべているグリンデルの両肩を掴んで、

「それ以外には、何か気になる事は言っていなかったか?! 」

と、食い入って問い詰めた。

  そんな俺の表情にグリンデルは押されながらも、

「それ以上の事は分からん!! すぐに意識が無くなってしまったのだから......。」

と、答えるのであった。


ーーやはり、『ヘリスタディ帝国』には転移と密接に関係する何がある。


  悠馬の言っていた『負の感情』もきっとそれに必要な事であるのだろう。

  そして何よりも、『あの人』とは一体......。

  そんな思案に頭を回していると、先程調査に向かっていた部隊の数名が帰って来た。

「隊長殿、今調査を終えてきました。そこでなのですが、伝えねばならぬ事が多くあります。なので、詳しい話は『ヘベレスシティ』帰還次第お話をしたいと......。」

  彼らは神妙な表情でそう言った。

  俺はそれを聞くと、『メルパルク山脈』に何かカラクリがあると知った。
 
  そこで、まだ目を覚まさないミルヴィールと矢立駿を背負う様に促すと、キュアリスや桜を始めとした皆に向け、こう伝えた。

「それでは、一度『ヘベレスシティ』の方へと帰還したいと思う!! みんな、良くやってくれた!! 」

  そう宣言すると、俺達は戦場の手前で待たせていた馬に乗り、街へと向かうのだった。


ーー戻り次第、森山葉月には戦争の勝利や転移の事、それにグリンデルについてなどをじっくりと話さねばならないと考えながら......。


ーーーーーー

  ある城の最上階にある部屋へと、彼は戻って来た。

「申し訳ありません。今回の作戦は全て失敗に終わってしまいました......。」

椅子に腰掛けている彼は俯きながら、如何にも風格のある王に向かってそう謝罪を口にした。

  すると王は高らかに笑うの。

「そうだったか!! まあ、そうなる事はある程度予想出来たわい!! まあまだ、戦争は始まったばかりだ!! そんなに神妙な顔をする必要はない!! 」

  椅子に腰掛けて悠然とする王のお許しを貰った彼は、深々と頭を下げる。

  彼はその後でこう呟いた。

「ですが、殿下の求めていた『佐山雄二』については多くの情報を得る事が出来ました。そこでなのですが、わたくし、いい事を思いついたのですが......。」

「......。」
 
  それを聞いた王は、再び高らかに笑う。

「確かにそれならば、上手くいくかもしれんな。 『佐山雄二』だけはこちらに欲しいのでな......。そうすれば『あの人』はきっと......。」

  そう呟いた王は、不敵な笑みを浮かべる。

「では、早速ではあるが、その手筈で事を進めよう。再度指揮に関してはお前に任せる。」

  それを聞いた彼は、

「了解しました。それでは、すぐに準備へ取り掛かりたいと思います......。」

と、答えた後で深々と頭を下げ、静かにその場から立ち去ろうとした。

  すると王は去り際の彼に対して、殺気立った表情でこう言った。

「分かっているだろうが、次は無いからな。」

  彼はその言葉を聞くと、一瞬恐怖とも取れる表情を浮かべた後で、足早に去って行った。

  すっかりと部屋から出て行ったのを確認すると、王は指をパチンと鳴らした。

  すると、彼の背後から突如として一人の女が現れた。

  そして、そんな彼女に向け、王はこう言った。

「大河原悠馬の尾行を頼む。折を見て殺してくれ......。」

  それを聞いた女は、毅然とした表情を浮かべたまま、一つ頭を下げたのだった。

「佐山雄二だけは、必ず......。」

  王はそう呟きながら、微笑を浮かべるのであった。
 

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