天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第82話 これは俺の戦いなんだ。


ーーーーーー


ーー彼女は弱り切ってくたびれた一人の男を抱き抱えながら涙を流す。


  力の抜け切ったその体を見つめながら......。

  味方も敵も死に絶え、只、静寂だけが周囲を包み込む環境の中で、彼女は彼に向け、叫び続ける。

「死んじゃ嫌だよ!! 」


ーー滑稽で惨めで情けない程に......。


  だが、それは無駄な事だった。

  彼は微笑みながら彼女の頬を弱々しい力で撫でる。

「俺はどうやら、死ぬらしい......。この世界での日々は、充実していたよ......。唯一の心残りは、前の世界に残して来てしまったあいつだ......。」

  彼はそう呟くと、その後ですぐに、彼の腕はゆっくりと彼女から離れて行く。


ーーそして、優しい表情を浮かべたまま、ゆっくりと目を瞑るのだった。


  彼女が『聖騎士』を辞めた後すぐに、村の近くの森で出会った彼。

  幾ら引き止めても、頑なに旅立ってしまった彼。

  そんな優しさは、皮肉にも無残にも打ち砕かれる。引き裂かれる。


ーーいとも簡単に......。


  戦争の知らせを聞いた後は、急いでやって来た。


ーーだが、結果的には手遅れだったのだ。


  そこで彼女は、人を守る事など、到底できぬと痛感する。


ーーこんな小さな手では......。


  その時、そんな悲しみを踏みにじるかの様に現れた大柄な男。


  彼女は目の前で死んで行った大切な存在を前にして、気を抜いてしまったのである。


ーーまだ一人残っている事に気がつく事が出来ず......。


  その男は、微笑を浮かべながら見た事の無い漆黒の『異能』で彼女の背中を斬りつけた。

  慌てて回避をしようとしたものの、彼女の背中からは大量の血が噴き出すのであった。

  何とか草の『異能』で薬草を出して傷口を塞いだものの、その傷は彼女に致命傷を与えた。


ーー直後に彼女は叫びを上げる。


  それは多分、背中の痛みからではない。

  怨念にも似た怒りからのものだと思う。

  それからの記憶はない。


  だが、気が付いた時には、その男は彼女の目の前で血まみれになり息絶えていた。


ーー彼女は自分でこの男を倒したと、確信した。


  自分の手に怪しげに光る黒い『異能』を見た時に......。

  それから彼女は高らかに笑い声を上げる。


ーー数万の死体が混在とするその場所で......。


  幾ら正義の為とは言え、数多の人々を殺傷した事には変わらない。


ーーその結果が、こうして現れた真っ黒に染まった『異能』なのだから......。


  一通り笑った後で、彼女は泣きながら呟く。

「どうしてこうなってしまったの......? 」


ーーその後、先程受けた傷により意識が遠のいて行き、その場に倒れ込むのであった......。ーー


ーーーーーー

  彼女は目を覚ますと、冷や汗をかいて驚愕の表情を浮かべていた。

  何故ならば、過去の出来事が夢の中で再生されていたからだ。

  数年前に起きた悲劇。

  それは、国家において英雄の美談として語り継がれている。


ーー『二代目聖騎士』の命を張った攻防戦として......。


  そして、それを賞賛する民衆や貴族。

  現実を知っている彼女にとって、それは、只の皮肉でしかなかった。

  どんなに栄光を掴もうと、歴史に名を残そうと、死んでしまっては全く意味が無いのだから......。

  彼の人柄を誰が知っているだろうか?

  絶対に弱音を吐かないが哀しみを抱いている彼を誰が知っているだろうか?

  本当は戦いを嫌っている彼の事を誰が知っているだろうか?

  その全ては彼自身の強さによって打ち消される。


ーーそうやって英雄は誕生して行くのだから......。


  外から見える太陽が丁度てっぺんに差し掛かった辺りの部屋にて、彼女は唇を噛みしめる。


ーーあの時の様な惨事は起こす訳には行かない。


  ましてや、今起きているであろう『家族』とも言える存在がもし死んでしまったら......。
 
  それを考えると彼女は震え上がる。泣きそうになる。


ーーやっと動ける様になったものの、まだ余り言う事を聞かない体を起こしながら......。


  そして、背中にくっきりと付いた傷跡を触った後で、宿を後にするのであった......。


ーーーーーー


  俺は突風と共に目の前を通り過ぎて行ったキュアリスを見た時、激しい憤りを覚えた。

  今までやって来た事は、彼女を助ける為の事だ。

  その為だったら、死んだって構わないと思っていた。


ーーそれだけ守りたい存在。


  にも関わらず、その場所に彼女が現れた。

  だが、今となってはこの戦争の意味合いはそれだけでは語れない事になっている。

  ミルヴィールだって、グリンデルだって、矢立駿だって......。

  俺が助けると決意した。


ーーそして、その指揮官であるかつての親友、大河原悠馬......。


  その全ては、誰にも邪魔される訳にはいかない。

  何よりも大切なキュアリス自身の事だって......。

  他の誰でも無い、俺自身が決着をつけなければならない事なのだ......。

  だからこそ、彼女に対して苛立ちを覚える。憤りを感じる。

  それだけ大切だから。

  キュアリス、お前の優しさは分かる。


ーーそれに多分、俺は......。


  そう思うと、俺は風の『異能』で空に舞い上がると、彼女の事を追いかけた。

  そして、彼女に向けて喉が千切れる程に大きな声で、

「俺の邪魔をするな!!!! 」

と、鬼の様な形相で叫んだ。


ーー俺の叫び声は、前を飛ぶキュアリスに届いたのであろうか、彼女は一度その場に止まった。


  その後で、俺の方へと振り返った。

  彼女の表情は、哀愁に満ち溢れており、目に沢山の涙を浮かべていた。

  俺は彼女のそんな表情に胸が一瞬痛くなったものの、近づいて行き、目を合わせる事なくこう告げた。

「久しぶりだな......。ずっと心配してたよ。だが、この戦いは俺の戦いなんだ。悪いが、絶対に邪魔なんかさせないからな......。」

  俺がそう言うと、キュアリスは呆然と立ち尽くし、涙を流していた。

「でも......。」

  そんな俺の覚悟とも取れる口調に対してキュアリスは涙声でそう呟く。

  俺はそんな彼女の肩を叩くと、山へと向かう。


ーーすると、山の中腹辺りから再び椅子に座ったまま空高くに浮き上がった大河原悠馬が現れた。


「やけに茶番劇が好きなみたいだね!! 佐山雄二くん!!」


ーー俺はその言葉を聞くと、彼が俺の存在を思い出した事を実感した。


「やっと会えたな、悠馬。まあ、ゆっくりと昔話でもしようや!! 」

  俺は微笑みながらそう言うと、彼へと接近して行った。

  少し離れた位置で地面に降り立ち、跪いて号泣するキュアリスを横目に......。

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