天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第75話 友情の亀裂。


ーーーーーー

  走り出したリュイは、ミルヴィールを思い切り殴ろうと拳を固めた。


  その拳の先からは『異能』は確認出来ない。

「ミルヴィール、目を覚ませ!! 」

  そう叫んだリュイの声には、何時にもなく力が込もっていた。


ーー俺はそんな彼女から優しさを感じる。


ーーだが、そんな願望にも似た叫びは、直後に鈍い音へと変わっていった。


  ミルヴィールはその拳をあっさり避けると、無表情でリュイの腹部を際限無く『異能』の衝撃波を打ち付ける。

  それを食らったリュイはその場に倒れ込んでしまった。

「全く......。リュイの弱点は、その何処までも真っ直ぐな性格だ......。」

  ミルヴィールはそう呟くと、足元に転がっているリュイの顔面を蹴り飛ばした。


ーーそんな卑劣な彼女を見る度に、俺はここ女が本当にミルヴィールなのかと疑ってしまう。


「こんな馬鹿共だから、私が潜伏してた事も分からないのよ。」

  彼女は俺達のことを嘲笑いながら言う。


ーーそんなミルヴィールは一度下を向くと、一瞬だけ切ない表情を浮かべた。


  だが、すぐに顔を上げると、そんなリュイの後ろにいる俺達に視線を移した。

「私は最初からこのつもりで部隊に入ったのよ。情報を流していたのも私。いろいろと計画が崩れちゃったけど、今からみんな仲良く殺してあげるから。ここじゃ帝国とも連絡は通じないし......。」

  彼女はそう宣言すると、殺意に満ち溢れた表情のままに、両手に水の砲弾を作り出した。

俺はその時思った。


ーー多分、ミルヴィールは俺達に勝てない事が分かっている様子だった。


  むしろ、彼女は死のうとしている様にも思える。

  その何よりの証拠は、小刻みに震えている手にあったから......。

  今のこの状況から考えると、彼女に敵軍からの応援が来る事は決してないだろう。

  ミルヴィールが正体を明かした時点でもう作戦は失敗に終わっているのだから......。


ーーだとしたら......。


  俺はそんな彼女を見ると、失望や悲しみは消え去る。

  それよりも、この子を助けてやりたいという願望が心の奥を支配する......。

  例え裏切りの罪悪感を抱えて生きて行くとしても......。


  そう考えると俺は、徐に水の刀を作り上げた。


ーーそして、彼女がその砲弾を俺達に向け、放とうとした時だった。


  ボロボロになったリュイは懸命にミルヴィールの足を掴む。


「そんな事、絶対に出来ない......。」

  彼女は口から大量の血を吐き、咳き込みながら弱々しい声で呟く。

  それに一瞬気を取られてしまったのか、ミルヴィールの目の前にある水の弾は姿を消したのだ。


ーーそれと同時にミルヴィールは鬼の形相に変化した。


「何をしているんだ!! あんたはもう死ぬんだよ!! 」

  ミルヴィールはそう叫ぶと再びリュイの腹部を蹴っ飛ばした。


ーーだが、リュイはその手を離さない。


「あなたの身に何があったのかは分からない......。でも、一つだけ分かるがあるの......。あなたは、絶対に私達の事を殺す事なんか出来ないんだ......。」

  リュイがそう言うと、ミルヴィールは半泣きになり、

「ふざけんなー!!!! 」

と叫びながら、彼女の事を殴り続ける。


ーーだが、リュイはミルヴィールの足を掴む手を離す事は決してなかった。


  俺はその時気がついてしまった。

  ミルヴィールは、リュイを殺す事が出来ないと......。


  そんな時、ミルヴィールは立ち上がれない程に弱り切ったリュイを殴る事をやめ、息を荒くしてこう怒鳴った。

「私に何があったのかも知らないくせして、分かった様な口を聞くな!!!! 」

  それに対してリュイは顔を上げる。

「あの時だって、今だってずっとそうだ!! あんたはいつも何も分かっていないんだ!! 」

  ミルヴィールは泣きながらそう叫ぶ。

  その言葉を聞いたリュイは、昔の事を思い出すのであった......。


ーーまだ幼かったあの頃を......。

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