天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第86話 激しい戦争の跡。


ーーーーーー

  先程まで広がっていた草原には数十個の大きな風穴が空いている。

  そこの辺りからは黒煙が広がっていて、更には、敵軍の遺体が所狭しとあり、まさに戦争の悲惨さを物語っているのであった。

  とりあえず戦闘は終わったという事もあり、安全と踏んだので、数名の部隊の者を派遣し、『メルパルク山脈』の内部の調査をお願いする事にした。

  そんな中、俺は『結界』の場所へと戻り、まだ意識を戻っていないグリンデル、矢立駿、そして、ミルヴィールの元に辿り着いた所であった。

  傷は桜によって治療され、後は目を覚ますのを待つだけとなった状態にまで回復しており、俺はそれに安堵するのであった。

「それにしても、隊長殿が聖騎士様と仲睦まじい関係であるとは、想像もつきませんでしたよ。」

  ふと、リュイは曇りのない純粋な表情でそう言った。

  俺はそんな彼女の一言に顔を赤らめた後で、

「い、言い回しには気をつけろ。まあ、共に旅をした仲であるのは間違い無いけどな......。」

と、目を逸らしながら答えたのであった。

  そんな中、キュアリスの方に目をやると、彼女も彼女でこちらを見ながら赤面の表情を浮かべているのであった。

  俺とキュアリスの表情を見た桜は、一瞬ニヤッとした後で、俺とキュアリスの腕を掴んで、

「そうなんだよ!! 二人は桜の大事な仲間なんだ!! 」

と、得意げな表情を浮かべながら嬉々としていた。

  そんな俺達を見たリュイは、微笑んだ。

  俺も、照れ臭さを抱きつつ、少しだけ嬉しくなって桜に向かい頷いて見せた。

  すると、その後でリュイはこんな事を言い出す。

「あの時、キュアリス様が私達を呼びに来てくれなければ、隊長殿を失ってしまう所だったのですよ。」


ーーそうなのだ。


ーーあの時俺は、完全に闇堕ちしかけていたのだった。


「我々も隊長殿の辺りから暗がりが出来た時、正直な所焦りました。『もしかして......』そんな事を考えてしまって......。ですが、キュアリス様が私達の元へ来て、提案した『隊長殿への思いを伝える』事で解消が出来ると......。あれが無ければ、本当に危なかったんですよ。」

  リュイの説明を聞いた俺は、一度キュアリスの方に顔を向けた。

「そうだったんだな......。確かにあの言葉がなければ、俺は多分おかしくなっていたかもしれない......。本当にありがとう。」

  俺がそう感謝を述べると、彼女は笑顔で、

「大丈夫だよ!! 気にしないで!! 」

と、答えるのであった。


ーーだが、それにしても、一つ疑問に思う事がある......。


  俺は負の感情を持った途端に、体から闇のオーラを放つに至った。

  キュアリスは何故、その解決策を知っていたのであろうか......。

  そこで俺は、そんな質問を投げかけた。

「でも、何であの時、俺の闇を解除する方法を知っていたんだ......? 」

  俺がそう問いかけると、キュアリスは少しだけ苦しそうな表情を浮かべた後で、こう答えた。

「実は私も昔、同じ様に闇のオーラを放ってしまった事があったの......。」

  それを聞いた俺は、真剣な表情に切り替わる。

  そんな俺を見つつ、彼女は続ける。

「後から知った事なんだけど、闇の『異能』を扱えるのは、本来、『異世界人』のみらしくて......。私は前に、『異世界人』から背中へ思い切り闇の攻撃を受けたの。その瞬間に妙な不快感が体の中に入って来るのがよくわかったわ。その時は気を失ってしまったのだけど......。それからと言うもの、戦っていて少しでも負の感情を抱くと、自然に闇の『異能』が生じてしまう様になってしまった。それを打開する方法は、我に帰る事。だから、あの時はああ言う行動に出たの......。」


ーー俺はそれを聞くと、驚愕した。


  更にキュアリスは説明を続けたのだが、要は、闇の『異能』は伝染をする。

  『異世界人』とこちらの世界の人間とでは、体の構造が違うらしい。

  元々、闇の『異能』自体が負の感情から出来ている物なので、それを打開すれば、すぐに元へと戻ると言う事だった。


ーーだが、こちらの世界の人間が伝染すると、負の感情がある一定ラインを超えた時、我を保つのも難しくなる程、精神的に追い詰められてしまうのだとか。


「なら、お前は......。」

  俺はキュアリスに真剣な表情でそう呟いた。

  すると、キュアリスは空元気で、

「で、でも、私はその境界をよく知っているから、気にしないでも大丈夫だよ!! 」

と、答えた。


ーー俺はそんな話を聞くと、更に彼女が心配で仕方が無くなる。


  そして、口を開こうとしたのだ。

「だったら......。」


ーーだが、そんな時、傍で眠っていたグリンデルが目を覚ました。


「あれ......。ここは何処だ......? 」

  俺は、そんなグリンデルの様子を見ると、キュアリスとの話を一度やめて、彼の目が覚めた事を喜ぶ。

「やっと起きた様だな......。」

  俺は、そう言った後で、少しだけ切ない気持ちになる。


ーー何故なら彼は、俺の事を覚えていないのだから。


  あの時だって多分、もう既に操られていたのだと思う。

  だからこそ、街で良くしてくれた事も、旅の途中で連絡を取り合っていた事も、全て忘れている筈だ......。


ーーそう考えると切なくなる、哀しくなる。


  そんな風に泣きそうな顔になっている俺を見ると、グリンデルは、静かに口を開いた。

「あれ、佐山雄二殿ではないか。それに、キュアリス殿も。質問なのだが、我は何故ここにおるのだ? 」


ーー俺は、その話を聞くと、目に涙を浮かべた。


「俺の事を、覚えているのか......? 」

  俺が彼に震え声でそう問いかけると、彼はあっけらかんとした顔で、

「当たり前ではないか!! 恩人の名前を忘れる訳がないであろう!! 」

と、語尾を強めて答えた。


ーーグリンデルは、俺の事を覚えていてくれたのだ。


  理由は分からない。
  だが、とりあえず今はそんな事はどうでも良くなった。


  そして、俺は彼に向かって思い切り抱きついた。


ーー涙を流しながら......。


  するとグリンデルは何の事かさっぱり分かっていない様で、

「雄二殿、いきなりどうしたんだ?! 状況が把握出来んぞ!! 」

と、苦笑いをしている。

  桜は何故かそれに乗じて俺に抱きついて来ていた。

  そして、耳元で囁いた。

「雄二は、やっぱりみんなのヒーローなんだよ。」
 
  俺はそれを聞くと、桜の事も一緒に抱きしめた。


ーーもう少しだけ、この空気に浸ろう。


ーーこれから何が起きるのか、分からないのだから......。


俺はそう思うと、遠くですすり泣いているキュアリスを遠目に、一瞬の安堵に浸るのであった。

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コメント

  • rui

    闇落ちしたらタグの主人公最強回収できるんじゃね?
    最強のさの字も今のところ感じないしな

    2
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