天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第78話 お互いの想い。


ーーーーーー

「あの時の私は、只、必死だった......。」

  ミルヴィールは止まらない涙を必死に拭いながらそう呟いた。

  それを聞いたリュイは倒れ込んだままの状態で真剣な表情を浮かべている。

「私は連れ去られた場所は、彼の国『メリバルン』ではなく、『ヘリスタディ帝国』だったの......。」

  彼女の説明によると、そこの国から父と母を助けたという話を聞いたらしい。

  そこで、家族で住む事を望んでいると......。

  だが、只、闇雲に入国する事は出来ないと告げられたらしい。

  その救済措置として、国家の秘密機関で働くと言う名目を提示されたという事だ。

  そこで、まだ幼いミルヴィールが国民として扱われて胸を張ってその地で父と母と共に生活する唯一の方法が、『スパイ』になる事だったのだ。


ーーそうでなければ、父と母は背信の罪に問われて処刑されてしまうと......。


  彼女はそれを聞くと、何があっても両親を救う覚悟をしたと言う。


ーー例え親友を裏切ったとしても......。


  そして、ランドリー・シェムと言う男から一つの懐中時計を渡された。

  それこそが、マジックアイテムだった。

  その後、街の前にバレぬ様に送り出され、見事に孤児院への入所に成功したと。


ーーそこで、変わり果てた親友リュイの姿を見た。


  彼女の風貌から、あの日、あの時起きた悲劇が原因である事を、容易に想像出来たのであった。
  

  だが、そんな親友を裏切る決意はとうに固めたのだ。


ーーどんなにミルヴィールが傷ついても、親友の苦しみが理解出来ても、彼女は歯を食いしばって見て見ぬフリをしたのである。


ーー何にも変えられぬ、世界で最も大切な両親の為にも......。


  それからと言うもの、彼女は只管に情報を流し続けた。

  どんなに小さな事でも報告を続けた。


ーーだが、それを続ければ続ける程に、彼女の心は荒んでいく。


  何よりもリュイに対する背徳心によって......。

  風貌も態度も口調も変われど、根本の変わらぬリュイは、どんな時でも優しかった。

  昔と変わらずにいつも一緒にいた。


ーースパイに堕ちたミルヴィールを一つも疑う事なく......。


  その優しさが更に彼女を傷つけて行った......。

「あれから私は、何回も本当の事を伝えようと思った。父と母が霞む程に......。」

  ミルヴィールは崩れた表情でそう言う。


ーーだが、彼女の決意は固かった。


  それから努力して、リュイについて行く。


ーーこの国の兵士になる為に。


  しかしそれは、物凄く醜い理由だ。

  それが『ヘリスタディ帝国』からの指令だったのだから......。

「だからあの時、私はリュイに入隊を提案したの......。」

  ミルヴィールは彼女に対して、「みんなを救える」と言う口添えをした。

  そしてリュイはその提案を受け入れた。

「それは素晴らしい考えだ!! いまよりももっと強くなって、人々を守ろうではないか!! 」

  彼女は笑顔でそう答える。


ーーひとつの曇りもない純粋な気持ちで......。


  ミルヴィールはその時、真っ直ぐな彼女に嫉妬心を感じた。


ーー惨めで卑怯な自分との比較の中で。


「それは多分、ずっと考えていた事だと思うの......。そんな情けない自分が嫌いで嫌いで仕方がなかった。」

  そう決めてからは、リュイと共に鍛錬に励んだ。

  彼女の背中から離れぬ様にして。

  だが、リュイには才能があった。

  更には、行動力も人望もある。

  生憎、そのおかげで軍に入るにあたっての説得もスムーズに進んで行った。
 
  そして、数年が経った時、やっと軍に入れたのだ。

  その時もミルヴィールは報告を続けた。


ーーするとそこには優しい隊長と可愛い少女がやってきた。


  それからは自分がスパイである事をたまに忘れる様になった。


ーー包容力のある隊長から父性を感じつつ。


「この部隊で過ごす日々は、厳しいけど楽しかったから......。」

