天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第74話 何処までも理不尽な。


ーーーーーー

  一度敵軍からの攻撃が静まった山の麓で桜は、すっかり気を失っているグリンデルや部隊の傷を癒していた。

  俺はその間に森山葉月に向けて先程気がついた事を説明していた。

「どうやら俺は、最初から『ヘリスタディ帝国』に目を付けられていたらしい。恥ずかしい話だが、グリンデルから貰ったペンダントによって行動が筒抜けだった様だ......。」

  俺がマジックアイテムを通して彼女にそれを伝える。

  すると、暗い口調で彼女は答えた。

「やはりそうでしたか......。最近の動向の変化には違和感を感じていたのです。しかし、正直なところ、私自身もその事実に気がつく事が出来ませんでした......。まさか、あの時既にグリンデルが操られていたなんて、誰も思いませんからね......。分かりました。キュアリスさんにはすぐに伝えておこうと思いますね。」


ーーそれもその筈だ。


  森山葉月の説明によると、彼の所作は全く昔と変わっていなかったと言う話だ。

  あの洞察力の高い森山葉月すらも騙せる程の完璧な演技だったのだから......。

  ならばそれ以外にいる被疑者を早く探すように伝えねば......。

  俺はそう考えると、森山葉月にこう告げた。

「だが、俺がキュアリスと離れてからの時間も、行動は筒抜けになっている様だった。多分、グリンデル以外にも差し金がいる可能性は高いぞ......。」

  俺のそんな発言に対して彼女は一度黙った。


ーーうちの部隊に関しては、今『結界』にいる事が何よりの証拠だ。


  もし仮に操りによる行為ならば、『魔法』の作用が起こる事はまずない。

  そんな事を考えていると、暫く黙っていた森山葉月はペンダント越しに話し出すのであった......。


「ならば、大変申し上げ辛いのですが......。答えは一つしかありませんね。」

  彼女はそう言い放った。


ーー俺は、そんな彼女の発言の意図する事が分からなかった。


  いや、分かりたくなったのだ。

  俺はそう考えると、たどたどしい口調で彼女に、

「な、何を言おうとしているんだよ......。」

と、取り繕う様に言った。

  すると森山葉月は重たい口を無理矢理開くかの様な口振りで、

「どうやらその差し金は、あなたの部隊の内部に存在するのではないでしょうかと......。」

そう答えようとしたその時だった。


ーー俺の背後から爆音が聞こえる。


  それに対して慌てて振り返ると、そこには今まで見た事がない程の悪意に満ち溢れた表情を浮かべたミルヴィールの姿があった。


  彼女の攻撃は、ミルトがギリギリで押さえ込んでいたので、何とか内部の人間は無事であったのだが......。

「なんで......。」

  俺はそんな状況が全く理解出来ない。


ーー何故なら、笑顔が絶えなかった彼女がみんなに向けて攻撃を放ってきたのだから......。


  だが、そんな事はお構い無しにミルヴィールは不敵な笑みを浮かべて俺にこう言った。

「なんだ......。こんなに早くバレちゃうなんて思わなかったよ......。本当は土壇場で皆殺しにしようと思っていたのにな......。あのクソ軍帥、妙に勘がいいから困っちゃうね。何処までも甘い隊長殿とは全く違うから。」


ーー俺はそんな彼女の発言から、全てを理解した。


  ミルヴィールは始めから俺達を殺すつもりで潜伏していたのだ。

  そんな殺気だった彼女を見ると、深い哀しみを抱きつつ、確認を取ろうと、俺は彼女へとゆっくりと近づいて行った。


ーーミルヴィール、悪い冗談はよしてくれよ......。


  そんな淡い期待を抱いた足取りで......。

  だが、ゆっくりと近づいて行く俺を制止するかの様に、肩に手が乗っかるのであった。


ーーその視線の先にいたのは、リュイであった。


  リュイは俯いたまま、何も言わずに俺の足を止め、そのまま彼女へと向かって行った。

「なんで、どうして......。」

  そんな事を呟きながら......。

  そんなリュイに対してミルヴィールは躊躇なく水の弾を放った。


ーーそれは、彼女の左腕を貫通して行く......。


  だが、リュイはその痛みを感じていない様で、そのままミルヴィールへの足を止める事はなかった。

  そして、目に沢山の涙を浮かべながら彼女に走り出し、そのまま両腕を掴んだ。

「ねえ、これは何かの間違いだよね?! そんな訳ないよな!! だって、私達ずっと一緒だったじゃない!! 孤児院でも、この部隊でも、ずっとずっと......。だから、嘘だって言ってよ!! 」

  そんな必死の嘆願をするリュイに対して、ミルヴィールは一切表示を変える事は無かった。

「何を馬鹿なことを言っているの......? 」

  ミルヴィールはそう呟くと、しがみつくリュイの腹部に水の波動を放つ。


ーーそれと同時にリュイはそのまま吹き飛ばされるのであった。


  ピンポン球の様に弾き飛ばされたリュイを、桜は慌てて『異能』でキャッチする。

「大丈夫......? 」

  桜はリュイを心配そうな顔で見つめる。
 
  リュイは腹部を強打した事により、口から血を吐く。


ーーだが彼女は、それでも立ち上がるのであった......。


  そして、口元の血を一つ拭った後で、俺に向けてこう告げる。

「申し訳ありません、隊長殿。この一件だけは、私に任せてくれませんかね......。」

  彼女は俺に背を向ける形でいる為、表情は見えない。


ーーだが、その背中からは愛する者に裏切られた哀しみを十分に感じられた。


  ミルヴィールがこの『結界』の中にいるという事は、彼女自身の意思によって今、俺達を殺そうとしている事が顕著だ。

  子どもの頃からずっと一緒だった人。

  俺はそんな二人の事を考えると、その提案を否定出来なかった。


「わかった。任せたぞ......。だが、危なくなったら躊躇なく行かせてもらうからな。」

  俺がそう答えると、リュイは俯きながら、

「ありがとうございます......。」

と、呟いて、ミルヴィールへと走り出した。


ーーこんな何処までも理不尽な世界を壊すかの様な足取りで......。

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コメント

  • ノベルバユーザー252836

    内部に裏切り者か、よくある話だな

    0
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