天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第85話 みんなのおかげで。


ーーーーーー

  闇を放ち、俯く俺を見た悠馬は、静かに俺の目の前に降り立った。

「この世界に来た者は皆、何らかの欲求を持ってして転移するんだ。だが、それは皆、等しく悪であるんだよ。人間なんて、誰もが卑屈で卑怯なもんだ。あの時のお前だって、俺という見下せる存在を前に、優位性を保っていたじゃないか。俺の足が動かなくなった時も、本当は嬉しくて仕方がなかったんだろ? 」

  彼は俺にそう何故か必死で問い詰めた。


ーー俺はその質問に対して、大袈裟に首を横に振った。


「そんな事はなかった......。俺にとっての親友はお前だけだったから......。」

  俺が周囲の状況にすら気づかないで弱々しくそう答えると、悠馬は俺に近づいた後で、

「じゃあ、何でここまでの闇を体から放っているんだ......? 俺と言う見下せる存在が消えた事で、欲求不満で仕方がなかったんじゃないのか? 闇属性の『異能』と言うのは、少し特殊なんだよ。何故なら本人の負の感情が極限に達した時にしか出ないのだから......。正直、ここまでのオーラは見た事がないがね。流石は何をやらせても天才の佐山雄二君だよ。」

彼は卑しい笑顔でそう呟いた。

  俺は、それに対して心の中で何度も問いかける。


ーー実際は、彼の言っている通りなのではないか......?


  俺は結局、人を踏み台にして、自分の才能を鼻にかける最低な人間なのでは......。

  それは、悠馬にだって.......。

  俺がそんな風に考えていると、悠馬はこんな提案をした。

「やっと自分の気持ちに正直になって来た様だね......。ならば、『ヘリスタディ帝国』に来るといいよ。あそこは、お前のそんな卑しくて自分本位な欲求を全て叶えてくれる。何百人もの『異世界人』が元の世界での不満を殺戮の名を持ってして解消してくれる。こちらの世界の人間なんかゴミみたいに扱えるしな。」

  彼のそんな提案を聞いた俺は、まだ広がり続ける闇の中で、静かに立ち上がった。


ーーどうせ俺なんかでは何も出来ないんだ。


  だったら、彼の言う通りに全てをぶっ壊してしまえばいいんじゃないか......?

  そんな気持ちを持ちながら......。


ーーーーーー

  キュアリスは愕然としていた。


ーー少し先に見える彼から真っ黒のオーラが発せられているのを見て......。


  この戦いは、彼に任せる事を決めた。

  雄二の確固たる決意を聞いてしまったから......。

  だが、今の彼はあの男によって、何かをされてしまったらしい。

   そうでなければ、あそこまでの卑しいオーラを出せるはずがないから......。

  過去に自分が経験したあのオーラ......。

  キュアリスは思う。


ーー雄二は今、正義と悪の境界の中で葛藤をしていると......。


  ならば、目を覚まさせねば......。

  
  そう思うと、桜達のいる『結界』の元へと走り出すのであった。


ーーーーーー

  俺は、足元を気にしながらも、余裕な面持ちで座っている大河原悠馬の方へと歩き出した。


ーーこのまま彼らと行動を共にしようと考えて......。


  そんな風に俺が一歩一歩を確かめる様に踏み出すと、彼はこんな風に歓迎をする。

「分かってくれて嬉しいよ! これからはこんな世界、ぶっ壊してしまおうぜ!! 」

  俺はその言葉に対して頷きながら、無言でゆっくりと前に進んで行く。


ーーそれは、自分の醜態一つ一つを懺悔するかの如く......。


  もう少しで俺は......。

  そんな風に考えると涙が溢れ出して来た。


ーーだが、足を止める事はない。


  何故なら俺はもう、精神的に限界であったから......。

  もうすぐ彼の元へと到着する。

  今までの日々を思い出しながら。


ーー善意なんて、全てが虚言だ。


ーーもう、何もかもおしまいだ。


  俺はそう自分の過去を一つ一つ思い出しているうちに、次第に微笑んで行った。


ーーだって、俺はどんな人生を歩んできた......?