  彼女はしみじみとした口調でそう言った。


ーーだが、そんなひと時も『帝国』の指令によって現実へと突き落とされる。


  どんなに純粋な気持ちになろうとしても、それを国家は許さない。


ーー父と母という人質を盾にして......。


  その脅迫じみた言葉に彼女は逆らえなかった。


ーー今、両親はどうしているだろう......。


  また幸せな日々が来ると信じて......。
  
  そして気持ちは乖離して行く。

  今の今まで裏切ってきた彼らに対する懺悔の気持ちと共に......。

「だから私の正体がバレた時、あなた達と全力で戦おうと決意した。そして、父も母を助けられなかった、そして、信じている人を裏切り続けた自分に対する天罰を受けようと......。」

  彼女は悲しそうな顔でそう呟いた。


ーー俺はそれを聴き終えた時、彼女を思わず抱きしめたくなった。


  幼い頃から何年もの間、そんな自己犠牲を強いられ、卑下し続けていたのだから......。

  するとリュイは初めて聞いたミルヴィールの心を察したかの様に、ボロボロになった体を無理矢理持ち上げながら言った。

「そんな出来事があったんだね......。私もずっと隠していた事があるの......。」

  彼女のその発言に対してミルヴィールは一瞬ハッとした表情をした。

  そんな彼女の表情を見つつ、リュイは涙を零しながら続けた。

「実はあの時、私は見てしまったの......。ミルヴィールの両親の遺体を......。」

  リュイがそう言うと、ミルヴィールはその場で俯いた。

「なんで今まで話してくれなかったの......? 」

  それに対してリュイはこう答えた。

「だって......。親友の悲しむ姿が見たくなかったから......。少しでもあなたの両親が生きていると言う希望を持って欲しかったからさ......。だから、ずっとその話はしない様にしていたの。」

  それを聞いた時、ミルヴィールは相変わらず俯きつつ、歯軋りを立てながら泣きながら懐中時計を見つめた。

「それじゃ、今まで私のやっていた事は......。」

  そう言ってこれまでの自分の行いを回帰する。


ーーそして、そのまま嗚咽を漏らして泣き出したのだった。


  そんな彼女を抱きしめようと、リュイは動き出した。

「逆にそれがミルヴィールを苦しめていたんだね......。本当に、ごめん......。」

  そう言いながら......。

  それに対してミルヴィールは静かに微笑んだ。


ーーまるで幸せだったあの時の様に......。


  そして二人は近づいて行く......。


ーーだがその時、火の弾丸が勢い良く貫いて行った......。

  それと同時に、彼女はその場に倒れ込んでしまった。


ーー何が起きたか分からず呆然とするリュイ。


  俺はそんな彼女達を見ると同時に、メルパルク山脈の方に目をやった。


ーーすると、そこの中腹からは火の弾丸が止めどなく俺達の方へと発射された。


  桜はそれに対して慌てて壁を作り出した。

  そこに全て弾が当たる事によって、二回目の攻撃は回避する事が出来た。


ーーそして、恐る恐る二人の方へと視線をずらす......。


  すると、そこには血塗れで虫の息になったミルヴィールの姿があった。

  それを見て泣き叫ぶリュイ......。


ーー俺はその光景を見た時に、怒りで体が震えるのだった。


ーー奴らはまだ彼女を苦しめ続けるのか......。


  俺はそんな状況の中で、桜に呟く......。

「ミルヴィールを絶対死なさないでくれ......。」

  それだけを言い残すと、『結界』の張られたその場を後にして、俺は山の中腹へと一人で飛んで行った。


ーー憤る程の怒りを体全身に感じながら......。

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コメント

  • ノベルバユーザー252836

    裏切りがて真相もばれたから帝国がミルヴィールをしまつしようとしたのか。
    テンプレなはなしだなーʬʬʬʬʬʬʬʬʬʬ

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