  そう自問自答を繰り返しながら......。

  そんな俺を見ると、悠馬は優しく微笑みながら、俺に手を差し伸べた。

  これで良いんだ......。


  俺はそう考えると、彼に対してスーッと手を伸ばす。


ーーそして、二つの手が重なろうとしたその時だった。


「雄二!!!! 私はあなたに助けられたんだよ!!!! 」


ーー俺は闇の先からキュアリスの叫び声を耳にした。


「桜だってそうだよ!!!! 雄二がいないなら、生きてる意味が無いってくらい、大切な存在なんだから!!!! 」

「私だってそうです、隊長殿!!!! あなたの存在が部隊にどれだけ大きな支えになっていた事か......。ミルヴィールも無事でした!!!! 全部あなたのおかげなんですよ!!!! 」

  他のみんなも、大きな声で俺を励ます。

  俺は、みんなの声を聞くと、冷めきった視線でこんな事を考えてみた。


ーーこんな俺が、何を助けた......?


  そんなのは戯言でしかないんだ。

  だって、俺の本来の性格なんて......。


  俺は死んだ様な目つきをしながら、そう否定をした。


ーーだが、そんな俺の気持ちを打ち消すかの様に、キュアリスは叫んだ。


「佐山雄二は、私にとって掛け替えのない『家族』なの!!!! 失いたくない!!!! だからまた、優しくて、涙脆くて、人の事しか考えない雄二に戻って!!!! 」


ーー俺はその言葉を聞いた時、目が覚めた様な気持ちにさせられた。


ーー『家族』という言葉に......。



ーーその気持ちの理由は、分からなかった。だが、同時に闇は消え去り、空から燦々と太陽の日差しが、山の麓の草原を照らしたのだった。


  俺は、キュアリスの言葉の意味がまだ分からない。


ーーでも、彼女は間違いなく、今、俺の事を『家族』と言った。


  その一言で、俺ははっきりと目を覚ました。

「キュアリス。お前が俺を『家族』って思ってくれていたんだな......。」

  俺は少し涙ぐみながら、あっさりと消えた闇を気にすることもなく空を見上げて、悠馬に向けてこう宣言をした。

「悪いが、俺はいつの間にか人を助けられていたらしい......。だから、あいつらの為にも、『ヘリスタディ帝国』に行く事は出来ない。」

  それを聞いた悠馬は、苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべ、ため息をついた後で、

「何だよ、後少しだったのにな......。この戦闘における最重要項目だった、『佐山雄二』の獲得には失敗しちゃったね。残兵も殆ど死んじゃったし......。一旦帰るわ。」

と、話した後で、再び空に浮遊した。

「今回はそちらの勝ちかもしれないけど、多分近い内にみんな死ぬ事になると思うから、首を洗って待ってな......。」

  彼はそう続けると、物凄い勢いで、風の『異能』を用いて足早にメルパルク山脈を越えて敵国へと帰って行ったのであった。


ーーそして、彼の影が消えた時、俺は思った。


  とりあえず終わったのだと......。

  みんなのおかげで......。

  俺は、そう考えると後ろを振り返って、キュアリスや桜、部隊のみんながいる方に近づき、お礼を言おうとした。


ーーだが、俺が口を開こうとしたその時、キュアリスは俺の口元に人差し指を置いた。


  そして彼女は、最高の笑顔をして、
  
「雄二、本当にありがとね。」

と、呟いたのだ。


ーー俺はそんな彼女の表裏のない言葉を聞いた途端、涙が止まらなくなった。


  一瞬でも恐ろしい事を考えてしまった俺に対して、余りにも優しく接してくれるその姿勢に対して......。


  桜は、膝をついてしまった俺の手を握って、微笑んでいる。

  部隊の面々はそれを見ながら泣いている者もいた。
  
  そして、リュイは最後にこう言った。

「とりあえず、初陣は勝利という事で宜しいですか? 」

  俺は、彼女のそんな問いかけに対して、涙を拭った後で、

「うん、そうだな!! 」

と、答えるのであった。


ーー小さく微笑んでいるキュアリスを横目に......。


  それと同時に湧き上がる歓声。

  多少の懸念材料が生じてしまったものの、とりあえず俺達の初陣は、みんなの力で勝利を収める事が出来たのだ。

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コメント

  • ノベルバユーザー252836

    雄二は精神面弱すぎだなʬʬʬʬʬʬʬʬʬʬそのまま帝国の思い通りになったらそれはそれで面白そうだと思った。

    0
  • ペンギン

    良かったです!雄二が相手側に行かなくて...
    キュアリスありがとう!

    0
  • 気まぐれ人

    ちょっと涙腺崩壊しかけた

    7
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